序章 ~13~
「一人でですかっ!?」
無理だ無理!
「あいつらさえなんとかすれば、乗客は助けられるだろ。ったく……なんでことしなきゃいけねーんだよ」
ありえねぇ……と、彼はぼやく。
「おい! あそこにいたぞ!」
声が聞こえてきて、トリシアは反論する間もなく黒い霧に
連結場所がある引き戸を目指し、なるべく壁にそって歩く。
黒い霧の中では、車内の叫び声や混乱した動きが伝わってくる。この騒ぎに
こんな狭い場所では逃げるところもない。仕方なく、車両の壁に張り付いて進むことにした。すでにハルの作った霧は消えている。
(まさかこんなことまでする
大昔、えんとつ掃除を手伝っていたことが役立つなんて!
教会で暮らしていた時、
風圧がすごい。これでも速度は
手で
次の連結部分までなんとか到着し、やっと一息ついて車内を
(ここからどうすれば……ルキア様もラグも、捕まってるのは二等食堂車なのに……)
いくらなんでも、ここからでは遠すぎる。
考えていると、ぐらり、と列車が揺れた。何かを破壊する音だ。
(えっ、なに? なんなの?)
「っ!」
あまりのことに声を失っていると、それは闇夜でそう見えただけで、本当は車両の天井部分が
だが天井部分だけではない。車両の上半分が被害に
(な、なにあれ……)
顔に
すると、突っ立っている人物が見えた。
長身で、黒い
(! ラグ!?)
彼の肌を
そんな笑みの後に
車両と車両を
(
無我夢中で向かうトリシアは、次々と引き戸を開けて進む。そして、そこに
天井のない車両。そこに立っている長身の青年。
床に転がっているものは、盗賊たちのようだった。彼らは皆、うめき声をあげている。その中には『雲わた』のメンバーもいる。
暗い瞳で立っているラグが
長い髪をはためかせ、ルキアは右手の人差し指と中指だけを立てて攻撃態勢に入っている。
「ルキア様!」
声を大きくして叫ぶと、彼は肩越しにこちらを見遣った。同様にラグもこちらにちらりと視線を
「……トリシア、無事だったのですか。安心しました」
軽く微笑むルキアは、視線をラグに戻した。ラグもまた、ルキアに注意を戻す。
「盗賊たちがラグを痛めつけた際に、彼の
剣を構えるラグに、素早くルキアが指先を向けた。
「『走れ、
短い
(す、すごい、ルキア様!)
戦い慣れをしているルキアはラグとの距離を
逆にラグは距離を
ドアにもたれながらトリシアはごくりと
(あっ、わ、ああ!)
よろめきつつ、トリシアはドアにしがみついた。きっと機関室で何かがあったのだ。
(……ミスター!?)
振り返り、戻るべきかを考える。
だが自分が向かっても足手まといにしかならないだろう。
しかし、と思って視線を戻す。ざっくりとなくなっている天井を見上げると星が見えた。
(これ……ラグがやったのかしら……)
状況からしてそうだろうが……
あの黒い包帯がきっと理由なのだろうが……封印するほどの何かをラグが
どちらも仕掛けるタイミングを待っているようだ。
「『
先に仕掛けたのはルキアだった。彼は素早く呪文を
「『
ごうっ、とルキアを囲んでいた炎が
驚いて身を固くするラグが周囲を見遣る。戸惑いを隠せない彼は低く
「もう大丈夫ですよ、トリシア」
声をかけられて、
彼はその場で肩越しにこちらを見遣り、微笑んだ。
「あのまま燃え続ければラグは酸欠になって意識がとびますから、このまま放置しておきましょう。
盗賊たちを縛り上げるのを手伝ってくれますか?」
「え? あ、は、はい」
呆然としたままそう答えると、ルキアがくるりとこちらに体全部を振り返らせた。この場に不似合いな、可愛らしい動きだった。
「大丈夫。自分がついていますよ、トリシア」
その言葉に、苦笑いがつい、
*
無事に盗賊たちは捕まえられ、次の駅で軍に引き渡すことになった。手引きをしたのは『雲わた』のメンバーだったことが判明。
列車はトラブルも起きたが、なんとか
次の駅では二等食堂車を切り離し、修理に出すことになった。二等食堂車は帝都に着くまではないことになり、二等客室に泊まっている客たちは一等食堂車で食事をすることになった。
ラグは意識を失い、その後ルキアがなにやらしていたおかげか、傷だらけではあったが元気になった。
ハルのほうは車掌のジャックに散々感謝されていたが、あまり他人と関わりたくないのか、不機嫌そうに鼻を鳴らして自室へと戻ってしまう。
(今回の旅は、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます