第24話 泣き虫は人付き合いが苦手ですか? 4
俺と河田さんは住宅街を走る。
しかし、目指す先にいる彼はジュードとは違う。貰った写真とは明らかに形状が違う。なのに何故河田さんはあれをジュードだと言ったのか。嘘を言っているようには見えなかった。故に疑問は強かった。
「ジュード! 俺だ、河田だ! 止まってくれ!」
「河田さん、急にどうしたんです!? あのヒューマノイドが何だって……」
ヒューマノイドは俺達に気がついて振り向いた。
「河田……?」
「そうだ、河田だ!ジュード、やはりジュードなんだな!?」
ヒューマノイドは河田さんを知っているのか?それでは本当にジュード?
「河田、なんでお前がここに……?」
「お前を探していたんだよ、ジュード!」
ジュードと思しきヒューマノイドは目を見開いて驚く。
「何でお前……僕がわかるんだ? 」
「友達を見間違えるわけないだろ!? 人目見た時に確信があった!」
「でも、こんなに姿が変わって……」
「歩き方だよ、お前の歩き方は特徴的だったからよく覚えていた!」
歩き方に特徴なんてあったか? いやしかし、ジュードだったってことはあったってことか。
「いや、でも、何でこんな姿でこんな所にいるんだ?」
「それは話せば長くなる……そうだ、これから時間はあるかい? ある人に会わせたい」
話によるとジュードは一揆の後、燃料切れで倒れていたところをある人に拾われたらしい。
今はその人の元で働いているらしく、ジュードは雇い主に会わせたいのだそうだ。
俺はすぐに神凪に連絡をとり、合流してからジュードに案内を頼んだ。
ジュードに導かれ歩くと、やがて立派な高層マンションにたどり着いた。いかにも金持ちが住んでそうなマンションだった。
俺達がが恐る恐る周りを気にしながら中に入ると、ジュードは「早く、こっちだ」と急かして歩かせた。
何階まで登ったのかは分からないがとにかくエレベーターに乗っている時間が長かった。
エレベーターから出て部屋に案内されると、ここで待っているようにと、だだっ広い応接室に入れられた。
どんな富豪が顔を出すのかと心臓を震わせながら暫く待っていると、ドアが開いてジュードの雇い主が現れた。
「初めまして」と挨拶しようと思っていたが、その人の顔を見て言葉を失った。
俺、神凪、ティアの目が点になる。
「ハイハイいらっしゃい!この
「斑賀先輩!? え、嘘……どういうこと!?」
「どういうことって何よ……いらっしゃいって言ったのよ?」
どうやら、この高級マンションの一室は斑賀紫紋の住まいだったらしい。
「一人暮らしとは聞いていたが……お前、こんな所に住んでたのか」
「ええ、アタシお金持ちだから」
なんて偶然だ。すごく怖い。ジュードが生きていたのも驚いたが、斑賀紫紋が関係していたのはもっと驚いた。
「えっと、お前がジュードの雇い主で間違いないんだな?」
「ええ、そうよ。5年前、一揆跡地で倒れているのを見つけて介抱したの。それで行く宛もないって言うから今は家の召使いをやってもらってるわ」
ジュードを拾った時、警察に突き出すことも考えたそうだ。しかし、ジュードは斑賀に自身のメモリーチップを差し出した。
メモリーチップにはそのロボットの記憶の一切が記されている。ロボット自信が開示することによってその記憶は何年前のものであっても見ることが出来る。
メモリーチップにはジュードが一揆で人を傷つけたという記憶は無かった。それどころか首謀者のケイオスを止めようとして、ケイオスに返り討ちにされ捨てられたらしいことが分かった。
それを見た斑賀はジュードを信用して、彼をヒューマノイドに改造し、家に置いたのだそうだ。
「しかし何故だ、ジュード。何故俺に連絡してくれなかったんだ?」
「それは……河田に合わせる顔が無かったからさ」
「どういうことだ?」
「だって俺達ロボットが起こしたあの一揆で20人以上の人間が死んだんだぜ?」
「でも、それはお前がやった事じゃないだろ?」
「でも……」
「俺は人間とか、ロボットとか、そんなくだらない境界を友人関係に持ち込まない!お前はロボットである前に俺の友達だ!」
「河田……」
「俺はお前に再会できて嬉しいぞ!」
「ああ、僕もだよ……!」
2人が男らしく抱き合うのを見て、俺は思った……俺が守りたかったものはこれなのかもしれないと……
「頼む、蒼士くん、ジュードのことは……」
「警察には言いませんよ」
「本当か!?」
「ええ、仮に言ったって、そこまで容姿が変わってたんじゃあ信じてもらえないでしょ?」
「ありがとう、蒼士くん」
あの時の河田さんの問の答えが何となくわかった気がした。
俺は確かにお袋を護りたい。でも、それだけじゃダメだ。お袋1人を護ったところで、お袋は救われない。
俺はこの町を、町の人々を、今ここにある幸せとこれからも続く平和を護る。
そうすればお袋だけじゃない、神凪も、ティアも、ついでに斑賀も、皆笑顔で暮らせる。皆が笑顔なら、お袋はもっと笑顔になる。あの人は優しい人だから……
河田さんとジュードは斑賀のはからいによって、2人で町に出かけた。きっと積もる話もあるのだろう。
「神凪、ティア」
2人は首を傾げて俺を見る。
「その、なんだ……俺と友達になってくれないか?」
2人は顔を見合わせ、途端に笑いだした。
「え、駄目だったか? 俺がダチじゃ不服か?」
「あはは、何言ってるんですか。先輩と私達はもうとっくに友達じゃないですか?」
「え……?」
「学校から一緒に帰ったり、日曜にこうして外で会ったり、これって友達のする事じゃありませんか?」
「そうなのか……?」
「大変だ!この先輩、ぼっち生活が長すぎて友達とは何たるかを忘れてる!?」
今一度思い返して納得した。
「ああ、そうだな、友達……だな」
神凪達はにこにこと微笑んでいる。
「ねぇねぇ、じゃあアタシは?」
斑賀が俺の背中にのしかかる。
「斑賀、まだ居たのか!?」
「いや、だってここアタシの家よ?」
「ああ、いいよ。お前もついでにダチって事にしといてやる」
「もう、正直じゃないわね。本当はアタシと友達以上になりたい癖に」
「なるか!だいたい男同志で友達以上ってどういうことだ!?」
この会話を見て、神凪達はとうとう声を出して笑った。
「よし、駅前のたい焼きでも食いに行くか!俺の奢りだ!」
「「やったぁ!」」
「アタシにも奢ってくれるの?」
「お前は自分で買えよ、金持ちなんだから」
俺は長らく失っていた何かを得たような気がした。ぽっかり空いたパズルに大切なピースがはまったような気がした。
俺はこれを護りたい…いや、護るんだ。
俺の五指との戦いへの覚悟はより強固なものになった。
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