序章 ~12~
「ル、ルキア様を助ければなんとかなるんじゃないでしょうか!」
声を張り上げると、ハルは面倒そうに目を細めたが
「盗賊団の
「な、なんで彼らが魔術を使っているとわかるんですか?」
「あ?
におい?
(この人、耳だけじゃなくて鼻もいいの? 無茶苦茶よ……)
「あのちびっこと違って
「…………」
そこまでわかるのか……。
目を丸くしているトリシアを見下ろし、それからハルは視線を動かした。先頭車両の機関室のある方向だ。
「機関室を
同時にそれを
「ど、どうやって」
「どうもこうも、ここには僕とおまえしかいねぇだろ!」
自分はただの添乗員で、護衛術もろくに知らない。それなのに……そんなことができるだろうか?
「機関室のほうは僕がなんとかしてやる。おまえはあのちびっこか、セイオンの坊主のどちらかを助けろ」
「む、無茶よ!」
「無茶でもやるしかねぇだろ。
まあ、放っておいてもいいことだが……変な
「それは……」
困る。同僚たちの身に危険が
みんなを助けたいという気持ちはあるが、トリシアは自分にできることがなんなのか理解していた。できないことはできないと、脳がはっきり
(ルキア様を助ければ間違いなく優勢になる……! でも私にできるの?)
どんな薬品を使用されるのかわからないのが不安要素だった。人体に害が出るかもしれない可能性も、充分にありえる。
「…………」
唇を軽く
「……やれるだけ、やってみます。勝算があると思ってよろしいですか?」
「さあな。まぁ……機関室は取り戻してやる」
自信満々に言ってのけるハルはトリシアの
「な、なんだ!」
「いえ……ミスターは、剣士でも魔術師でもないのに……勇気がおありなのだと思いまして」
「ばっ……! な、なに言ってるんだ!」
真っ赤になるハルが
(……見た目と違って性格は素直なのかしら……)
「ミスターはその、やはりトリッパーでいらっしゃるのでしょうか?」
「……それが今、関係あるのかよ?」
トリシアの質問に彼は不機嫌そうな声で
(……やっぱり隠したいことなのかしら。べつに
でも……。
(これは絶対にトリッパーに違いないわ。
*
闇夜の中、トリシアはごくりと
(無茶苦茶よ!)
作戦を提案したハルのほうを
(……ラグかルキア様を助け出せればなんとかなる……!)
暗示のように自身に言い聞かせ、呼吸を整える。
横のハルを見上げる。
「いいわ……! 行きましょう!」
「…………」
ハルは目を細めると、ばさりと
「行くぞ!」
合図と共にトリシアは彼の体にしがみついた。
ぐん! と、突然上空に引っ張り上げられた。がくん、と今度は肉体に
風が顔に当たって痛い。
「重い……」
低い声で文句を言うハルは、ばさりと
(う、浮いてる……! 本当に!)
信じられないことだ。魔術だって人体浮遊はできないというのに!
これがトリッパーの……
「機関室はあそこか。確かに外からしか行けねぇな……。
あのセイオンの坊主と、ちびっこ軍人は……なるほど、あそこか」
ハルが、とんっ、と軽く宙を
(ひゃあああああああああああー!)
内心で悲鳴をあげてしがみつくトリシアのことなど気にせず、機関室目掛けて一気に降下する。
衝撃がくる! と身構えていたのに、それはなかった。直前でハルが方向を変えてトリシアを
機関室へと
「いけ!」
命じた声に
霧は一度室内に広まると、急速に収束して幾羽もの
ハルが軽く手を振ると、
「わああ!」
「ちょっ、なんだこれ!」
「切っても切っても……!」
霧でできた
混乱して剣を振り回す男たちの間をハルがづかづかと進んでいく。そして男たちに足を引っ掛けて転ばせていく。
転倒した男たち目掛けて
「ふん。大人しくなったな」
完全に気絶してしまった盗賊たちを見遣り、ハルは鼻を鳴らす。
呆然としているトリシアを
「なにしてる。さっさとそいつらを縛り上げろ!」
「あ、はい!」
「チッ」
舌打ちするハルは嘆息し、
「あの、ミスター、顔色が……」
心配してそっと手を近づけると、彼はハッとして顔を赤らめ、すぐさま後退した。
「寄るな! それより早くこいつらを縛り上げろ!」
「あ、は、はい!」
トリシアはてきぱきと持って来たロープで男たちを縛り上げていく。なるべくきつく、ほどけないようにと
機関室はこれで取り戻した。
ハルはあれこれと室内を眺めていたが、引き戸を開けてから敵を待ち構えるような
「ミスター、何を……」
「入り口が
それより、魔術機関はどうだ?」
機関室にある、動力源である魔術機関をトリシアは見遣った。魔術の知識は少ししかない。けれども、この列車の乗務員として最低限の情報は
魔術機関の魔術式はぼんやりと淡く光り輝き、陣の構成をありありとトリシアに見せていた。それはいつも見るものとは違う構成術式!
「進路は変更されています」
「おまえは、直せそうか?」
「無茶をおっしゃらないでください! 私はただの添乗員ですよ!」
「チッ。まあそうだろうな」
わかりきっていたのだろうが、確認のために
「……機関室だけ連結がもろに見えるんだな」
「そりゃ、乗客の皆さんはここには立ち入り禁止ですし」
「レトロだな。僕の世界の列車も大差ない」
小さく
「仲間がすぐに来る。おまえは霧にまぎれてちび軍人を助けに行け。セイオンの坊主でもいい」
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