享禄2年(1529年)

享禄2年(1529年)の方針を話し合う

享禄2年(1529年)


 新年を迎え、今年の方針を家臣たちと話し合う。

 まずは、多羅尾光俊を「家令」に任命し、主に当家の「私」の部門を任せ、黒田下野守は「家宰」として主に当家の「公」の部門を担当する。

 しかし、光俊だけではまだまだ不足があると思われるので、下野守による支援は欠かせない。


 そして、肝心の今年の方針について話し合う。今年の課題は領地拡大の準備、貿易の拡大、人材の拡充、農地拡大及び生産量の増大などが上げられる。


 「光俊、孫六よ。甲賀衆は足りておるか?」


 甲賀衆を束ねる、光俊と鵜飼孫六に尋ねる。


 「馬路殿たちが仕官され、新たに増やしましたが、現状では、領内や周辺を調べるだけならば何とかなる状況です。美濃の外を調べたりするとなると、足りておりませぬ」


 「今年の後半から、来年には、領地を増やしたいとも思っておる。より多くの情報を得たい故、甲賀者を増やすことは出来るか?」


 「当家の待遇は、他家で乱波働きをするより良いので、仕えたがっている者が多いですが、格別に信用出来る者となると、そう多くなく、そういった者は多羅尾家と鵜飼家より出しております」


 他の家臣がいるため、孫六は普段のぞんざいな話し方ではなく応えた。


 「他国に乱波を潜り込ませたい。調略も考えておるがゆえ、それなりに人が欲しい」


 「分かり申した。甲賀の中でも、殿に好意的な家から乱波を雇うことも含め、甲賀者を増やしたいと思います。」


 「甲賀者を増やすための銭は、下野守と相談せよ。下野守は光俊と孫六と相談し、銭をだしてやってく」


 「かしこまりました」


 光俊と孫六に甲賀者を増やすよう指示をし、そのための銭を出すよう、黒田下野守に指示を出した。

 今年は他国での工作活動を増やし、来年は頼武様方と戦があるので、勢力を拡張させたい。



 「下野守よ、今年から農地を拡大させたいと思うが、専門の匠など見つかったか?」


 「各地で戦が頻発し、田畑が荒れたことで、殿が望んでおられるかつての田堵のような者たちが見付からない状況です。

 かくなる上は、我々で何とかするしかないかと思われます」


 「そうか。そうなると測量など出来ないといかんな。

 そういった人材を雇おうにも、他家に仕えているであろうしな。京の父上に公家で使えそうな人材を紹介してもらおう」


 「それがよろしいかと。京の公家たちは困窮してる者が多いため、公家を雇われるのは関白様のお役に立つと思われます」


 戦に明け暮れる武士たちでは読み書き計算が出来ない者が多そうなので、無難に貧乏公家を文官として雇ったほうが良いな。

 測量となると算術が必要だから、算術の指導が出来る人材もお願いしよう。

 農地拡大は思ったより時間がかかりそうだ。


 「現在は、中井戸村から津島にかけての商いで儲かっているが、その範囲を拡げたいと思っておる。」


 「商いの範囲を拡げるのですか?どこまでをお考えで?」


 当家の財政を司る下野守が食い付いてきた。


 「尾張から紀伊、土佐を経由し、薩摩まで行きたいと考えておる」


 「薩摩まで!?湊や船はどうなさるおつもりですか?」


 「湊は弾正忠の津島などを利用するしかあるまい。船はどこか伝手はないか?」


 当家の商いが弾正忠頼みなのは不味いが、現状は致し方ない。

 それよりも薩摩までの船をどうするか、家臣たちに意見を聞いてみる。


 「紀伊の雑賀衆なら、船を出してくれるやもしれません。雑賀衆は水軍を持って、自分たちでも商いをしていると聞きます。

傭兵として各大名の戦に銭で力を貸しておりまゆえ、銭を出せば、船を貸してくれるかもしれませぬ


 孫六が雑賀衆に頼むのが良いのではないかと提案してくれる。


 「雑賀衆か。よし、当家は兵も少ないゆえ、傭兵を雇う伝手も必要だから、丁度良いな。雑賀衆に遣いを出そう」


 戦をするときにも、雑賀衆の傭兵を使うのは良いかもしれない。まだ鉄砲は無いけれど、それなりに役には立つだろう。


 「ところで、薩摩まで何を商うつもりですか?」


 当家の財政を預かる下野守が当然の質問をする。


 「薩摩は土地が貧しいと聞く。

 美濃と尾張は米が多く取れるゆえ、米を中心に穀物を持っていくのよ。帰ってくるときは、枕崎で琉球の品など買ってくれば良かろう」


 「なるほど、確かにそれは良いかもしれませんな」


 一応、下野守には納得してもらえたようだ。



 軍備については、まだ規模が小さいので、大島甚六に任せている。

 2000の兵は、養父の兵なので、養父から送られた与力が管理している。


 「甚六よ、当家の兵はどうだ?」


 「昨年より、中井戸村を中心に、近隣の村の次男、三男やらを雇っております。

 殿が御銘じになられ基本教練なるものも、ある程度形になってきたと思われます。

 稲葉山より預けられた兵たちは嗤っておりますが、当家の兵のほうが動きが良く、指示にもしっかり従います。あれが殿のおっしゃる統制というものなのでしょうか。

 今の兵を中心に、もっと増やしていきたいのですが、近隣の村の余った男手は雇ってしまったので、より手広く兵を集めたく思います。」


 「うむ。甚六も統制の意味が分かってきたか。

 近隣の余った男手を集めきったとあらば、足軽でも雇うしかあるまい。

 足軽で当家のやり方に従うものは、一時雇いではなく、正式に仕官を許すゆえ、兵を増やすように。兵を増やす銭などは、下野守と相談せよ」


 「かしこまりました」


 下野守と甚六に兵を増やすよう指示をする。

 来年以降は、正規の歴史だと頼武様方と戦があるはずだから、戦の準備をしておかなければならない。



 最後は、人材の話である。


 「下野守、孫六よ、良い人材などは見つかったか?」


 「今のところ、見つかっておりませぬ」


 残念ながら、農業技術者と同様に人材は見つかっていないようだ。

 文官は貧乏公家で補充出来るが、現状では武官が大島甚六しかいないのはキツい。

 一応、他の家臣たちも戦働き出来るのであろうが、当家の兵たちは他家に比べ特殊なので、専門の武官が欲しい。


 「文官や調略は人材が何とかなるとは言え、武官は大島甚六しかいない状況なのは不味いな。

 今後とも、人材がいれば、推挙してくれ」


 家臣たちに良い人材がいれば推挙してくれと頼む。



 黒田下野守は家臣筆頭として財政や外交を主に任せているが、他の家臣たちとの連携が重要になってくるので、宜しく頼むと述べ、話し合いは終わる。



 取り敢えず、方針としては、

 ・甲賀衆の拡充による調略の強化

 ・文官として公家を登用

 ・商いと傭兵のため、雑賀衆と伝手を作る。

 ・当家の方針に従える足軽の登用

 ・引き続き人材を探す。


 以上の方針に沿って、当家の今年の運営をしますかね。

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