芳菊丸と九英承菊との邂逅

 大永5年(1525年)


 祖父尚通が建仁寺に詣でるとのことで、多幸丸も連れて行かれることとなった。


 建仁寺は臨済宗の寺であり、京都五山第三位に列せられている。

 祖父尚通は、常庵龍崇住持に用件があって訪れたようだ。


 祖父とともに住持に挨拶し、二人は話があるようなので、黒田重隆とともに建仁寺の中を見て回ることにした。

 京都五山に数えられるだけあって、見事な寺院であり、すっかり京都観光気分である。

 俵屋宗達の風神雷神図が観れないのが残念だ。そもそも、歴史改変したら、風神雷神図が世に出るのか、俵屋宗達が生まれるのかどうかすら分からんけど。


 建仁寺の伽藍を見て回ってると、小さい子供と僧の姿が見えた。

 明らかに身分の高そうな子供だったので、気になり話しかけてみる。


 「御坊、そちらの御子は、何処かの貴人の子とお見受けするが、どちらの御家の方ですか?」


 僧侶と子供は此方に振り向き応える。


 「これはこれは、貴方様も高貴な御家の方とお見受けします。私は、駿河国前得寺の九英承菊と申します。此方は、駿河の今川氏親様の御子息で芳菊丸様でございます」


 「今川芳菊丸と申します!」


 今川芳菊丸と紹介された子供は元気良く名乗った。

 相手は名乗ったのに、此方が名乗り忘れたことに気づく。


 「失礼、此方も名乗っておらず申し訳ございません。

私は近衛稙家が子で近衛多幸丸と申します。此方は黒田下野守重隆です」


 「黒田下野守重隆でございます」


 承菊は近衛家と聞いて驚いた表情を浮かべる。


 「近衛様の御子息とは失礼致しました。そういえば、龍崇師が本日は近衛尚通様がいらっしゃると仰っていました」


 「近衛尚通は私の祖父です。近衛稙家の子とは言え庶子に過ぎませんから。

駿河からいらしたとのことですが、よろしければ駿河のお話などお聞かせいただけませんか?」


 承菊に駿河の話を聞かせてもらえないか頼むと、快く了承してもらった。

 それから暫しの間、芳菊丸と九英承菊から駿河の話を聞いたり、芳菊丸と遊んで、祖父尚通と龍崇住持の話が終わるまで過ごした。


 話してる内に確信したことは、二人が後の太原雪斎と今川義元だということだ。

 名軍師と名高い太原雪斎と『海道一の弓取り』今川義元の二人からは、聡明さを感じられた。


 「本日は、駿河のお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました」


 「いえいえ、こちらこそ近衛様とお近づきになれて光栄にござります。芳菊丸様にとっても貴重な時間だったと思います」


 「近衛様、遊んでいただきまして、ありがとうごさいました」


 「では、また何処かでお会い出来ることを願っております」


 二人と再会の約束をしつつ、建仁寺を出る。

 再会の約束をしたが、それは必ずおとずれることだろう。それも、敵として再会することになるはず。

 まさか、今川義元が幼いときに出会ってしまうとは数奇な運命だと感じつつも、躊躇することなく、戦わなければこちらが負けてしまうだろうと思うと、運命の儚さを感じたのであった。

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