第2話 俺はこんなヤバイ女を見たことが無い


如月♥うさぎ『ユウキ君って、フレンド登録とかリアルの知り合いじゃないと嫌な人? あ、ううん! ちょっと聞いてみたかっただけ。でも……どう、かな?』


画面の中でゴスロリ服を着たキャラがウインクの仕草をする、俺は思わず目を覆った。


「やべえ、これフレンド登録申請がくるやつだ」


俺の名は高橋 勇気(タカハシ ユウキ)

東京生まれ、東京育ち。某私立小学校に通う小学五年生。11歳男子だ。


自分で言うのも何だか、俺は典型的な『医者の息子』だ。


親父は医者で、息子である俺も当然、医者になる事を期待され(というか、強制?)、まぁ医者になるなら医学部行くよね、医学部といったら東大医学部だよね…というプレッシャーを受けつつもグレずにいつもニコニコ頑張ってる優秀なご子息。


そんな感じの、どこにでもいる東京のクソお坊っちゃま野郎だ。


別に、その事に対して不満はない。我ながら予定調和のつまらない人生だとは思うが、親に反抗してまでやりたい事なんて無いし、勉強も嫌いじゃないし、まぁ俺がニコニコしながら勉強して医者になります!と頑張ってれば家庭円満、将来安泰だし、面倒な問題は一切起こらない。


俺は面倒事が嫌いなのだ。だから、反発はしない。レールが敷かれているなら、その上を歩くだけ。別にどうってことない。今までそう生きてきたし、これからも、そうやって生きていくだけだ。


ところが、最近、ちょっとした面倒事が起こっている。


大人の女に狙われている。


27歳の痛い女だ。


きっかけは、暇つぶしに始めたネットゲームだ。もともとゲームなんて好きじゃないし思い入れもないが、勉強や親との上っ面だけの会話など「有益な事」をやっていると無性に「無益な事」がしたくなる衝動に襲われるので、それを解消するのに丁度良かったから手を付けた。


ダラダラと空き時間に魔物を倒し(クリックしてるだけ)レベルを上げて強くなる。


架空の世界で強くなった所で何の役にも立たないが、だからこそ、生活と切り離して趣味として消化できる所が気に入っている。


痛い女の話に戻ろう。


きっかけは、彼女が森で魔物に襲われていた所を、なんとなく助けた所から始まる。


普段は誰とも交流しない俺だったが、名前に♥を入れる痛いセンス。そしてプロフィールの生年月日から27歳とバレてるのに、プロフィールに『18歳』とサバ読み年齢を出しているヤバさ。7歳も年の差があるのに、11歳の俺にアプローチしてくる常識の無さ。


おまけに出会った直後から気があるフリをしてきて、ログインする度に速攻で話しかけてきて、聞いてもいないのに胸の大きさをアピールしてきたり……


「こいつ、やべぇ……」


俺は血の気が引いた。滅多なことでは動揺しない俺が、寒気で震えた。


如月♥うさぎ。こいつはやばい。リアルで会ったら、絶対絡んじゃいけないタイプの人だ。


まぁ落ち着け。こいつが女とは限らない。オッサンがふざけてネカマをやってるだけかもしれない。


こういう天然ぶりっ子なキャラ作りをして男をたぶらかし、女の子ごっこを楽しんでるオッサンがいるということは、ゲームをやっているうちに知った。


(ネカマなら、しょうもない話だけど、辻褄は合うな)


俺はとにかく安心したかった。見え見えの嘘をついてまで、11歳に必死に近づいてくる27歳の女はいない。そう思いたかった。


そこで、彼女のIDから性別につながる情報を特定して「ネカマ見抜いてますよ」と伝えて懲らしめてやろうと思った。彼女のIDで検索すると、某動画サイトのチャンネルがヒットした。


「Youtubeやってるのか? 顔は出してないけど……化粧品の紹介?」


『あ、ど、どうも~。かりす、カリスマアラサーインフルエンサーの、うさちゃんですっ!』


すぐに画面を閉じた。恥ずかしくて。再生数は一桁だった。あと胸は平らだった。


俺は顔を覆った。何故か彼女に対して申し訳ない気分になった。見てはいけない深淵を覗いてしまった気分だ。いっそ笑いたいのに笑えない。この感情はなんだ?


そんな事を思い出していると、追撃のチャットがきた。


如月♥うさぎ『ごめんね、急に……。実は私、ユウキ君とフレンドになりたくてっ!』


「やべえ、どうしよ。俺、こんなダメな大人と絡んだ事ないよ」


もし彼女が、本当に27歳の女で、本気で俺にアプローチしているとしたら? 本来ならば仕事をバリバリやってるか、結婚を前提に彼氏と同棲しているであろう年齢の女性がネトゲで小学生を口説こうと全力でアピールしてきているとしたら?


無下に断ったら何をしでかすか分からない。その場で自殺ライブとか、やらかすかも。俺は恐怖した。そんな事をされたら、警察に事情聴取されて、俺の人生をめちゃくちゃにされる……!


とにかく刺激しちゃダメだ。穏便に断らなければ。


ユウキ『なんで俺とフレンドになりたいんですか?』


如月♥うさぎ『だって、ユウキ君は私の王子様だから……』


ユウキ『どういう意味ですか?』


如月♥うさぎ『今はまだ聞かないで! 桜が咲く頃には、ちゃんと伝えるから』


なにを言ってるのか意味が分からない。


如月♥うさぎ『どうかな? 私とフレンドになるの、嫌かな……?』


ユウキ『フレンド登録のやり方、分からないです』


如月♥うさぎ『私がフレンド申請すると右上のウィンドウに選択肢が出るからそこでイエス選ぶ』


ユウキ『なるほど』


如月♥うさぎ『どう、かな……? うさぎ、ユウキ君とお友達になりたいっ!』


「気づけよ! 俺の断りたいオーラ気付けよ!」


どうする? どうすれば、穏便に断れる?


とりあえず、強引に逃げるか……!?


ユウキ『あ、そろそろ夕飯食べないと』


如月♥うさぎ『チャットしながら一緒に食べよう♪フレンドになったら二人きりでチャットできるよ♪』


ユウキ『今日は外食なんです。すみません』


如月♥うさぎ『どこの店?』


「特定する気か!?」


如月♥うさぎ『オフ会しよ♪』


「今から!?」


やばい、早く断らないと、どんどん距離を詰めてくる。27歳の女って、こんなに距離感ない生き物なのか?


……いや、待てよ。オフ会か。


ユウキ『オフ会いいですよ』


如月♥うさぎ『え、本当に?』


ユウキ『Fカップのおっぱい、楽しみにしてます』


そこでチャットが止まった。今まで即返事がきていたのに、ぱたりとストップ。


オフ会なんて出来る訳ないよな。だって、自称Fカップのぺったんこ女なんだから。


「ふぅ。これで諦めるだろ」


俺はパソコンを離れ、夕食を食べにリビングへと降りていった。

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27歳アラサー女ですが、小学生を口説いてます 谷口 @taniguchix

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