関東と島津の情勢

 享禄3年(1530年)も後半になると、日本国内の情勢も変化が現れてくる。


 関東では、古河公方家での内乱は相変わらず続いており、関東管領家も上野国での戦が激しくなっている。

 上杉憲寛は上野国で、敵対する国人の領地を奪った後、自らの被官に与えたらしく、上杉憲政方は、その行いにかなり不満を抱いている様だ。

 馬路正統を通じて、上杉憲政方に傭兵を雇わないか提案している。

 雑賀衆は、最盛期は関東まで傭兵業で進出していた様なので、雑賀衆を斡旋するのが良いだろう。

当家も当分は戦は無いしな。

 雑賀の湊衆ばかり儲けているので、海運業と傭兵業で徐々に軋轢が生じている様である。

 傭兵業の不満を少しでも逸らす為に、関東に送り込みたい。



 一方、薩摩の島津家では、伊作家が3月27日に反攻を開始した。

 島津日新斎は、裏切った日置南郷城主・桑波田栄景攻めることを決意する。

 日置南郷城に、了公という盲僧を間者として派遣し情報収集をさせると、桑波田栄景が狩猟に出た情報を得た。

 島津日新斎は、伊作家の先鋒に猟師の変装をさせ、自らの軍勢を桑波田栄景の帰城と偽って欺き、城兵が門を開けたところを攻め、その日の内に南郷城を攻め落とし入城した。

 入城後、日新斎は南郷の地を「永吉」と改めている。

 この戦は、島津貴久にとって初陣であり、見事に初陣を勝利で飾ることとなった。


 8月に桑波田栄景は永吉城(旧日置南郷城)を奪還すべく、鹿児島、吉田、日置等の実久方の兵を集め、奪回を試みるが、日新斎方は内通によって来襲の情報を得ており、攻撃に備えて守備を固めていた。

 島津実久方が、野久尾原に布陣したところを、伊作家方は五十騎で側面攻撃する。

 島津実久方が混乱したところ、正面から島津貴久が突撃し、島津実久方は敗走することとなった。


 実久方を敗走させた島津日新斎は、その勢いで、頴娃の地を治める頴娃兼洪に出府を命じたが、島津勝久の義弟である兼洪はこれに応じなかった。

 そのため、島津日新斎は頴娃攻めを開始し、頴娃城は落城寸前に追い込まれる。

 この危機に際し、執事の津曲若狭守道三は主君の頴娃兼洪を説いて、兼洪の嫡子稲千代を抱いて島津の陣に出向き、和議を申し入れた。

 日新斎もそれを受け入れ、寮舎で誓約を行い和議が成立する。

 頴娃氏は滅亡の危機を回避し、頴娃氏は伊作家方として行動することとなる。


 12月2日、島津実久方の日置城主である山田式部少輔有親は、島津日新斎に対して、全領地を献上し降伏する旨を伝える。

 島津日新斎もこれを受け入れ、山田のみは領有を許すこととした。

 しかし、鎌田政年、阿多加賀守などの伊作家の重臣たちが、山田式部少輔有親は気骨が有り、本当に心服したとは思えず、二心有る者を置いておくことは、伊作家の為にならないと諫言する。

 島津日新斎は、この諫言を聞き大いに悩むが、盟友である西村庄五郎正義に人材の斡旋や人を売る約束をしていたことを思い出す。

 山田式部少輔有親に対して、西村庄五郎正義に仕えるか、切腹ををするか選ばせたところ、山田式部少輔有親は、西村庄五郎正義に仕えることを望んだのだった。


 その様な経緯があり、わしの目の前には島津日新斎殿の使者として、園田清左衛門実明殿が伊作家の書状を持って来ている。

 内容としては、わしに断ることも無く、山田式部少輔有親に当家への仕官の話をして、選ばせてしまったことへの謝罪と、山田式部少輔有親及びその家臣たち、伊作家方に与することを拒否し当家に仕えることを希望する武士たちを受け入れてもらいたいと言う内容であった。

 薩摩の武士たちが気骨があると言うぐらいであるから、相当な人物であると伺えるので、当家としては歓迎である。

 ましてや、薩摩隼人たちも付いてくるとなれば、更なる軍備拡張を図っている当家としては有り難いくらいだ。

 薩摩隼人が仕えてくれれば、台湾進出も更に進むだろう。

 わしは、園田清左衛門殿に山田式部少輔有親以下、薩摩武士たちを召し抱えることを伝えると、園田殿は安堵した様子を浮かべ、感謝の言葉を述べる。

 決して、受け入れてくれたら、更なる便宜を図ることに目が眩んだ訳では無い。

 また、日新斎殿からは、領土が増えたことで口減らしする民が増えたという事で、以前から約束していた奴隷として売りたい旨も伝えられており、台湾で拠点が出来たならば、買い取って送ることにしよう。


 こうして、島津日新斎が勢力を拡張したことで、新たな人材を獲得し、台湾進出へ更に一歩進んだと言えるだろう。

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