金と兵を貸りる(同盟)条件

 今、わしは津島の大橋家に来ている。織田弾正忠と会うためだ。


 「庄五郎、話とは何じゃ?」


 「実は、雑賀衆から水軍を借りること決まった」


 「何と!?上手く行ったのか?これで、遠国と交易が出来るな」


 弾正忠には今年の始めに会ったときに、交易の話はしていた。薩摩に米を運びたいということで、尾張の米も集めてもらっている。

 だが、水軍を雇う銭の額を聞くと顔をしかめていた。まぁ、結構な額だからなぁ。お互い折半になりそうだ。


 「実は琉球にも行きたいんだが」


 「琉球だと!?確かに、島津との伝手が出来れば、琉球への渡航朱印状が手に入るから行けなくもないか」


 「島津への紹介状は父上からいただいておる。琉球への書状も祖父の尚通に書いてもらった」


 「琉球宛の書状まで用意していたのか!?近衛尚通様は准三宮でらっしゃるから、立場上あり得ないとは言い切れないのか。御主の立場は狡いぞ」


 織田弾正忠が驚いたり、悔しそうにしているのが面白い。

 父でも祖父でも使えるものは使いますよ。祖父が出てきたのは予想外だけど。


 島津、琉球への使者には弾正忠家からも出すこととなった。人選は決まったら教えてくれるそうだ。

 そりゃ、遠国の大名たちと伝手を作る良い機会だからな。

 しかも、摂家の書状があると無いとじゃ待遇に差が出てくるだろう。



 そして、もう一つ大きな話を出してみる。


 「弾正忠、銭と兵を貸してくれと言ったら、貸してくれるか?」


 「はぁ!?」


 流石の弾正も驚き言葉も出ないようだ。

 木曽川交易、蟹江湊の使用など、経済的結び付きは強く、事実上の同盟関係と言っても過言ではないので、銭と兵を貸してくれと頼んでみたが、やはり厳しいか。


 「銭なら、まだしも、兵となると、今の関係では無理だぞ。同盟を結んでるならまだしも」


 「やはり、今の関係なら難しいか。

 同盟結んでくれと頼んだら、結んでくれるのか?」


 「戦をする相手による。城も出来ていないのに、どこと戦をするつもりだ?」


 弾正忠は呆れつつも、どこと戦をするか訊ねてくる。まだ、戦をするか確定していないんだよなぁ。


 「まだ、戦をするとは決まっていないから、答えられん」


 「それじゃあ、同盟は結べんな。

 しかし、条件を飲めば同盟を結んでやらんこともない」


 弾正忠はニヤニヤしながら、条件があると言った。


 「条件とは何じゃ?」


「わしの妹と祝言を挙げよ。わしの肉親になれば、銭でも兵でも出すことに問題はなかろう」


 弾正忠がイヤらしい笑みを浮かべながら、条件を提示してきた。弾正忠の妹と結婚だと!?

 確かに、弾正忠の妹と結婚して同盟を結べば、経済的にも軍事的にも強固な同盟となるだろう。ましてや、いずれは那古野城を手に入れることを考えると、この同盟関係は美味しい。

 弾正忠家当主は、信秀も信長も身内に甘い傾向があるから、銭も兵も出してくれるだろう。

 即決したいところだが、美濃の893親子の了承を得ないといけない。


 「今、ここでは決められぬ。稲葉山の養父たちの許しを得ねばならぬからな。しばらく待ってくれぬか。」


 「待つのは構わんぞ。良い返事を待っておる」


 弾正忠はニヤニヤしながら、待ってくれると言うが、こんな男が義兄になるの嫌だなと少し思ってしまった。

 しかし、その感情を抜きにしても、この婚姻同盟の利は大きい。

 稲葉山の893親子たちを何とか説得しなければなるまい。


 取り敢えず、雑賀衆の水軍が蟹江に着いたならば、お互いに使者を載せ、土佐、薩摩、琉球へ向かうことで合意した。

 米以外の交易品も準備しなければならないな。




織田弾正忠信秀


 わしは勝幡城に戻り、思案に耽る。

 庄五郎のやつめ。まさか、薩摩までではなく、琉球まで行こうと思っておったとは。

 庶子とは言え、近衛家の力を利用出来るなど、羨ましい。

 島津も琉球も無下には出来まい。琉球と交易出来たときの利は大きいぞ。


 そして、銭と兵を貸す代わりに、庄五郎に妹と祝言をあげろと要求出来たのは最大の成果だ。

 木曽川の交易で互いの絆は深まっており、向こうが関係を断てぬようになってから、妹との祝言を提案しようようとおもっておったが、思ったより早く話が出来たわ。

 妹は斯波家一門の牧長義殿に嫁がせようかと思っておったが、落ち目の斯波家より、近衛家の力を利用出来る庄五郎のほうが良いわ。

 庄五郎とは気が合うし、友人だから尚更良い。庄五郎を義弟と呼べるようになると笑いが収まらぬわ。

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