第22話


 無事に大特の免許をゲットし、成人式も乗り越えて、私がやってきたのは千葉のお祖母ちゃんの家だった。コンバインを乗り回して日銭を稼ぎ、すてらで金平糖を買う日々がのんのんと続く。最近は平成ライダーを見ててクウガに嵌った時に『ゴゴゾルドバギング』とか言われた時はとうとう頭まで星になったかと思ったほどだった。失礼ながら。

 久しぶりに買った十円ガムを風船にしていると。横から噛み付かれてしぼまされる。汚いだろうにそのしぼんだ風船をあむあむと食べて半分こ、とかになっているのを中学生に見られたときは、ちょっと死のうかと思った。芥辺君今見たことは忘れるんだ良いね。金色の金平糖が欲しいと思ってしまったのは秘密である。

 テルの体調も落ち着き、頬を赤らめながら飛んだ失礼を、と言われた時には、正直可愛くて死ぬかと思った。サムズアップすると返してくれたのはメルク。大方あったこと無かったこと吹き込んだんだろう。四六時中入り浸ってるわけじゃないから私にも真偽は不明なとこもあるし。やっぱりテルに一番近いのはメルクなんだろうな。と思うと、星になれるかも解らない私はちょっと羨ましくなる。出来るなら私も観測者レベルの小さな星になりたいな、なんて思っていると、ぽりぽり食べてた金平糖がそろそろ少ない。まだビデオに釘付けのオーナーを放っておいて、私は金平糖を取りに行く。

 そして沸いたのは、悪戯心だった。

 下の方にピンクのをいくつか、上には赤をざーっと掛ける。これでアムールの味が解るようになるだろう。トワにお代ここに置いたからね、と言うと、ひらひら手を振って長い身体を座敷に伸ばしOP熱唱中の彼は私に応えた。ばれない。メルクもだけど、トワも大概私を信用し過ぎだと思う。いつか痛い目に合うんじゃないだろうか、心配だ。

 と、犯罪者の方の私が思うんだから、この星は仕方が無いと思う。お祖母ちゃんの家に帰り、お風呂は残り湯で済ませ、ちょっとシャギーを入れて量が減った髪を洗う。長さは同じだ。なんとなく、その方が良いような気がしたから。別にヘルメットから零れる長い髪がきれいだった、何て戯言を信じている訳じゃない。そもそも本当に私のことどうこう思ってるのかも解らない。べたべたしてはいるけれど、どこかで私達の関係はドライだ。乾いてる。それで良いんだと思う。ぬか床の様子を見て、畑の見回りに出る。お祖母ちゃんは稲作と落花生作りをしているので、流石に農繁期はくたくたになるけれど、ピーナツハーベスタが来てからは大分楽になったという。ようは拾い上げてベルトに流す機械なんだけれど、不純物や腐ったものの見分けは結局人間がやらなきゃならないから、慣れていない人間にとってはそんなに楽でもない。ひゅ、と冷たい風が湯上りのうなじを駆けるのがちょっと嫌だけど、不審者討伐にちゃんと安全靴も履いてきたし、大丈夫だろう。

 終わったらご飯を食べて、洗い物を請け負ったら就寝だ。農家は忙しい。でも継ぐと決めたからには、毎日お祖母ちゃんこと先輩を見習わなきゃならない。


 でも今日は、寝る前にちょっとだけ。


 明かりを点けた客間は大分私の部屋になってきている。とは言えあるのはライダースとノートPCぐらいだ。お祖母ちゃん結構ハイテクしてて、農家ブログも更新している。世に言うコンピューターおばあちゃんだ。何だこんなもんタイプライターみたいなもんじゃろ、の一言でだーっと長文を打ち込んでいくのには、孫、正直驚いたよ。タイプライターって見たことないけど、漢字変換とかは出来ないよね、多分。そうなるとやっぱりコンピューターおばあちゃんだ。ちゃんと私の顔にはスタンプ入れて隠してくれる辺りもプロだと思う。個人情報はなるべく流さず、千葉の片田舎としか書かない。お祖母ちゃんっょぃ。

 とまあお祖母ちゃんのことはさておき、私は文机に置いたティッシュの上に今日買ってきた分の金平糖をさーっと出してみる。パッションが多いからアムールを探すのはちょっと手間だったけれど、どうにか五粒見付けられた。

 さてどうしよう。一気に食べるか一粒ずつ大事に食べるか。とりあえずは一粒かな、と私はそのかわいらしい星型を手に取ってみる。ころころしてて甘そうなピンクは、単純にデザートとしても美味しそうだった。働いた後の飯は美味い。甘味はなお美味い。労働の後の甘さの良さを知ってしまった貪欲な私は、とりあえずその一粒を口の中に放り込んで、舌の上に乗せてみる。


 溢れたのは甘い甘い味。

 驚くほどに甘い。

 でもそれ以上に。


 思い出される色んなこと。小道から這い出すようにバイクですてらに行ったこと。星の街で謎解きに頭をに悩ませたこと。囲碁さんと遊んだこと。フーセンガムの膨らまし方を実地で教えられたこと。色んな思い出がザーッとソーダ水の中を流れるみたいに頭の中を走っていく。キス。キスされた。そうだ、私はあいつからキスされてる。今だってガムの分け合いは殆ど口移しだ。飲ませようとしたアルコール。カルアミルクよりずっと甘い。ピニャ・コラーダよりもっと。ずっと甘い。顔が火照るぐらいに、甘い。アムール。愛。これは。

 これはもしかしたら、トワからの私への気持ち?

 だとしたら。

 私はパッションも口に含んでみる。

 喉が焼けるぐらいに、甘い。

 吐き出したいほどじゃないけれど、その甘さは殺人的とも言えた。甘い。愛と情熱が絡まり合うとこんなに甘いものなのか。自分でも信じられないぐらい、頬が熱くて、涙が出て、堪らない。こんな思いをトワは私に抱えていた? 私からは全然、解らなかったけれど。いや違う。解ろうとしなかったんだ。愛とか恋とかそういう物から、私は逃げて来た。大好きだったお兄ちゃんの突然の喪失が原因だったんだろう。私はそういう感情から逃げて、逃げ出して来たんだ、今まで。だから本当の愛なんて知らないし解らない。不良だった私にはろくな友達もいなかったから、恋バナなんてのも遠い世界の御伽噺だと何処か見下していた。でもその思いがこんな味の、こんな甘さだなんて。こんなに心地良い、胸を満たすもので、甘く喉を焼くものだなんて、知らなかった。知らなかったでは済まされないほど、私はトワに愛されていたのか。お母さんが全部食べてくれて良かったかもしれない、ある意味。こんな一袋も食べたら頭が爆発しちゃう所だった。一粒で良い、一粒で限界。そんな思い、堪らない。

 なのに私の頭を無視して、手は残りの四粒を取る。そして一気に食べて、噛み砕いてしまう。アムールが溢れ出してくる。気持ち良い。心地良い。甘い。トワと会ってからのことを次々と思い出す。夢が無いから星の観測者になれるのだと言っていた。どこにもいないと言っていた。確かに彼から星は観測出来ても、彼を観測するのは無理なんだろう。恒星なわけでもないし、元々金平糖みたいに小さな星屑なのだと言っていた。テルもそうだ。メルクだけが違う。惑星。観測できるけれど、水星の観測はとても難しいらしい。少なくとも地球からは。地平線の近くに煌めく星。幸せになろうと言っていた、テルとメルク。いつか来る別れがあっても、優しい思い出になりたい。

 お兄ちゃんのことは私にとって、優しくも苦しい思い出だ。百合籠翁と過ごした短い時間ですらもそう。死んでいった人間は絶対だ。眩しくて手が出せない。だけど。だけど、でも、と私は言うんだ。それでも優しさを過剰評価しちゃいけないし、苦さを過小評価してもいけない。兄に殴られたり蹴られたりしたこともあることは忘れちゃいけないし、チキンランなんて馬鹿なことやって水に沈んだことも忘れちゃいけない。私自身も馬鹿だけど。馬鹿なりにやっていきたいこともある。だから愛しさを忘れちゃいけない。情熱を忘れちゃいけない。見下しちゃいけない。私は。私は、トワのことが。


 きっと好きなんだろう。愛しているんだろう。甘さに流されたんでなしに、本気で。


 不毛な恋をしているのは自覚していた。でもその大きさまでは解らなかった。何となく好きなんだろうなあと思っていただけだった。だけど今、それは砕け散った。愛と情熱に突破されて、怒涛の自覚を迎えてしまった。星よりも大きな思いを持っているんじゃないかなんて自惚れたことを思ってしまうぐらいの、自分の感情の本流。

 いつかごろごろと私の星に懐いていたトワを思い出す。もし伝わるのなら。

 私は着替えてこっそりお祖母ちゃんの家を抜け出し、鍵を掛ける。それからすてらに向かった。裏口から明かりが漏れているし、今日も何か特撮を見ているんだろう。でも作り物の夢物語は彼を満たさない。だからあんなに集めてるんだろう。夢を見せてあげたい。夢のない大人だと言った彼に、もしも出来るならば。

「カナちゃん?」

 ぜーぜー言いながら涙目で裏口を開けた私に、きょとん、とした眼が向けられる。金髪碧眼。異人の駄菓子屋。今日の着流しは藍色。ごろごろしながら今日食べてるのはチップスター。ぺろっと指をしゃぶる仕種に、その舌に、ドキッとする。私の中に入って来たのを思い出して、無駄に緊張する。不毛な恋だった。不毛すぎて考えるのをやめていた恋だった。でも、今の私は考える。そして言える。


 保志エトワールが、私は好きだ。


 他の誰でもなくこの人が、私は好きなのだ。この星が。眼には見えないけれど、きらきらした金髪が代わりになってくれるだろう。碧眼が代わりになってくれるだろう。だから私は座敷に上がり込んで、シャツをたくし上げる。寝る前だったからノーブラだった。へっと顔を赤くする間もなく、トワのこめかみの星に自分の星をくっつける。なんとなくすべてはそれで伝わる気がした。

「っ……カナちゃん、ピンクの金平糖食べたでしょ」

「食べたよ。ちょっとだけ」

「量は関係ないよ、僕の思いがこんなに入ってるなんてッ」

「自惚れないで。全部自分の感情の反射だとでも思ってるの? 私の感情もちゃんと見て。不毛な恋だと思ってた頃の私も見て。でなきゃ釣り合わないよ。隠してたこと。お互いに」

 ぐっと黙ったトワは、私の心音を聞いている。自分でも解るぐらいどくどく言ってた。これが無くなってしまった人を知っている。お兄ちゃん。百合籠翁。囲碁さん。でも私はまだ止まらない。トワはもっと止まらない。星の鼓動は煌めくだろうか。今この夜空に少しでも、煌めきを発するだろうか? 解らない。でもやってみる価値はある。お腹がちょっと寒い。でも私は抱き締めたトワの頭を離す気になれなかった。

「……卑怯だ、カナちゃん」

「卑怯でも良いよ」

「ずるい」

「ずるくても良い」

「良くないよ……」

 背中を抱き締められて、胸の下に本格的に潜り込まれる感じがする。んッと声を上げると、トワの頬の熱がお腹に伝わった。私も恥ずかしいんだから同列だ、こんなの。こんな恥ずかしくて、でも見せたくて知らせたくて堪らない気持ち。こんな思いがあるなんて知らなかったんだ、私だって。こんなに人を恋することが胸を熱くするなんて、知らなかったんだ。

 でも今は知っている。今私は、トワを愛してると胸を張って言える。この胸で考えた結果の感情を、声を張り上げて言える。いつからだったかなんて関係ない。いつも会ってた異世界の街で、思い出を積み重ねて、観測した結果だ。私はあまり考えて来なかったこと。今は考えることを知ったこと。好き。好きだよトワ。だから教えて。トワからも、伝えて。

 思った瞬間、感情が逆流して来るようにトワの星が光る。

 でもそれは金平糖と同じ甘さだったから、なんとか声を上げるのは耐えられた。甘い、愛と情熱。愛と恋ってどう違うんだろう。動物愛はあっても動物恋は無いよね、普通。愛。愛してる? 恋してる? 不毛な恋。情熱的な愛。それは絡み合うことが出来るもの? 触れ合うことが出来るもの? 解んない。だから教えて欲しい。

 私達のこれは、この感情は、情熱的な恋になれますか?

「カナちゃんの鼓動……気持ち良い」

「ん」

「それに柔らかい。あったかい。擽ったい」

 擽ったいはこっちのセリフだと思う。

「カナちゃんの星、眩しい」

「トワの星は?」

「多分、眩しい」

「誤魔化さないで」

「今にも赤色巨星化しそう」

「死ぬな」

 ぺちっと頭を叩く。

 くすくすトワは笑っている。

「そっかぁ。カナちゃんこんな気持ちでいてくれたんだ。じゃあピンク解禁にしても良いかなあ、もう」

「二度とあんな思いをするのは御免です。本当、ちょっとだけで良かったよ、もう」

「そんなに強烈だった?」

「後にパッション食べたら死ぬかと思った」

「それは食べ合わせ悪いよ。だから分けて渡してたのに」

「こんなことになるなんて思ってなかったんだもん」

「言い訳には、なりませーん」

 くすくす笑うトワはやっと私からこめかみを離す。自然と私のシャツも戻って、お腹の冷えは改善された。

「いこ?」

 手を取られて定位置の新聞紙を踏んで、招かれるのは襖の前。うん、と返事をして私は星の街に足を踏み入れた。


 いつもより夜空が綺麗に見えたのは、気持ちの問題だろうけれど、それでも良かった。


 トワに手を取られてこの街に足を踏み入れるのは、もう何度目だろう。何度この世界を行き来してきただろう。悲しいこともあった。楽しいこともあった。そろそろお酒解禁しましょうか、と言われて、一番最初に飲んでみたのはバーボンソーダだった。結構きつくてトワが意外と酒飲みなんだと知った。ノンアルコールは飲み尽くしたと言っても良い。今でも基本はコーヒー牛乳かカルアミルクだ。酔っぱらうとお酒を飲まないお祖母ちゃんに怪しまれる。近所に居酒屋は一軒しかなくて、そこには入ったら一発で顔を覚えられる。髪の色が薄いから。若い女が少ないから。でも星の街ではそんなの気にされたこともないっけな、そう言えば。遺伝子のちょっとした反乱じゃろ、とさらり片付けてくれたのは囲碁さん。どうしてるだろう。剥がれて行ってしまったとは言うけれど、まだどこかを流れているだろうか。こんな街に出会えているだろうか。一人ぼっちは寂しい。どこかの星にくっ付いていると良いな。でなければ流れ星になって光になって欲しい。それが彼らの願いだから。光になることが、彼らの願いだから。私にはちょっと寂しくても、彼らには至上の望みだと言うのなら、そうなっていて欲しい。

「あら兄さん、カナさん、いらっしゃいませ」

「テル。オレンジブロッサム二人分」

「あらあらあら。とうとうやったんですか、兄さん」

「いーや、先を越された。でもどうやら物語はハッピーエンドだったようだ」

「あ、メルク、椅子ありがとう」

「今日はじゃんじゃん飲んじゃうぞー!」

「酔っ払いは嫌いだなあ……」

「あっカナちゃん嫌いとかひどいこと言った! 恋人様は悲しくて泣いちゃうぞ!」

「「「恋人ォ!?」」」

 バルの全員が異口同音に言う。

「じょ、嬢ちゃん恋人とはあれか? アモーレでアムールなあれか?」

「アレとか? アレでええんか?」

「この爺さんの方が魅力はたっぷりじゃぞい」

 さりげなく口説かれたのを華麗にスルーして苦笑い。私は自分のグラスに注がれたオレンジジュースのカクテルを一口飲む。甘い。くーっと一気にすると、ぷはあっと良い感じに自分からも酒臭い匂いになった。そしていつものコーヒー牛乳。テルは足元の冷蔵庫から牛乳を取って、IH式らしいヒーターの上にカップを置く。それからコーヒー作りだ。豆をザーッ。うん、良い匂い。

「トワー! わしらの嬢ちゃんに何をしたー!」

「嬢ちゃん独占反対じゃー! 禁止法じゃー!」

「メルクすらテルちゃん独占禁止法を守っとるのに兄貴分がどういうことじゃー!」

「そうじゃそうじゃー!」

「テル独占禁止法なんてあったの?」

「あったみたいですね。私も今初めて知りました」

 くふくふふっと笑っているテルに首を傾げると、だって、と左胸を指さされる。

「兄さんの星もカナさんの星も、光りっぱなしなんですもの」

「……シャツの上からでも解る?」

「ええ、はっきり」

 明日は朝一番で作業着着よう。お祖母ちゃんにも星はあるのかな。だとしたらどこで考えているんだろう。身内のそれをを考え出すと、くすくす笑えた。それがお爺ちゃん達を余計絶望させたらしい。嬢ちゃんがあんなに幸せそうに笑っとる、なんて。私は幸せな時にしか笑いませんよ、と言うけれど暖簾に腕押し糠に釘、二階から目薬の様子だった。って言うか、思えばちやほやされてきたもんなあ。そりゃそれが水の泡になったら凹むかあ。

「ピクロスさん達はどこまで解けました、本」

「半分ほどじゃが、今夜からペースは落ちそうじゃ……嬢ちゃんがわしにテキーラサンライズ作ってくれんと駄目じゃー」

「わしはバーボンで」

「ウォッカ」

「うおっ身内扱いになったら容赦なく使ってきましたね。テル、ウォッカとバーボンお願い。あとテキーラサンライズのレシピ教えてー」

「はい、こちらになりますっ」

 分厚いカクテルノートを見ながら私もバーテンダーごっこをする。こんなの素人に作らせたって美味しくないかもしれないのに、冒険者だなあ。冒険。そうか、彼らは星の冒険者なのかもしれない。惑う星、流れる星、動かない星、剥がれる星、光になる星。みんながこの街に集っては離れて行く。それは切なくて苦しいこともあるけれど、明るくて素敵なことであることもあるかもしれない。

 トレイに乗せたコップがひっくり返らないようにしながら運んでいく。ピクロスさん達はうんううん頭を叩きながら、コップを受け取っていく。囲碁さんだったら何を頼んだだろう。やっぱりピニャ・コラーダかなあ。粋なお爺さんだった、思えば。

「のう、嬢ちゃん嬢ちゃん、囲碁が打てるというのは本当かね?」

「え、はい、打てますよ」

「じゃあちょっくら相手をしとくれ。あんたの良い人はまだまだ突き上げを食らっとるようじゃしなあ」

 見てみるとカメラを向けられた芸能人がノーコメントを貫き通す様子が見られて、ちょっと笑えた。囲碁か。お祖父ちゃんとのネット対戦もしばらくしてないし、一局打って行くのも良いかな。

「では白石にて」

「白はわしで良いよ。お前さん、あの囲碁好きに一勝も許しとらんかったじゃあないか」

「囲碁さんのこと、知ってらっしゃるんですか?」

「お前さんが来るまでは、唯一の対戦相手だったからの」

 ほっほ、と笑ったお爺さんは、サンタクロースみたいな髭を生やしていた。

「ではどうぞ、サンタさん」

 夜更けまで騒ぎは続いて、私は久しぶりに勝利の美酒を楽しんだりした。

 オレンジブロッサム。

 後で調べてみると、結婚式でよく飲まれるカクテルらしかった。

 ……あのバカ。

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