第22話 泣き虫は人付き合いが苦手ですか? 2
とあるロボットを探しているというその人の名は、河田次郎さんと言うらしい。
探しているロボットの名はジュード。2人は5年前、共に南部の工場地帯で働いていたそうだがケイオス一揆後にジュードは行方不明になり、今に至るまで消息が詰めていないそうだ。
「冷たい事言いますけど、そのロボットはとっくにこの世にいないんじゃないですか? 一揆の時にやられたんですよ。だってもう5年間も行方がわからないんでしょ?」
もし仮にジュードが一揆で生き残っていたとしても未来はないだろう。
ケイオス一揆に関わったロボットは一体残らず拘束されたはずだ。この後は言うまでもなく分解……人間で言うところの死刑である。
「俺も最初はジュードは死んだと、そう思ったよ。でもその証拠がなかったんだよ。一揆で倒れたロボットの名簿にも、その後拘束されたロボットの名簿にも名前がなかったのさ」
「しかし、それでも今彼が生きているとは考えにくいですよ。ジュードのように一揆で生き残り、なおかつ分解もされずに行方不明になったロボットは型式番号と画像データを日本中……いや、世界中で晒されて、言わば指名手配されたんだ。街を歩けば人に見つかるし、監視カメラにだって映る。仮にそれをかわして警察や保安部隊から逃れても、まともに生きていくのは不可能だ。誰も寄り付かない山か森かでエネルギー切れで野垂れ死ぬのがオチです」
「先輩、そんな言い方……」
「いいんだ、彼の言うことは正しい。俺だって初めはそう思ったよ。でもね、なんだかアイツは……ジュードは生きてる気がするんだ」
「生きてる気がする……?」
「そうさ、信じては貰えないだろうけどね……でも、俺は本当に思うんだ。ジュードはまだ近くで生きている。この町にいる」
俺は正直、ジュードというロボットはとっくにどこかで錆び付いていると思った。
それは河田さんの意見を聞いても変わらない……この人の言っていることは希望的観測に過ぎないと思った。
そして、もし仮に生きていたとしても、探す必要はあるのか、とも思う。
「あなたの言うことはわかりました。でも河田さん、わかっているんですか? ジュードを探すこと……見つけてしまうということは……」
「保安部隊にジュードを差し出さねばならない……かい?」
「そうです、一揆に参加したロボットを野放しには出来ない。ヤツらは……」
「わかっているよ。あの一揆で俺の同僚も命を落とした。ロボット達がやった事は許されないことだ。でも、ジュードは違う。アイツは人間を襲ったりしていない!」
「どういうことです……?」
「世間では報道されなかったが、あの一揆で工場の全てのロボットが人間に反逆した訳じゃない!一揆の首謀者……ケイオスに命令されても銃を取らなかったロボットも少なからずいたんだ!」
「それがジュードだっていうんですか?」
「ああ、そうさ! アイツは優しいやつだった! 一緒に働いていた俺が言うんだ、間違いない! 人殺しなんてしない!」
河田さんの眼に曇りはなく、心からの真実を言っているという迫力があった。
俺は思わずその眼に圧倒され、言葉を失った。
そして、次に神凪が口にした言葉でさらに俺は衝撃を受けることになる。
「河田さん、私手伝いますよ、ジュードを探すの」
「ほ、本当かい!?助かるよ!」
神凪はにっこりとした笑顔で河田さんに提案する。そして、俺にも……
「流先輩、探すの手伝いませんか?」
「神凪……?」
「だって、河田さん本気じゃないですか。私今の話聞いてたらジュードを会わせてあげたくなりました」
「……」
「それに、もしジュードが凶悪なロボットなら尚更探し出して捕まえないといけません。だから探しましょうよ、先輩」
俺は確信していた……神凪がジュードは人殺しのロボットではないと思っていることを。
もしもの話をしたのは俺をジュード探しに付き合わせるためだ。
俺はそんな事に付き合っている時間など無いと思った。しかし、俺の口からはそれとは反対の言葉が出た。
「わかったよ、神凪。お前には借りがあるからな……俺も手伝うよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
神凪は河田さんに「よかったですね」と笑顔で言う。
結局、次の休日に河田さんと待ち合わせして、ロボット探しに乗り出すことになった。
予定が決まっても、俺の心の中には疑問が残っていた。
「何故俺はあの時、手伝うと言ったんだ……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます