視界の四隅
エリー.ファー
視界の四隅
一周年目。
鋏を作った。
二周年目。
森を作った。
三周年目。
何を作ろう。
「神様が作りたいものを作ればいいじゃないですか。」
天使が私に向かって言う。
そう言われても、正直困る。
というのも、毎年一個ずつものを増やして世界が出来上がるかを実験をしているのである。そう簡単にそこに自分の意思を介在させて急速に世界を作り出すわけにもいかない。
基本的にはルーレットを使用し、そこに出てきた紙に書かれているものを出現させることにしている。
「でも、神様って、基本的にあんまり考えていませんよね。」
「そんなことはないぞ、神様らしくいつも色々と深く考えている。」
「そんなわけありません。だって、世界を作って一周年目に、鋏を生み出しますか、普通。そもそも使う生き物がいないじゃないですか。」
「いるか、いないかは問題ではない。そのようにランダムに作り出した世界であったとしても、完成度の高いものが作れるかどうか。そこに意味があるのだ。」
「分かりません。」
「分からなくともいい。時期に、分かる日が来る。」
所詮遊びの延長だけれど、その繰り返しの内に、私は少しずつ世界というものの構造を理解しつつあった。
まず、唯の鋏では何の変化もなかったが、森をつくることによって当然ある程度の微生物や虫ではあったが、その世界には誕生、もしくは発生させることができた。これにより、鋏のような鉄分を含んだものにその生物がよることによって、分解、そしてそこからまた生物たちが誕生した。
分かりやすく言えば。
人間にしか扱えないものはいつしか、その人間の手を離れても、本来の使い道以外の用途で必要なものと認識されたのである。
分かっていたことではあるが、この発見はどこか哲学的であった。
三周年目。
何を作ろうか、というか、何を作ることになるのか、という事なのだが。
早速。ルーレットを回してみる。
「どうですかね、芸能人とか出たら面白そうですね。」
「絵面がシュールすぎる。」
「大阪のねじ工場の社長さんとかどうですか。」
「一人でずっと喋って、しかもそのまま文明を作り出しそうだな。本当に、やる気だけで。」
「トマトはいかがですか。」
「なんで、ここまで人でやって来たのに、急にまともなことを言うんだ。」
出てきた紙を開く。
中に書かれていた文字。
金城さん。
「金城さんって、誰ですか。」
「知らない、神様である私でも知らない。」
「あれじゃないですか、金のお城なんじゃないですか。」
「しかし、さん付けだぞ。」
「じゃあ、その、金城さんですよね。」
「芸能人の金城さんだろうか、家の近くのとんかつ屋さんにサインが飾ってある。」
「多分、違うと思いますよ。だったら、フルネームで書かれると思うし。」
私は戸惑ったが、ルールを曲げる訳にもいかない。
とりあえず、当然のように、金城さんをその世界に生み出した。
金城さんは全裸で生み出され、最初は非常に戸惑っていたがあたりにある森から、葉っぱや弦を持ってきて体に巻き付けると、安堵のため息を一つして、森の奥深くへと消えていった。
「見えなくなりましたね。」
「どうしたのか。」
「金城さん、森に帰ったんですよ。」
「なるほどな。」
私は金城さんのプライベートを覗き見たことを恥じた。
このまま金城さんが逞しく生き残って欲しいと心から願い、次年でこの世界に生み出すものが今度は、金城さんの好きなものであることを願った。
なんとなく、ただじっくりと眺めていられるアクアリウムを手に入れて感覚だった。
視界の四隅 エリー.ファー @eri-far-
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