大橋清兵衛重一②

 昨日は、津島神社の神主である氷室貞常殿から美濃の松浪兼家殿を紹介していただいた。


 松浪殿は舟で木曽川上流から品を運んできたようで、湊から当家までは大橋家で人足を出して運ばせた。

 主な品は上流の農作物であったが、関の数打ちの刀剣や美濃の陶器があって、思わず顔が綻んでしまった。

 刀剣は伊勢の桑名に千子派がいるため、刀剣関係の商いは桑名に取られてしまっていたが、関の刀剣が流れてくれるなら、桑名に対抗することも出来るやもしれん。

 また、美濃の陶器が入ってきたのも助かる。尾張と言えば、瀬戸で陶器を生産しているが、津島とは離れており、瀬戸と津島の間では弾正忠家の力が及ばない領主が多いため、自ずと陶器の値段が上がってしまう。

 関の刀剣と美濃の陶器はこれからも仕入れていきたい。そのため、松浪殿が西村庄五郎であろうことは分かっていても、欲しい品を要望してしまった。


 思ったより遅くまで話し込んでしまったため、松浪殿たちには当家に泊まっていただいた。

 松浪殿と話していると、やはり高貴な生まれの気品を感じさせられる。本人は貧乏公家の三男だと言っていたが、とてもそうは思えない。


 お互いに利のある取引を終え、松浪殿は美濃へ帰っていかれた。

 松浪殿を見送った後、私は勝幡城へ向かっていた。昨日、松浪殿がいらした旨を氷室殿の遣いから聞いたときに、勝幡に使者を送っておいた。

 そのため、本日登城せよとのことであった。


 登城し、城内へ案内されると、すぐに殿(織田信秀)はお出でになられた。

 挨拶の言葉を述べさせていただくと、早々に話が聞きたいらしく、挨拶を終えた後にすぐに話の本題に入った。


 「清兵衛、よう参った。西村庄五郎はどうであったか?」


 「まだ、西村殿本人と確認出来た訳ではございません。しかしながら、関の刀剣や美濃の陶器など、当方にも利の大きい品々が多く、商いを続けたいと思っておりまする」


 「先日、清兵衛が持ってきた目薬を使ったが、なかなか良かったぞ。それに関の刀剣とは、わしも一振欲しい」


 先日、氷室殿から分けてもらった目薬を、家臣に試しに使ってもらいたいと渡したものを、殿御自身が使ってしまわれたか。

 驚きながらも、殿ならば仕方ないと諦め、話を続ける。


 「目薬につきましても、尾張での商いは当家が扱うこととなりました。

 関の刀剣は数打ちばかりであったので、今後は打刀も商うよう頼みましたので、手に入り次第、殿へお持ちしましょう」


 「そうか、楽しみじゃのぅ。それで、西村をどう見た?」


 「本人は貧乏公家の三男だと申しておりましたが、その様には思えぬ高貴な生まれの気品が感じられました。

 関白近衛稙家様の庶子で西村新九郎の養子となった西村庄五郎で間違いないかと」


 「そうか、楽しみじゃのぅ。早く会ってみたい。清兵衛よ、早う場を整えよ」


 「もうしばらく、商いを続けたのちに、必ずや場を設けまする」


 珍しく、殿が愉しげにしておられるのを見ると、両人を会わせて良いのか不安になるが、津島や弾正忠家の利になることは確かであろう。

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