関訪問

 津島神社で氷室貞常殿との会談を終えた我等は、舟で中井戸村へと戻った。

 木曽川流域に産物を流すため、河湊を作らなければならない。

 船頭の元締と黒田重隆に船頭たちが使いやすいように整備することを命じた。


 氷室殿から美濃の産物を卸す商人を紹介して貰えそうなので、近隣領主から産物を買い集めなければならない。

 その為に、近隣領主に挨拶に行くことにした。


 まずは、主筋である小守護代にして関城主長井長弘様、一番近い明智長山城主明智光綱殿、妻木城主妻木頼安殿などだ。

 それぞれの城主に挨拶に赴く旨を、使者を送り伝える。そんなに遠くないので、承諾の旨はすぐに頂いた。訪問する順番は、関の長井様、明智家、妻木家の順番だ。

 関は長井様だけでなく、春日神社があるので、いつも春日明神の名を利用させてもらっていることから、参拝させていただく。

 関の鍛冶師たちとも伝手を作りたいので、鍛冶師たちも訪問する予定だ。


 供の者たちを連れ、関城に着くと、主筋である長井長弘様の元へ通された。


 「小守護代様におかれましては、御健勝のようで何よりにございます。」


 「庄五郎、よう参った。中井戸村に城を築いていると聞いておる。我が領地の近くに、其方のように頼りになる者がおると思うと頼もしく思うぞ」


 長井長弘様は人の良い笑みを浮かべ、わしが近郊の領主になったことを喜んでくれた。


 「小守護代様の御言葉、ありがたく頂戴いたします。

 小守護代様が治められる関には、腕の良い鍛冶職人がいるとのことですが、ご紹介いただけないでしょうか?

 人足は足りているのですが、職人などが足りていないので、築城に時間がかかってしまいそうなのです」


 「おぉ、良いぞ。庄五郎の城が出来れば、頼武様方との戦もより有利になろう」


 その後、長井長弘様から嫡男の景弘様を紹介していただき、木曽川を利用して津島に美濃の物産を売る話をして、関の産物も取り扱わせていただける了承をいただけた。


 長井長弘様への挨拶が終わり、春日神社へ向かうこととなった。

 春日神社を参拝し、多めの寄進をさせていただいた。春日明神は藤原家の氏神であり、いつも御告げで御名を御借りしているので、頻繁に参拝することにしようと思う。


 関の春日神社の参拝を終え、有名な関鍛治を見学する。関訪問に伴い、事前に見学の了承を得ていたので、問題なく見学出来た。関を代表する刀工である和泉守兼定と孫六兼元が対応してくれる。


 「西村様におかれましては、関の刀鍛治を見たいとのことで、わざわざお出でいただき、誠にありがとうございます」


 和泉守兼定が代表して挨拶をする。


 「こちらこそ、忙しい中、仕事を見せてくれること忝なく思う」


 こうして、和泉守兼定と孫六兼元の案内で鍛治場を見学し、実際に刀剣も見せてもらった。

 京にいた頃は、近衛家にも数々の名刀があり、武家の客も来ていたので、様々な刀など見てきたが、見事な出来であった。


 「流石、関の刀は見事な出来映え。重隆、甚八(大島光義)もそう思わぬか?」


 関訪問に伴として同行している黒田下野守と大島甚八も、刀を見ており、わしと同じ思いのようだ。


 「和泉守兼定殿、孫六兼元殿、わしも刀を数振融通してもらいたいが、どうじゃ?」


 「ありがとうございます。今の所、注文が何件か入っておりますので、その後でよろしければ、作刀させていただきます」


 そこそこ大きな商いになりそうなので、和泉守兼定も兼元孫六も喜んでいる。


 「忝ない。これほどの刀ならば、実父である関白殿下にも贈りたいと思っておるのでな。よろしく頼む」


 「か、関白様に贈られるのですか!?」


 わしの一言で、先ほどまで嬉しそうにしていた和泉守兼定と兼元孫六が表情を一変させ、驚愕している。


 二人が驚き呆けていると、鍛治場の娘が白湯を持ってきてくれた。


 「白湯にございます。親方お二人とも様子が何かおかしいですが、どうかなさいましたか?」


 「父に刀を贈るから作ってくれと頼んだら、大層驚いてしまってのぅ」


 「稲葉山の西村様は大層お怖いとの噂ですが、親方たちが驚くなんて、大層なお方なんですねぇ」


 鍛治場の娘は父を養父の西村新九郎と勘違いしているようだが、鍛治場の娘にとっては関白などと言っても分からないだろうから、敢えて訂正はしなかった。

 しかし、この鍛治場の娘は可愛らしいとも美しいとも言えないが、大変愛想が良く気立てが良いように思える。わしと歳も近そうだ。


 「娘、名は何と言う?」


 「関兼貞の娘で、なかと申します。」


 なかと名乗った娘と話してみると、同い年であることが分かり、話していて面白いので気に入った。


 「なかよ。何か困ったことがあったならば、わしを頼ると良い。力になろうぞ」


 「そんなこと言われたら、本当に頼ってしまいますよ?」


 僅かな間だが、なかと仲良くなり、何かあった際に力になることを約束し、関を離れたのであった。

 なかとの出会いが、後に大きな影響があるとは、このときは誰も思っていなかった。

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