3回周って、バンッ!

咲兎

3回周って、バンッ!

 そこは、地球とは異なる世界にある魔王城。その場で今、世界の敵である異形の長。魔王とそれに抗う全ての希望通称勇者が戦いを繰り広げていた!


「うおりゃあ、死ねやあああ!!!」


 そう言って、勇者は早速、マシンガンを魔王相手に叩き込む!


「ぬうぅ、姑息な!」


 魔王は、兆速のそれを全て飛んで回避!


「なら、これじゃあああ!」


 勇者は、次にあらゆるものをしまえる次元魔法を使って、ロケットランチャーを魔王にぶち込んだ!


「ぐわあああ!」


 魔王は、撃墜された。すかさず、間合いを詰める勇者。そして


「おらぁ! 必殺! ゼロ距離ヘッドショットおおお!!!」

「や、やめろおおお!!!」


 そんな魔王の声を聞きもせず、勇者が弾丸を放った……その時だった。


「な、何?」


 弾丸は当たらず、勇者の眼前から魔王が消えた。正確に言うのなら。


「……ここ、どこだってんだ」


 そこは、勇者の全く見知らぬ街だった。魔法都市に似た人工物が立ち並んでいるが、人の多さはその比ではない。


「あっ! 勇者さん! あなたも来たんですね!」

「……ん? テメェは……誰だっけ?」


 勇者の目の前には、20前半頃と思われる1人の女がいた。


「……いやいや! あなたの仲間の魔法使いのアリスじゃないですか!」

「……あー、そうだったな! おまえ魔王城の前で別れたから忘れてたわ!」


 魔法使いアリス、彼女は勇者の旅に途中から加わった仲間だが、勇者に戦力的にお荷物扱いされ、途中退場を食らった人間であった。


「おまえ、魔法使いだろ。これどうなってるか教えろ」

「魔法使いだからって……まぁ、勇者さんより少し先に飛ばされたから分かりますけど、まぁ、端的に言うとここは異世界です。それで、ここは地球という星の日本という国ですね。

 後、ここだと、私達の格好はどうやら不審者っぽいので、ちょっとあっちの路地裏に行きましょう」

「待て、まずこの銃を」

「ちょ、それはすぐにしまって! この国だと、まずいんです!」


 そうして、2人は人通りの少ない路地裏へと向かう事にした。そして、勇者はアリスから大体の事情を聞かされた。

 何でも、魔王以外の何者かが自分達をこの世界に飛ばしたらしい事、そして、この世界にも魔王も来ていると想定されるという事だ。


「魔王もいるのかよ」

「予想ですが、勇者さんが戦っていた時に起きたなら恐らく」

「なら、この世界で見つけ次第、ぶっ殺す。まずは、武器を……あ?」


 そう思い、武器を取り出そうとした勇者。だが、どうにも次元魔法で銃をとりだす事が出来ない。


「おい、魔法使えねぇぞ」

「ですね、どうやらこの世界、私たちが魔法の源としていたソールがないらしく……」

「小難しい理屈はどうでも良い! これじゃあ、ぶっ殺せねぇだろ! 私の聖銃火器セットと、私の聖なる魔力が合わさって初めて奴にダメージが通るんだぞ!?」

「そ、そうだったんですか?」

「そうだよ! つーか、知らなかったのかよ!」

「ただ、銃ぶっぱなしたい人なのかなって」

「……否定はしねぇ」


 勇者は、少し黙った。


「そ、それよりだ。どうにかする方法はないのかよアリス」

「ない事はないです。この世界にある太陽。

 見た所、ソールと構成要素が似ているので……私たちは、魔法を使う際、魔力の源を何か設定しますよね? あの太陽、あれを魔力の源と設定しなおせば、魔法は使えるかもしれません。

 ですが、この地球から、距離があまりにも遠いので力を使えるのにどれくらい時間がかかるか」

「任せとけ、私はハイエルフ! 時間なら、腐るほどあるからな!」

「……でも、性格上絶対待つの嫌ですよね?」

「そ、そんな事はないっつぅの」


 ……そして、それから、1年がたった。

 その間、勇者は元の世界で得た凄まじいサバイバル技術を生かし、ホームレス生活をエンジョイしていた。


「どうですか、勇者さん。順調ですか」


 アリスは、勇者の住処(ビニールハウス)を訪れた。


「おっ、アリス。順調……じゃねぇ」

「え?」

「今日、初めて魔力がちょっとだけ回復したぞ! 次元魔法を使うどころじゃねぇ! 

 とりあえず、最後の戦いで次元倉庫から出してたリボルバーだけは、無事だけどよ。こいつも弾切れなんだ。ひとまず、魔力で弾を1発だけ作ったんだが、いくら何でも回復スピード遅すぎだろおい」


 そう勇者に聞かれたアリスは、むしろ納得したかのように頷きこう答えた。


「1年で分かった事があります。この世界では常識ですが、この星はあの太陽の周りを回っているんです。それも約1年で。

 その関係で、太陽を魔力の源とすると設定してから1年周期でしか、魔力は送られないみたいですね」

「マジか……こりゃ、まじで何年かかるんだ?」


 そう言って、勇者は軽くため息をついた。そして、気になっていた事をアリスへと問いかける。


「ところで、魔王の情報は?」

「あぁ、うちの会社の隣のうどん屋でバイトしてますよ」

「ん!? あいつ真っ当に働いてるの!? そして、お前、この1年のうちに会社で働くようになったの!?」

「えぇ」

「こ、戸籍とかが必要って聞いたけど?」

「……戸籍って、買えるんですよ……」

「いや、こえーよ! それ絶対犯罪だろ!」


 ……それから、さらに1年後。


「どうですか、勇者さん」

「……聞いてくれ、アリス。魔力を込めて、行けるか? と思ってさっきうどん屋に襲撃をかけようと思ったんだよ」

「うどん屋さんに迷惑だから、止めてくださいね。後、捕まりますよ」

「この銃が魔力を込めないと動かないのは知ってると思うけど、弾を入れて撃鉄を下した瞬間動かなくなった。つまり、引き金が引けなかった。ほら」


 そういって、勇者は撃鉄が下ろされたままの銃を見せる。


「うわぁ、危なっかしいですね、まぁ、勇者さんの魔力以外だと絶対にひけないから安心ですけど」

「これってよ……ひょっとして、撃つまでに3年必要って事なんじゃ?」


 さらに、1年後。


「クックック! 来たぜ! ついに来たぜ!」

「そうですね、この世界に来てからの3周年記念の日ですね!」

「てめぇ、ふざけんなよアリス。奴の命日に決まってんだろうが。記念があるとしたら、その後だ!」


 勇者は、アリスが持ってきた変装セットを使い、アリスが調べた魔王がバイト帰りに通るという道で待つ事とした。


「魔力のない奴なら、この1発で行ける!」


 その時、物陰に隠れる勇者の元に魔王が現れた。


「来たか!」


 だが。


「先輩! 今度、一緒に遊びに行きましょうよ!」

「いや、それは出来ないな」


 魔王は、バイト先の後輩と思わしき女と一緒だった。


「仕方ない。やるか……」


 勇者はそう呟き、策を実行する。


「……」


 無言で魔王の前へと、歩き出し……すれ違いざまに。


「オラッ!」


 脳天狙って、一発バンッとぶちかました!


「く、ははは!」


 笑った。ある1人の人物が。その人物は。


「なっ」

「馬鹿め、どこを狙っている」


 魔王は倒れ伏した。そうして、笑ったのは魔王の隣にいた後輩の女だった。


「勇者、貴様は馬鹿だ。魔族である我が人しかいないこの世界で、なぜ3年も普通に生きる事が出来たのか、考えもしないとは……」

「変身魔法! そして、分身魔法!? なぜ魔法が!」

「貴様ら人間と我々では体の作りが違う。我々のような人外は、体内に魔力が溜まるようになっているのだよ」

「……なる……ほど?」


 勇者は、魔王の話で、1つ腑に落ちない点があった。それは。


(こいつ、私の事を人間だと思ってる? なんでかは分からないけど、なら、そこに勝機がある!)


 魔王は、人外の体内には魔力が溜まるといった。なら、ハイエルフである自分の体内にも魔力があるはずと勇者は考える。

 ……だが、それを全てぶつけても勝てるだろうか、勇者はそう考え、1つの賭けに出た。まず、自身の体にある物に抵抗するための強化魔法をかける。そして。


「魔王! 覚悟! 


 勇者は瞬間移動した。太陽のすぐそこに!


「はああああ!!!」


 太陽の力を魔力に次々と変えていく。これが少しでも遅れれば、勇者の体はあっという間に跡形も残らず、焼かれるだろう。

 また、ここが宇宙という事を忘れてはならない。少しでも強化魔法を解除したら、すぐ死ぬ事となる!


「これでえええ、終わりだああああ!!!」


 勇者は、再び魔王のいる場所へとテレポートした! そして!


「うおりゃ!」


 勇者は魔王を魔力のこもった渾身の力で蹴り上げ!


「食らえ、全兵器投入ううう!!!」


 空の魔王に向かって、ありったけの力を叩き込んだ。


 ◇


 魔王は無事倒された。

 ……そして、勇者のビニールハウスにて。


「なぁ、アリス。1つ聞いていいか?」

「何ですか?」

「おまえ、私の仲間だったっての嘘だろ。おまえ魔法で洗脳したな?」


 魔力が戻り、勇者は気づいた。自分はそもそも1人旅だったのだ。アリスなどという魔法使いには会った事も無い。


「えぇ、そうですよ。さすが勇者さん、魔力が戻れば効きませんね」

「何もんだ」

「日本の魔術師です。あなた達をこの世界に呼びました」

「何のためだ」

「……会いたかったからですよ」

「あ? 会いたかったから?」

「えぇ、私、魔術師としては落ちこぼれで3年前に、10年かかって1人前に認められたんです。それで、嬉しくて、昔から好きな魔導書の登場人物のあなた達に会いたくて召喚したんです。洗脳は悪気があったんじゃなくて、親密になる方法を私なりに考えただけなんです……。

 ただ、召喚が未熟なので魔王の方には何かあったかもしれません」

「あぁ、なるほどな。でもそれで勝てたわ。まぁ、原因はお前なんじゃないかと思ってたよ」


 そう言って、勇者は少しため息をついた。


「とどめを邪魔されて、3年も待たされて、ふざけんなとも思うけどまぁ……おまえに世話になったのも事実だ。

 私は、元々冒険が好きだし、この世界に連れて来てくれた事は……その、感謝してる」

「じゃあ、これからもいてくれますか!?」

「え、帰れんの!? じゃあ帰せ!」

「いえ、何も言っていないです」

「待てこら!」


 勇者の異世界生活は3周年では終わらなそうだ……。


 終

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3回周って、バンッ! 咲兎 @Zodiarc2007

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