会議は踊る、されど進まず

 土岐頼芸様によって、西美濃の一向一揆と北伊勢の長島一向一揆対策について話し合うべく、重臣と有力国人が集められた。

 この話し合いの進行を行うのは、我が養父の長井新九郎である。小守護代になったばかりの長井景弘様と同格とされたため、土岐頼芸派を取り纏める立場になっていた。


 土岐頼芸様が、西美濃の一向一揆について状況を問うと養父が西美濃の情勢について応える。

 西美濃の一向一揆勢は、願証寺派が加わっていないため、規模も大きく無く、土岐氏方が優勢な様である。

 特に、わしが預かっていた約二千の兵を得た養父は兵力を増し、西美濃での戦いを有利に進めていた。

 西美濃の有力国人もまた勢力拡張の好機と見て、実淳派の一向一揆を攻めている様だ。

 そのため、西美濃の情勢も些か落ち着いたため、こうして一向一揆の対策について話し合うこととなったのである。


 西美濃については、養父と国人領主たちで何とかなりそうだが、問題は木曽三川河口域の水運と桑名であった。

 土岐頼芸様が、居並ぶ重臣や国人領主たちに、水運と桑名を取り戻す術を問う。

 重臣たちから様々な意見が飛び交う。船で長島を攻めるべきだとか、陸路で桑名を攻めるなど、様々である。

 船で長島を攻めるなんて、ほぼほぼ不可能だろう。輪中を攻めるなんてそう簡単では無いぞ。輪中が簡単に攻め落とせていたなら、織田信長が長島一向一揆を鎮圧するために大きな犠牲を払う訳が無い。

 そもそも、輪中を攻めるための船をどうやって調達するのかと言う話である。

 愚かにも、輪中攻めを提案した国人は、わしの有する志摩海軍を使えば良いとか戯けたことを抜かす始末。

 養父が、わしは東美濃を回復したばかりで、東美濃統治に力を注ぐ必要があると否定してくれた。

 養父にとっては、わしを西美濃や伊勢国に関わらせたくない思いもあったのかもしれないがな。

 木曽三川河口域の水運を取り戻すには、長島城を含め輪中を占領しない限り不可能なのだ。


 次に出た陸路で桑名郡を攻めるのが、無難な選択であるが、厳しいだろうな。

 まずは西美濃の一向一揆勢を鎮圧しなければならない。しかし、この一向一揆に参加していない門徒もおり、願証寺派も残っているのだ。

 また、大桑城には土岐頼武の跡を継いだ土岐頼純がおり、美濃国内には土岐頼純派が残っている。

 土岐頼純派などに対する備えを残すとなると、どれだけの兵力を出せるのやら。

 桑名郡攻めは、土岐頼芸様と西美濃国人衆たちが担うと思われるので、頑張って取り戻していただきたいものだ。


 土岐頼芸様から「伊勢国切取次第」が貰えるなら、わしも頑張っても良いんだけどな。

 西美濃勢が長島一向一揆勢に負けたり、紙の流通が長期間滞らない限り、「伊勢国切取次第」を給わるのは難しいだろう。

 赤堀氏の一族である浜田氏が治める浜田城は欲しいな。赤堀氏の三氏が治める領地は、21世紀では三重県最大の街である四日市市なので、港を整備すれば発展を見込めるだろう。

 北伊勢の沿岸部が欲しいので「伊勢国切取次第」が欲しい。


 その後の話し合いでは、あーでもない、こーでもないと重臣や国人たちが様々な意見を交わしていたが、有効な意見は出てこなかった。「会議は踊る、されど進まず」ってところか。

 その内、国人たちが、このままだと収入が減ると騒ぎ出し、当家にもっと産物を買えとか言い始めた。

 木曽川の流通が止められて苦しいのは、当家も同じなのだが。本当に迷惑な話なので、理路整然と当家も困っていることを説明してやった。

 まぁ、犬山から陸路で蟹江まで行くルートがあるだけマシなのだろうが。犬山~蟹江間の通行については、織田弾正忠家を介して調整しているので、通行料など不当に高くはされていない。

 大矢田の紙商人や枝村商人は、水運も陸路も塞がれているので大変だろう。


 まぁ、その後も意見は交わされたが、有効な意見が出ることも無く、西美濃の一向一揆を鎮圧してから、陸路で桑名攻めをすることで落ち着いた。

 わしは、東美濃の統治があると言うことで、特にやることは無さそうである。

 暫くは、領地経営と兵力増強に力を注ぐことにしよう。

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