第23話 泣き虫は人付き合いが苦手ですか? 3
約束の休日はすぐにやってきた。
シズク駅に集合した時、河田さんは俺達にジュード探しに必要となるものを配った。それはジュードの写真と製造番号を記した紙である。
ジュードの形状は当時あの工場で働いていたロボットのもの……人の友人に対して使うのはしのびないが……『量産型』である。
一人一人顔が違うヒューマノイドとは違い、量産型のロボットから特定の者を探すのは困難を極める。そこで製造番号が必要となるのだ。
しかし、ジュードと同じ型の者は既に一揆で倒れたか、後に解体されたかしているので、実際の所はこの写真に写っているロボットを見つけた時点でそれがジュードだと断定していいだろう。
話し合いの結果、効率を考えて、俺と河田さん、神凪とティアの二手に別れて行動する事になった。
具体的に何をするかと言うと、ひたすら聞きこみ調査である。
ロボットは稼働のためのエネルギーが必要となる。作業用ロボットとなれば定期的に整備も必要であろう。だからロボットは他との接触が不可欠なのだ。
今もジュードがこの町で生きているなら、必ず聞きこみで何らかの情報が得られるはず。
調査を初めて3時間ほど経った。結論から言うと、全く有益な情報が得られていなかった。
神凪達の方からも何の連絡も入ってきていない……恐らくあちらも同じだろう。
「見つかりませんね」
「ああ……」
河田さんの声からは全く希望が感じられなかった。
「すまないね、蒼士くん。こんなことに付き合わせてしまって」
「いいえ……」
「実はね、君に聞こうか迷っていたことがあったんだ」
「何です?」
「君は流
この人……親父の事を知っているのか。いや、おかしい話ではないか。工場地帯は広いとはいえ、親父は顔が広かった。
「はい……」
「そうか……流という苗字を聞いた時から、もしやとは思っていたが……」
「何故そう思った時に聞かなかったんです?」
「それはね……怖かったのさ、君に恨まれるのがね……」
「俺が河田さんを恨む……?」
「ああ、蒼也さんはいい人だったんだ。いろんな人に必要とされる人だった。対して俺はひよっこで……いつも同僚に迷惑ばかりかけていた。でも、生き残ったのは俺だった。君は俺に『何で父さんじゃなくてお前が生きてるんだ』と言わないのかい?」
「そんな事……言いませんよ。恨んだりなんかしません」
「本当かい?」
河田さんは安心した表情でそう言った。
「俺は基本的に他人を恨むことはしません。もちろん親父を殺した仇は憎いですが…でも、だからといってロボット全てを恨むことはしない。ましてや、あの事件で生き残った貴方に恨みを向けるだなんて……絶対ありませんよ」
「そうか、それを聞けてほっとしたよ」
俺が憎いのは、俺が嫌いなのはこの世界だ。
親父を死に追いやった世界だ。
人間とロボットのくだらない摩擦によって親父は死んだ。ならば俺はそんな摩擦を生んだ世界を憎む。
「さぁ、調査を続けましょう」
仕切り直して、再び調査を始めた。
1時間ほど聞きこみを続けて、ようやく有益な情報が入った。
「ああ、この型のロボットなら最近見たよ」
たまたま話しかけた男がそう答えた。
河田さんは長時間砂漠を歩き回ってやっとオアシスを見つけたような、そんな希望に満ちた表情をした。
「こっちだ、この路地に人目を気にしながら入って行ったんだ」
河田さんと俺は路地を進んでいく。しかし、すぐに行き止まりにぶつかった。
「あれ、おかしいぞ。ここで終わりだ」
河田さんがそう疑問に思った次の瞬間、俺と河田さんの背中に後ろから何かが押し付けられる。
「動くな」
道案内をしてくれた男はそう言う。どうやら、拳銃を突きつけられているらしい。
「財布と金になる物を出せ」
男は拳銃を背中に強く押し付ける。
「お前、エビルマシンか?いや、どっちかって言うとチンピラに近いが……」
「喋るな!ぶっぱなすぞ!」
五指の登場によって、近頃、エビルマシンが増えている傾向にあるらしいが、まさかこんな時に襲われるとは……
「ほら、さっさと持ってるもん出せよ!」
俺は懐から仮面を取り出す。
「あん?なんだそれは……?」
「これはレアな代物だぞ。どれ、試しに被って見せようか?」
俺は仮面を装着した。
すると、俺の身体は光に包まれ薄暗い路地を照らした。
「な、眩しい……!」
エビルマシンが光でよろめいた隙に『雫丸』を召喚して両断する。
「はぁっ!!」
エビルマシンは無残に地面に転がる。
「蒼士くん、その姿は……!?」
河田さんが鳩が豆鉄砲を食らったような顔で言う。
「えっと、これは……」
非常時とはいえ、流石に人前で変身するのはまずかったか……ここは人気のない路地で見ていたのが河田さんだけというのは幸いだが……
こんな姿を見られた以上、下手な言い逃れは出来ないと思い。俺は秘密の一部を河田さんに説明した。
「そうか、君がソルジャーだったのか……」
「はい……」
「まさか、君がね……」
そう言って俺を見る河田さんの表情は、不思議とにこやかだった。
「河田さん……?」
「いや、すまない。なんだか嬉しくってね。やっぱり君はあの蒼也さんの息子なんだな」
「え?」
「蒼也さんはね、他人のために自分に出来ることなら何でもやる人だった。そして今の君も同じだ。自分にしか出来ない事をやっている。いや、しかし町のヒーローとはね……」
以外にも河田さんは俺の言うことを疑うのとなく受け入れ、感心した。
「敵と戦うのは怖くはないのかい?」
「怖いですよ、言ったでしょう?この仮面は涙を流さないと機能しないって」
河田さんは少し笑った。
河田さんはこの秘密を誰にも漏らさないと約束した。
彼の目を見て、俺は信用できると確信した。
倒したエビルマシンは警察に届けた。警察には「壊れているところを見つけた」と適当な嘘をついておいた。
「なぁ蒼士くん、君は何でソルジャーになろうと思ったんだい?」
「無論、お袋を護るためです」
「そうか……」
河田さんはどこか腑に落ちない表情だ。
「いけませんか?」
「いや、いいんだ、立派だとも。でもなんだか、本当にそれだけかと思ってね」
「どういう意味です?」
「君が護りたいのは本当にお母さんだけなのかな? とね」
「違うって言うんですか?」
「うーん……」
「勿体ぶらないで言ってくださいよ」
「いや、それは自分で考えなさい」
自分で話を持ち出しておいて肝は言わないのかと、少しモヤっとした。
住宅街を少し歩いた所で急に河田さんが叫んだ。
「ああっ!」
「どうしました!?」
「蒼士くん、今の見たかい!?今そこの通りを通りかかったロボットを!」
河田さんが俺の肩を叩きながら言う。
確かに今向こうの道をロボット……いや、ヒューマノイドらしきものが通って行った気がしたが……
「それがどうしたんです!?」
「間違いない、あれはジュードだ!!」
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