第21話 泣き虫は人付き合いが苦手ですか? 1

 それは下校中の事だった。


 俺はふと気がつくと、それを吸い付く様に見てしまう病気にかかっていた。


 妙に気になってしまうのだ。


 しかし、それは決して好きで見ている訳では無い。見ていて癒されるとか、心が落ち着くとか、そんなことは決してない。


 寧ろ、モヤモヤするというか、思わず眉を寄せる様な気分になる。


 通常では有り得ないであろう、ゆらゆら揺れるその物体は俺の視覚情報に違和感しか与えない。


ながれ先輩、ボクのアホ毛レーダーばっかり見てどうしたんですか?」


「いや、どうしたもこうしたも……一体なんなんだそれは…?」


アホ毛レーダーです」


「それは分かっている。何でアホ毛がレーダーになってるんだ?」


「それはボクを作ったコメット博士の趣味です」


 趣味だと? この娘にとって恐らく相当重要な機能であるところのレーダーをそんな適当な理由で決めているのか?


 理解に苦しむ俺の事など知らず、ティアの頭部に突き刺さっているそれはゆらゆらと揺れる。


「くそ、やっぱり気になるぞ! 抜いていいか!?」


「いや、ダメダメ!これはボクにとって重要な属性なんだから!」


 アホ毛を引き抜こうとする俺の手をティアは全力で拒む。


「ちょっとルイも止めてよ、黙ってないでさぁ」


「あ、ごめん。先輩がこんなに喋ってるのを見るのは初めてだったから、つい」


 確かに、こんなふうに会話をしながら下校するのも随分と久しぶりだ。


「まぁ、お前らには俺の秘密を知られてしまったからな。もう、わざわざ距離を置く必要も無いだろう」


 いや、寧ろこれからはこの2人との連携は重要なものになってくる。


 俺は家族を護るために仮面を手にしたが、その強大な力を持ってしても1人だけでは敵に勝つことは出来ないと知った。


 ミドルとリングが現れた時、俺はミドルを倒すだけで精一杯だったし、神凪がいなかったら俺は命を落としていた。


 俺は馬鹿でもなければ恩知らずでもない。戦うために他人との協力が必要となれば知れば、それを拒む理由は無いのだ。


「五指が来たとわかったら直ぐに俺に知らせろ。残りの2人からも絶対に護るべきものを護ってみせる」


「その覚悟はいいですけど……自分の身も大切にしてくださいね。今度ビルから落っこちても私は受け止めませんから」


「ああ、できるだけ……」


「いいえ、『絶対に』です!」


 神凪はその力強い瞳で俺に言った。


「わかったよ、俺も生きる……絶対にだ」


 俺が言うと彼女少し笑った。



 下校中、工事中のシズク駅前を通るとなんだか人だかりがあった。


 人々は何やら携帯端末で写真や動画などを撮っている様だ。


「なにかあったのかな?」


「見てみよっか」


 普段なら見向きもせずに通り過ぎる所だが、ティアと神凪が気になっているようなので、俺も人混みをかき分けてそれを見に行った。


 人混みを抜けると、そこには1人の男が立っていた。


 彼には失礼だが、容姿はこれと言って特徴のない普通の成人男性だ。


「俺は五指だ! 戦闘型ヒューマノイドだ! 人間共、俺の前に跪け!」


 彼は右手にハンドガンらしきものを持って叫んでいる。


 どうやら自分の事を五指だと名乗っている様だ。しかし、周りの連中はそれを聞いても逃げることはせず、叫ぶこともしない。寧ろ面白がってカメラのレンズを向ける。


「おいティア、あいつは五指なのか?」


「それが、ボクは五指のメンバーの名前は知ってるけど容姿については知らないんですよね。サマンサは五指のリーダーで女性形って事しか知らないし、フォウに至っては名前以外ノー情報です。でも、多分この人は五指じゃないです」


 一応ティアに確認したが、やはり違ったか。


「おい、あんた五指どころかヒューマノイドですらないだろ?」


「え……」


「図星か」


「ひ、ヒューマノイドなんて見た目は人間と同じじゃないか!体の中を調べない限り分からないはずだ!くそ、なんで皆俺が凶悪なエビルマシンだと信じないんだよ……」


「あんた、それが分からないのか?」


 男は言葉に詰まる。


「あんた、緊張して顔に汗かいてるだろ。ヒューマノイドは汗や涙みたいな分泌液は出せない」


「はっ……!」


 男は言われてやっと気づく。


「あと、その手の銃も実銃じゃなくてモデルガンだな? 銃口からちらっとインサートが見えた」


「げっ……何でこの距離でこんな見えにくいものが見えたんだ?あんた視力幾つだ?」


「いや、嘘だよ。でもモデルガンってのは本当らしいな」


「なに……!騙したな!?」


 男は五指でないことを見破られ、そこに座り込んでしまった。


 人混みの中からくすくすという笑い声が聞こえる。


「まぁなんだ、今度人脅す時は銃の安全装置外しときなよ」


「先輩、もうやめてあげて下さい。この人が可哀想に見えてきました」



 この後しばらく経つと人混みはどこかに消え、男と俺達だけが残った。


「なんであんな嘘を?」


「来て欲しかったんだ……」


「保安部隊に? 捕まりますよ?」


「いいや、違う。ソルジャーだよ」


「え……」


「ニュースで知ってるだろ?とっても強い力を持ったこの町の救世主さ……」


 俺はそんな言葉聞いてもなんとも思わないが、神凪の顔は真っ赤だ。何故かティアはその顔を見てニヤついている。


「何故そこでソルジャーなんです?」


「頼みがあったんだ彼らに……」


「頼み?」


「そうだ、あるロボットを……俺の友達を探して欲しくて」



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