第42話 私も泣き虫になれますか? 2
「悪い、遅くなった。拉致された人達を逃がすのに時間がかかってな。エレベーターがめんどくさいから天井を貫いてきたんだが、どうやら正解だったらしい」
「ふふ、本当ですわ。貴方さえいなければ神凪ルイを倒せていましたのに」
流先輩はあたりを見渡す。
「五指は全滅か……斑賀のやつは本日二回目の再起不能だな。あいつ、ボディを交換して復活するや否や急にサマンサを止めるとか言い出したが……俺が来る前にやられやがって」
「しかし、これでソルジャー同士の戦いになったというもの……最終決戦に相応しくなったと思いませんか?」
「いや、まだ役者は揃ってないぜ」
その時、エレベーターがこのフロアに到着する音がした。ドアが開くのを私達は見つめる。
乗っていたのは1人の老人だった。
「おやおや、随分と研究所をめちゃくちゃにしてくれたようじゃの、サマンサ」
「コメット博士……」
この人がコメット博士……?サマンサや五指、そしてティアの生みの親……てっきり死んだものだと勝手に思っていたけれど、生きてたんだ。
「面倒な方を連れてきてくれましたね、流蒼士」
「町の人達と一緒に監禁されてたのを見つけてな、この爺さんにはこの戦いを見届ける義務があるはずだ」
「そうですか、ならば見ていただきましょう……あなた方が無残に倒れる姿をね」
「ふん、誰がそんなもの見るか! ワシは我が子の目を覚まさせに来ただけじゃ!」
「言うじゃないか博士! でもあんたは下がってな! 戦いは俺達の仕事だ!」
流先輩は剣を構える。
「『
私も武器を召喚し構える。
「来なさい、『
サマンサは銃をもう一丁召喚した。
「二丁拳銃か……!二人共、あれは感情物質の圧縮弾を発射する銃だ! ソルジャーのスーツでも簡単に貫通するぞ! 必ず防具か武器で弾き飛ばせ!」
「さぁソルジャー、この速度の弾丸を防げますか?」
サマンサは私と先輩に同時に弾を飛ばし、それと同時に私と先輩はサマンサに突撃する。
ソルジャーが召喚された銃だ、通常のハンドガンの弾速とは訳が違う。しかし、私と流先輩はそれをそれぞれの武器で弾き返した。
「……?」
「防げないと思ったか? 残念だったな、お前は狙いが正確すぎるんだよ!」
「五指の3人を倒した時、サマンサは正確に3人のコアを潰していた。それほど貴女の射撃は正確… しかしそれは言い換えれば確実に急所に当にてきてくれるということ。いくら高速の弾でも来る場所がわかっていれば反応のしようがある!」
「小賢しいですね……!」
サマンサは再び引き金を引く。今度は脚と腕を狙ってきた。しかし、その弾丸も私達に弾かれる。
「何……!?」
「今度はあえて狙いをずらしてきたようだけど無駄よ!」
サマンサは恐らく再び弾丸を防がれたことが疑問だろうな……彼女は私達が飛んでくる弾丸を見て、それに対応していると思っているのだろうがそれは違う。私達は弾丸が放たれる前の銃の砲身の角度を見ている。サマンサが腕を動かし狙いを定めたその瞬間に弾道を予測することによって、紙一重ではあるがあの弾の速度に対応出来るのだ。
サマンサは三度引き金を引く、しかし、私達は先と同様攻撃を防ぎ切った。
「そんな……!」
正直なところ、鎧装を召喚すればわざわざこんなことをしなくとも弾丸を一発か二発は耐えられる。しかしそれをしないのは、これがどちらが先に感情物質を切らすかという戦いだからだ。
サマンサはティアが一年間吸収し続けた感情物質を持っている。それは私や流先輩が持っている量を遥かに凌ぐ量だろう。武器や防具の召喚は相当な感情物質を消費するから、ここで鎧装を召喚すれば先に感情物質切れを起こすのは私達……だから必ず外装なしで銃に対処しなくてはならない。
「どうしたんだ、サマンサ!? 制度が鈍ってるぜ!?」
「黙りなさい!」
先輩の挑発に乗りサマンサは引き金を引くが、弾丸が発射されない。
「よし、これを待っていた!」
サマンサの弾丸は圧縮した感情物質で出来ているため、威力はソルジャーの兵装の中でも群を抜いているが、一発打つのに相当な感情物質を必要とする。だからサマンサに多く発砲させれば、それだけの感情物質を消費させることが出来る。
初弾の発砲の時、あたかも急所に狙って来ることに確信を持っているかのように言ったが、あれは嘘だ。実は心臓か頭を狙ってくるのではという予想はしていたが確信までは持っていなかった。
あんなことを言ったのはもちろんサマンサに弾を使わせるためだ。彼女に少し狙いをずらせば弾丸を防ぐことは出来ないと思わせることによって、銃を使わせるように誘導する。
軽く煽っておいたかいもあって、作戦通りサマンサは多くの弾を撃ってきてくれた。
五指に三発、私と先輩に三発づつ、合計九発もの感情物質の圧縮弾を使い、やっとサマンサの感情物質の底が見えてきた。
今こそこちらから仕掛ける時だ。
「今だ、神凪!」
「はい!」
「『夜の
「『
二人同時に召喚出来うる全ての武装を身に纏い、仕掛ける。
まだ変身が解けていないところを見るとサマンサにはまだ多少は感情物質が残っているようだが、『たった一人だけのための理想郷』を発動するほどの力はないはず。今の彼女は全力全開のソルジャー2人の攻撃を防ぐ術はない。
「「合体
私の拳と先輩の剣、その2つを同時に繰り出すことによって死角は死ぬ。回避不可能の必中必殺の技である。
「「うおおおあああ!!」」
しかし、攻撃が命中する瞬間、サマンサはニヤリと笑っているのが見えた。そして、異変に気づく。
攻撃が当たらない……というより、体の動きが止まっている。まるで時でも止まったかのようだ。
どうやら流先輩も同様らしい。
完全に動かない。指をピクリと動かすことさえ叶わない。
サマンサは私達が硬直している隙に攻撃を繰り出した。私には突きを、先輩には蹴りをそれぞれの顔面に容赦なく叩き込む。
あろう事か2人もの仮面を割られた。
私は何が何だか分からず宙を舞う。空中で武装とスーツが崩れていく。私は吸いつけられるように床に叩きつけられた。
向こうを見ると先輩が倒れていてピクリとも動かない。
床を見れば真っ二つになった私の仮面があった。
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