僕と君との3周年
夏木
3
高校に入学してすぐに見かけたのは、短いストレートの黒い髪をした彼女だった。
周りはみんな長い髪をしているのに、彼女だけは短い髪で目立ったのかもしれない。
明るく元気な性格の彼女は、周りの人たちも明るくさせた。
彼女はたちまち人気者になる。
偶然にも同じクラスになれた俺は彼女を見放題で、毎日が幸せだった。
内気な性格の俺にも話しかけてくれ、たちまち仲良くなった。
昨日のテレビの話とか宿題の話とかたわいも無い話ばかりだが、彼女と話すだけでとても楽しかった。
進級し、二年生になるとクラスは離れた。
とは言っても隣のクラスで、体育の授業では合同で行ったためチラチラと彼女を見かけた。
目が合った時に大きく手を振ってくれる彼女を見たら、顔が熱くなった。
友達からは両思いなんだから早く告白してしまえと、何度も言われたがそんな勇気はない。ただただ遠くで見ているだけで幸せだ。
秋になると彼女が先輩に告白されたという噂を耳にした。あくまでも噂だ。
確かに先輩と一緒に帰っている姿を見かけたことがある。少し寂しい気持ちになったが、彼女が幸せならばと目を閉じた。
三年生。
将来を考えて、受験に備えなければならない。
彼女とのクラスはまた一緒になった。
三年生になってから、彼女が付き合っているのかどうかという話は全く聞いていない。
俺はありきたりな文系。自分の学力に見合った大学を探していた。進路相談室前の資料を見ている時に彼女に再び会った。
「やっぱり進学するの? どこ志望? 私も悩んでてさー」
彼女は隣に立って、本棚の一番上にある本に手を伸ばした。
小柄な彼女の手は届かない。それどころか彼女は簡易的に作られた本棚に体重をかけすぎたため、本棚が傾きだした。
すぐに気づいた俺は彼女と本棚の間に体を入れた。本棚は俺の体に倒れ込んでくる。その重さに耐えきれなかった俺は彼女に覆い被さるようにして倒れた。
バラバラと音を立てて本が落ちる音を聞いて、先生が走ってきた。
俺の下にいる彼女は目を丸くしたまま止まっていた。
先生が本棚を退けてくれ、俺は自由に動けるようになった。しかしぶつけたのか背中が痛む。彼女に心配をかけないように早くこの場を去ろうとした。
「保健室いくよ!」
彼女は強引に俺の手をひいて進む。
彼女に触れたことが無かったので嬉しい反面、引っ張られることで痛みが増した。
保健室の先生に脱がされ湿布を貼られる。
女の先生ならばまだドキドキしたかもしれないが、この学校は男性教諭だ。男ならこれで問題ない、という雑な手当てを受けて湿布をバンバン叩いて終わった。
その間彼女は保健室のソファーに座っていた。
制服を着直しているとき、先生が耳元でこっそりとささやいた。
愛する彼女は泣きそうな顔をしていたぞ、と。
付き合ってないから彼女じゃないと顔を赤くしながらも否定したのだが、先生はなにやら楽しそうな顔をしているだけだった。
身なりを整えて待っていた彼女の所へ向かうと、彼女はごめんなさいと頭を下げた。
気にしなくていい、怪我が無くてよかったと言ったのだが、彼女は目を潤ませながら謝っていた。
帰り道、彼女と連絡先を交換した。
もっとちゃんと謝りたいからという理由だが、片思いし続けてやっと連絡先を手に入れたので舞い上がっていた。
夜、さっそく連絡が来た。
謝罪文がスラスラと……。驚くほど長い文章で、元気な彼女からは想像できないほどの文面だった。
時間をかけてじっくり読んでいくと、気になる文があった。
「久しぶりに会えて、話せて嬉しくなった」
「嬉しさのあまり失敗した」
「ドキドキしちゃってやらかした」
この文からは彼女が俺の事が好きであると思っても仕方ないはずだ。
何度も何度も読み返した。
そのうちに別の事に気づいた。
「あんなことになってしまってごめんなさい。
中々手が届かないからって本棚を倒しちゃって、怪我しちゃったよね。
倒れた時、かばってくれてありがとう。
学校も学校であんな本棚止めてほしい!
少しは新しくて頑丈な本棚にしてほしいよね。
今日ぶつけたところ痛くない?
出来ることがあったら何でも言って!
少しは役に立てるはず! ほんとごめんね!」
長い文章でも最後に送られてきたメッセージ。
いつもなら読み流して終わるが、今日は違う。
改行の位置が気になったのだ。
それを踏まえて読むと、それぞれの文章の頭の文字の縦読みで「あなたが好きです」となる。
気づいたとき、顔がまた熱くなった。
大きく深呼吸して、メッセージを返す。
「男だし、鍛えてるから体は丈夫だし、気にしないで。
練習ももうないし、というか部活も引退したから。
申し訳ないなんて言わないでよ。
すぐに治るから大丈夫。
気にしないでね」
彼女と同じように縦読みで解読できるメッセージ。
送ってすぐに既読のマークがついた。
そしてその直後、着信が入る。彼女からだ。
「私! 私、あなたが好き! 付き合ってください!」
通話ボタンを押してすぐに早口の言葉が聞こえた。
その言葉を聞いて俺はしばらくフリーズした。頭が理解するのに追いつかなかった。
すると心配そうにどうしたの? という声が聞こえてきてやっと理解ができた。
俺は告白されたのだと。
そしてすぐに返答した。
「俺も!」
彼女からの答えは返ってこないどころか、ブチッと通話が切られた。
その後時間がかなり空いてからメッセージが来た。
今度デートしようと。
この日は俺達の記念日となった。
あれから早三年。今日は記念日なのだ。だからこうして、出会いを、思い出している。
進路に頭を抱えていたあの頃。今ではそんな高校を卒業し、今度は就職に頭を悩ませる大学生となった。
大学は彼女と同じ所へ進学した。頭がよい彼女と同じ所へ行くためにはかなり勉強が大変だったが、彼女が熱心に教えてくれた事もあって合格した。
アパートを借りて一人暮らしをしている俺の所へ彼女はやってきてはご飯を作ったりと、ほぼ同棲だ。繰り返す、同棲なのだ。
記念日だから、今日はケーキを買っていこう。きっと家にいるはずだ。
まだ学生。
誰にも言ってないが彼女と結婚することも考えて、将来を考えている。
それはもう少し先のことになるだろう。
付き合って三周年。
長い人生からは三年という期間は短い。
たかが三年、されど三年。
気持ちは変わらない。
彼女と共に未来を作ると決めた。
家の扉を開けるといい匂いがする。
彼女も張り切って何かを作っているようだ。俺は静かにその様子をうかがう。
俺の事に気づいた彼女は、ニカッと笑って口を開いた。
「お帰りなさい」
僕と君との3周年 夏木 @0_AR
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