序章 ~07~
嘘を言っているのがそもそも引っかかっているらしい。誰しも隠したい事情があることがあるのだと、ルキアは理解していないようだ。
それもそうだろう。彼の学歴や出生には、曇りなどひとつもない。隠し立てするようなことがないから、後ろ暗い者の考えがわからないのだ。
「なぜ嘘をつくのか、自分にはわかりません。異界から来て、誰かに
政府はあなたたちの身柄を保証しているはずです」
「おっ、おまえ……!」
さすがにハルがこめかみに
「ダメですよ、ルキア様! ひとには触れて欲しくないことがあるものなのです! 傷に塩を
「えっ」
驚いたように目を見開くルキアは動きを止め、振り
「そう、なのですか? ハルは故郷のことを知られたくないと?」
「? そ、そうじゃないですか、どう考えても」
どうやら今までの言動から、まったくそうは思っていなかった様子だ。ルキアはハルに視線を戻し、
「申し訳ありません。うるさい、あちらへ行けとばかり言われていたので、話したくないとは思いもよりませんでした。謝罪いたします」
「自分はどうも、言葉を
気が済まないようでしたら、殴ってくださってかまいません」
体育会系の解決方法を
ハルは困惑し、眉間に深く
「……子供を殴れるか!」
怒鳴り、ハルは
残されたトリシアは
ルキアは姿勢を正し、悲しそうに眉をひそめる。
「……失礼なことをしてしまいました……」
「ルキア、元気だせ」
「ですが……」
ラグの
「ラグ! 自分を殴ってください!」
「だめだめだめですーっっ!」
二人の間に割って入り、トリシアは両手を左右に広げた。無茶苦茶するのもやめてほしい!
「なんなんですか、すぐ殴るとか!」
「……いえ、
さすが軍人、と感心してしまいそうになる。女の子のような見た目と違って、ルキアはかなり体育会系な育ちのようだ。
だが、ラグのような傭兵が殴ればきっとルキアは吹っ飛ぶだろう。そんなこと、自分の目の前でさせるわけにはいかない!
「そういう乱暴な解決法はいけませんよ、ルキア様!」
「そ、うなのですか?」
首をちょこんと
ラグは少し目を見開き、うん、と
この妙な空気をなんとかするべく、トリシアは話題を振った。
「そういえば、もうすぐエキドの
「トリシアも来ませんか?」
…………は?
ルキアの
「いつも車内でお仕事ですから、気分転換をしましょう。だめですか?」
「……あの、自由時間は確かに
ブルー・パール号に限らず、各列車は大きな街の駅では停車時間を長くしている。さすがに1日も停車はしないが、最長で6時間は停車することもあるのだ。
(そ、それにエミリ先輩と一緒に買い物する約束……)
「すみません。また立ち入ったことをしてしまったようですね。
では我々だけで行きましょうか、ラグ」
「ああ」
こっくりと
横を通り過ぎる時、小さな声で「すみません、トリシア」と
(…………いい子、なんだけどなぁ……)
気分転換にと誘ってくれたのも、本心からなのだろう。彼が乗客で、しかも自分との身分に差もなければもっと気軽に声をかけられるのかもしれないが……無理な話だった。
弾丸ライナーは乗り込んでくる客は前もって車掌に知らせが入り、乗車、降車の客がいない駅は通過するようになっている。
各駅停車をするのは一般的な列車のみで、トリシアは
エキドの街は荒野の中でも護衛をきちんとギルド『
(なぜ……)
困惑した表情で、乗務員たちの買い物を済ませているトリシアは、少し離れた場所にいるラグをそっと見た。
彼はいつもの
治安がいいとはいえ、エキドの街は商人も
(ラグが……?)
だらだらと汗を流すトリシアは買い物袋を両手で
彼は不思議なことにそれほど目立ってはいない。……なぜだろう。
そもそもラグもルキアも、自分に親切に接してくる理由がわからない。ルキアは気まぐれだろうが、ラグはそれに便乗している……とも考えられるが。
(そういえば嫌われたくないって言ってたわね)
……もしかして、友達とかいないのかしら。
嫌な考えに至り、
買い物を
「ら、ラグ?」
思わず素で名を呼んでしまうと、彼は無言のままにこっと愛想のいい笑みを浮かべた。
「買い物、終わったか?」
「…………あの、いくらなんでも、簡単に引き受けすぎだと思うんですが」
「? なにがだ?」
思わず彼の顔を
彼がトリシアの護衛についているのは、乗務員たちから頼まれたからだ。つまりこれは金銭の発生する仕事なのだが、彼はそれを断って自主的にトリシアについて来ている。
「ルキア様と一緒に行くんじゃなかったのですか?」
「ルキアは軍の、連中、用事ある」
つまり、ルキアはここに
確かに軍に関することなら、傭兵であるラグはそこに立ち入れない。帝国軍は大きな街には必ず駐屯地があるのだ。
どんっ、と軽く誰かにぶつかられて
彼はひょいと何かを
「はっ、放せよ!」
手足をばたつかせる少年を軽々と頭の高さまで持ち上げるラグは、彼をじぃっと見つめた。
「おまえ、盗んだものを出せ」
「えっ?」
驚くトリシアが自分の
あの一瞬でトリシアを
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