第2話


 さっきまで雨が降っいたのは確かだけれどそれでも空は曇り空で、今は青をのぞかせているぐらいだった。なのに襖の向こうは完全に夜の様相を呈していて、完全にこちら側と切り離されている。向こうに路地があった記憶もない、なのにバルの看板が点滅したり星空が見えたりして、そっち側は完全に夜だった。ナニコレ。おかしいでしょ、と思わずグローブ越しに頬を引っ張ってしまう。痛い。ということはそこから入ってくる風も本物なのだろう。

 私の脇をすり抜けてよいしょ、と下駄を履いたエトワールさんは、表に出てシャッターを下げる。鍵をしっかり締めて、それからまた座敷に戻って来た。私は混乱をどうにかするべく取り敢えずヘルメットのガード部分を上げてコーラガムを食べる。美味しい。風船は作れないけれど、風船ガムの弾力は好きだった。しかし高速でもぎゅもぎゅとやっていると味が抜けるのも早く、ただのゴム状になってしまったところで紙に吐き出しふう、と一つ息を吐くことにする。それが何になるかは解らないけれど、落ち着いたふりは出来た。すてら。ステラ。どこかの国の言葉で『星』の意味だったと思う。昼も変わらず星空の続いてる、だから、ステラ?

「暑そうだしヘルメット脱いじゃえば?」

「あ、はい」

 言われるままフルフェイスのヘルメットを脱ぐと、首に巻き付けていた長い茶髪もほどける。ほ、とエトワールさんが驚いた顔を見せた。

「綺麗な茶髪だねえ。天然だね?」

「は、はい、よくお分かりで」

「星の絵の具では斑が出来てしまうものさ。さてどうするね? こっちへ来るかい?」

 下駄を向こうの路地に下したエトワールさんの言葉に、

「はいっ」

 私は無駄に元気に返事をしてしまった。

「靴はそのままで良いよ、どうせ汚れたってだれも困らないからね。僕がちょいと気を付ければ良いだけだ。最短ルートはこちら。新聞を島代わりに渡ってくれば良い。はい到着だ、プリンセサ」

 お姫様なんて柄じゃないのは自分が一番良く解ってる分気恥ずかしかった。これは何語だっけ、スペイン語? 言語体系が良く解らない人だ。

 思いながら安全靴を襖の向こうに、そっと下ろす。

 ぱきんっと音を立てて石造りの路地が鳴った。

 一瞬光って、そして消える。

 空を見上げれば、満天の星。だけど知ってる星座は一つもない。北斗七星すらも。

 ここは――どこだろう?

「さ、ゆっくり出来る訳じゃなし、さくさく行こうか」

「えぁ」

 とん、と背中を推されてたたらを踏むとまた足元で小さな光が産まれて消えた。


 連れ込まれたのは瀟洒なバルだった。そこでは頬に小さな星の入れ墨をしている女の子がバーテンダーをしていて――あら、とこちらに気付くとにっこり笑う。

「兄さんが他人連れなんて珍しいですね。しかも不思議な所に星がある」

「だろう? 今日の謎を届けてくれた代理依頼人だ、くれぐれもアルコールは飲ませないように」

「じゃあノンアルコールで……お姉さん、モモは平気ですか?」

「えぁ。は、はい。大好きです」

「それは良かったです。丁度入った所だったので、それをベースにチャチャッと作っちゃいますね。兄さんはなしですよ。謎が解けるまで」

「厳しい妹でしょう?」

 話を振られても、会って一分の人にそんなことは言えない。妹さんも日に当たったことがないような柔らかい金髪をしていた。長いそれを花のように綺麗にまとめている。職業と手先的に私にはできない芸当だな、と思っている間にトン、と黄色い熟しきってない缶詰のモモを砕いたものがベースのカクテルが出て来る。

「さ、兄さんは仕事仕事」

「はいはい。ご老人方、今日の謎が届きましたよ!」

 エトワールさんが声を掛けると、静かに飲んでいた好々爺と思しきお爺さん達がギラッと眼を猛禽のようにさせてエトワールさんの持つ書類に向ける。正直ちょっとびくっとなった。それを妹さんが、大丈夫ですよ、とフォローしてくれる。

「皆さん退屈してるからパズルや暗号が大好きなんです。なかったらこんな時間からバルでちびちび飲んでませんよ」

「こんな時間、って言われても……」

「ああ、そうですよね、向こうの人は解らないか。あれが時計です」

 指さされた二十四時間刻みの時計は、十六時を指していた。確かに向こうもそんな時間帯だった気がする。しかし『向こうの人』って、こちらの人々は何者なのだろう。思っていると無表情なコックさんが私の前にトマトとモッツァレラチーズ、バジルで出来たカプレーゼのお皿を置く。食に関してはモモと良い共通しているようだけれど。そしてモモのジュレうまっ。シロップの加減が絶妙でうままっ。

「あ、あの、頼んでないですけど」

「一見さんのみのサービスです。メルクは無表情ですけど、料理は上手なんですよ。あ、メルクはさっきのコックさんで、フルール・メルクールさんって言います。私はホシ・シュテルン。良ければテルとお呼び下さい。兄のことはトワとでも」

 ぺこりと頭を下げられる。年は私とそう変わらなそうなのに、しっかりしたお嬢さんだ。にこにこと接客業の基本の笑顔も絶やさない。私には無理だ、顔が引き攣るしストレスマックスに違いない。だから顔の見えない、受け渡しも最小限のバイク便を仕事に選んだようなものだし。ただしこの仕事、歩合給だからあまりゆっくりもしていられないのが本音なのよね……。

「えーと、テルさん」

「テルで結構ですよ」

「じゃあ、テル。あそこのご老人方は何をしているのかな」

 私が持って来た数字の書かれたものをじっくり見ているのはご老人方だ。若者はほとんどいなかった。流石に午後四時からちびちびやってる青少年はいないらしい。しかし異様に暗い街だな。昼には明るくなるのだろうか。店の中も間接照明ばかりで、時間間隔が狂いそうだ。仕事を終わらせて一杯やりに来た、みたいな。

 テルはくふふふっと笑って、シェーカーを振る。

「お爺様方の暇つぶしですよ。ロジックを駆使して暗号を解いたり知恵の輪を解いたり。そう言うのが好きな方たちなんです。兄さんも」

「トワさん……も、ですか」

「です。そう言えばお姉さんのお名前は?」

「保志……香苗です」

「あら、私達と同じなんですね。でも星の位置は随分違うみたいで」

「へ?」

 星の位置?

 言われた瞬間、テルの頬の星も光った気がした。

 私はテルの視線を追って、自分の左胸の下に小さな明かりがともっていることに気付く。

「なっなんですかこれっ」

「ステラへの入国許可証みたいなものですよ。それがあればいつでもステラに来られます」

「すてら? 駄菓子屋はそりゃいつでも行けるけれど、」

「ああ、そっちのすてらじゃなく、こっちのステラです」

 思わずトワさんの顔を見ると、その左こめかみに小さく星が光っているのが見えた。他のご老人たちも、身体に一か所ずつ小さな明かりを見っているのに今更気付く。

「ここは星の街。太陽を持たない世界、ステラと言います。とは言っても最初に見付けた人がそう名付けただけで、綴りもそちらの世界と同じなんですよ」


 適度に意味は解らなかった。

 つまりここは異世界ってことなんだろうか。


 あまり本を読む習慣がなかった私は、星の王子様ぐらいしか思いつかなかった。二杯目に出されたバナナのカクテルを一気飲みすると、ちょっとたけ頭が冷える。あくまでちょっとだけ。そしてカプレーゼをフォークに刺して食べる。美味しい。岩塩だ。バジルとトマトとモッツァレラチーズってどうしてこんなに合うんだろう。謎だなあ。ふははははは。

「因数分解じゃないかね」

「いや。それには文字が幼過ぎるだろう」

「暗号か?」

「何か符号か符丁を見付けられれば――」

 幼い字――私はご老人方の言葉に、そう言えば百合籠家には小学生の女の子がいたのを思い出す。いつも顔を出しては挨拶してくれるあの子、今日は見かけなかったな。百合籠氏の態度もやけに深刻だった。まさか、

「……誘拐?」

 ポソッとつぶやくも、十数個の星が一気にこっちを向いて正直ヒェッとなった。

「その可能性があるのかい、お嬢さんや」

「えっと、手紙を出してきたのはものすごいお金持ちのお爺さんで、そのお孫さんを今日は見かけなかったってだけなんですけれど」

「十分成り立つ仮説じゃな。となるとこの字はそのお孫さんが書いたものとみて間違いはあるまい。お嬢さん、最近その子の身辺で変わったことはなかったかね?」

「ええー……」

 しがないバイク便屋にそんな細かいところ突っ込まれても……。

「部屋……部屋が変わったって言ってました」

「どんな?」

「お爺さんが新しい書斎を作るから、古い書斎はあげようって……寝室も別にあるんですけど、大きな違いと言ったらそれかな」

「どんな書斎かね?」

「雑多なものが結構山積みで、レコードプレイヤーとか昔の携帯電話とか、えーとPHS? って言うんだったかな、そう言うのも置いてあっておもちゃ代わりに遊んでましたけれど」

「PHS……懐かしい響きじゃのう」

 うんうん頷いてるってことはこっちの世界にもあったのか、ピッチ。レコードプレイヤーはUSBでPCに繋げるのが今もあるけれど。そしてこちらでは現役に知らない曲を奏でているけれど。音楽も違うのかな? こっちの世界。パインジュースのカクテルに舌をちょっとピリピリさせる。軽度のゴムアレルギーだけど、この甘さの為なら我慢できる。

「ふふ、お客さん、ピッチ早いですよ」

「あーいや、手持無沙汰でつい……」

「なら君も参加してみるかい? カナちゃん」

「か、カナちゃん?」

「香苗だからカナちゃん。僕らと同じだとややっこしいだろう? 今日からこっちでの君はカナちゃんだ」

「ほっほ、そりゃあ可愛いな。カナちゃん、老人たちを助けておくれ」

 恰幅の良いひげ面のおじさんに言われて、しぶしぶ私は暗号のような数字の並べられたテーブルに向かう。ルーペで何かを探している人もはいれば、因数分解を真面目にやってる人もいる。文字は横書きに書かれていて、ペンが止まった所も多い。ボールペンの芯に付いたカスの多さからそれは解る。確か小学四年生だったからアルファベットは読めただろうけれど、数字じゃちょっと回りくどい気がする。ん、と私は気付く。


72 51 45 55 35 13 25

45 32 04 25 74 91 94 44 93

41 33 34 44


「これ、二文字ずつ対になってません?」

 お、っとルーペをかざしていた老人が声を上げる。

「確かに、二つ一組な書き方になっておるの。二つ一組で表せるもの……なんじゃろうなあ」

「ルーペ覗いててそんなことにも気付かんかったんかい、お前」

「いやわしは他の手がかりをだな」

「聞き苦しい言い訳はよせやい、爺さん」

「お前の方が爺さんじゃろうが」

 和気藹々としてる場合じゃないよ、本当の誘拐だったら。

 うーん、あとは……。

「あ。偶数文字は五以下が多い」

「ほ。言われてみればそうじゃな」

「特別な文字が入る場所なんじゃないですかね。濁音とか、半濁音とか」

「ふむ」

 腕を組んだ頭の眩しいお爺さんが笑う。

「トワ、今日は良い助手を連れているじゃないか」

「助手じゃありません、代理人。早く解かないとまた変な連中に見付けられてしまうかもしれないんですよ。ですから危急にお願いしたいのに、どこから出て来るのも珍紛漢紛な答えばかりでカナちゃんが一番鋭い。ボケたくはないですねえ」

「言うではないか。自分のテリトリーに何も知らん女の子引っ張り込んどいて」

「そうじゃそうじゃ。紳士の風上にも置けん」

「だーかーらー……」

 はあっとトワさんが溜息を吐く。本当にお爺さん達の推理は当たっていなかったのだろうか。因数分解さんはもう手帳を放っている。ルーペさんはアリ探し。レコードプレイヤー。PHS?

 PHSとペアになる物と言えば。

「あ……あー!」

 私が声を上げると、お爺さん達はぎょっとした顔になる。

「ポケベルですよ、ポケベルの文字ですこれ! 昔ちょっとだけ従姉妹のお姉ちゃんに触らせてもらったから覚えてますけど、数字表が付いててアイウエオが解るようになってるんです!」

「0はなんじゃ?」

「濁音ですよ! えーと、ちょっと貸してくださいね」

 私は因数分解さんからメモを借りて暗号とも言い難い数字表を解いていく。

「みなとの……そうこ、とじこめられてる……たすけて」

「誘拐確定じゃな」

「どっどうしよう、依頼人に届けるべきか警察に届けるべきか」

「依頼人に電話で聞けば良いじゃないか」

 ニッと笑ったトワさんは着流しの懐から大手メーカーのものらしい最新機種の携帯端末を取り出す。儲かってんのかあの店。殆ど金平糖しか置いてないくせに。いや帰りに一匙ずつ買っていく予定だけど。案外そう言うまとめ買いのお客さんで持ってるのかな。金平糖ってキラキラしてて綺麗だし。星屑みたいだし。星。ステラ。星の街。すてら。金平糖の店。繋がりそうで繋がらない、襖の向こう。

「警察に電話したから早々に見つかるだろうってさ。さてと、僕も君に代金を支払わなきゃね、カナちゃん」

「へ? 何でです? 私何にもしてないじゃないですか」

「ポケベルなんて今どき盲点の暗号を引っ張り出してくれたじゃないか。はい、どうぞ」

 ぽんっと掌に乗せられたのは、真っ白な金平糖ばかりを包んだ小袋だった。食べてみな、とお爺さんの一人に促され、金色のテープを剥がして一粒食べてみる。

 とびっきりの砂糖味だった。

「おいっしー!」

「だろう? あすこは金平糖に限っちゃステラでも向こうでも一番の店だろうからな。良かったらまた来てくれや、嬢ちゃん――カナちゃんや」

「金平糖以外にも置てますよ、失礼な」

「十円ガムか? コーラグミか?」

「ぐぬぬ」

「トワさんそんな顔もするんですねえ」

「トワで良いよ。言いにくいでしょう? 正直」

「メルクもメルクでいーってー!」

 カウンターから響いた声と一緒に、ピッツァが出て来る。謎解きの後のディナー、と言うことらしい。しかしここはなんなのだ。バルなのかイタ飯屋なのか。二枚出て来たシンプルなマルゲリータにはポルチーニ茸も入ってる。正直美味しそうだ。ピザカッターで切っていって、みんな等分、頂きます。

「おいしー! メルクさ……メルク、すごくおいしいです!」

 ピザカッターを持ってぺこりと頭を下げたメルクは頬を少し赤くしているようだった。

 年上っぽいけど可愛いとこあるなあ。

「ああーここの常連になりたいーいつかお酒も飲みたいー」

「え? カナちゃん未成年?」

「ですよー今年で十九歳、来年成人式です」

「テルより年下だったなんて……」

「何気に失礼ですよ」

「だってライダース凄く似合ってて格好いいし……一気にバイク倒した時の思いっきりの良さと良い……」

「まあ、やんちゃはしてましたけどね」

「やっぱり!」

「何がやっぱりですか。あーバナナのカクテルうんまー。テル、支払いはお兄さんに付けといてー!」

「もちろんそのつもりですよーカナさんこっちのお金持ってないだろうし。金平糖で支払っても良いけど、せっかくだから食べたいですしね」

「えへへ、この金平糖何日かけて食べようかなー」

「なんじゃ、笑うと年相応じゃないか」

「べっぴんさんになるぞこれは」

「トワ! さっさと手を付けておいた方が良いぞえ!」

「未成年に手を出すわけにはいきません! ご老人方は性質が悪い……」

 と。

 私の携帯端末がぶるぶると震えるのに、皆の焦点が集まる。

 ジャケットの中からひっぱり出した防水性のそれに耳を付けると、課長の声がキーンッと響いた。

『保志! 今どこだ!?』

「も、戻る途中です!」

 とっさに嘘が出てしまう自分が嫌だ。でもこの状況をどう説明した物かもわからない。異世界でマルゲリータ食って宴会中とか言えない。

『百合籠翁から連絡があって、無事お孫さんが救助されたそうだ! 脅迫グループも一斉摘発、お手柄だし百合籠財閥を味方につけたのは大きいぞ! 今日からお前をトップの走り屋にしても良い!』

「いやそれ仕事増えるだけですよね。今のままで結構です」

『給料十パーセントアップ』

「っ……有給二日付きで!」

『よしトップ! 取り敢えずさっさと帰ってこい。百合籠翁とお孫さんがお待ちだ』

「それ早く言ってくださいよ! すぐ戻ります!」

 終話するとお爺さん達はちょっと寂し気に『行っちまうのかい』、なんて聴いてくる。

「また来ますよ、『すてら』を辿って!」

「え、僕に休みなし?」

「元々ろくに開けとらん癖によう言うわ」

「開店休業」

「昼行燈」

「なんで僕だけ集中砲火!? カナちゃん助けて!」

「なんか左胸の下のとこが痛いんだけどナニコレ」

「テルが言ってたでしょ、こっちとあっちを繋ぐパスポートみたいなもんだよ。でもそんなところに出る人は珍しいな。みんな頭蓋骨近辺だから。メルクは下顎の影だし。僕はここだし」

 とんとん、とこめかみを叩く仕種がちょっと刑事ドラマっぽくて格好良いから、安全靴で何となく下駄を軽く踏んで見た。あくまで軽く。

「痛い! カナちゃん痛いよ!」

「さてと、そろそろ戻んなきゃな。トワも店開けなきゃでしょ、さっさと行こう。私もお孫さんの様子気になるし」

「ああうう……世界が僕に冷たい」

「世界が兄さんに温かかったことなんてありましたっけ?」

「テル! お兄ちゃんそろそろ泣いて良い!? 泣いて良い!?」

「ご勝手にどうぞ、お絞りぐらいなら出しますよ」

「良いから向こうに帰して」

「うーうーうー」

 うなる尻を安全靴の側面で軽く蹴ると、着流しにちょっとだけ染みがついた。

「そう言えば何で和服?」

「僕この眼と髪でしょ、少しでも社会に馴染もうと思って」

「観光地の旅行客にしか見えないけど……」

「ひどっ! カナちゃんひどっ!」

 適当なドアに手を掛けると、手の中で金平糖が発光する。同時に開いたドアは、あの小さな座敷を見せていた。来た時と同じように、新聞を踏み石にして薄暗い座敷に出る。下駄を移したトワががらがらとシャッターを上げると、もう夕日の入る時間帯だったらしく、目の前が赤く照らされる。

「……テルやトワの髪色が薄いのは、ステラで暮らしてた所為?」

「うん、まあね」

「なんでこっちで駄菓子屋なんかしてるの?」

「それはまた、今度の話にしよう。とりあえず今のカナちゃんは、会社に帰らなくっちゃ」

「金平糖」

「うん?」

「桃色一掬い、頂戴」

「百円ね」

「計らなくても解るとか」

「頭に星の付いてる人間は、回転が速いって言われてるんだよ」

「じゃあ胸は?」

「それもまた、次の話にしようか。……、はい、金平糖」

「ありがと。はい、代金」

「毎度」

 くふくふ笑って私は店を出てバイクのエンジンを掛ける。幸い倒した時にどこか危ない損傷はなかったようで、快調に走り出した。


 これが゛私と星の街、ステラの始まりの物語だ。

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