第41話 私も泣き虫になれますか? 1

 なんて女だ。究極にして最大の切り札を持っていた。ヒューマノイドとソルジャーの両方を持つことが許されてしまったなんて……無敵だ。


「なんでヒューマノイドがソルジャーに……」


「ティアが今まで貯め続けた感情物質を私の体内に移しておいたのです。そしてそれをこの仮面に供給すれば、例えヒューマノイドの私でも変身は可能」


 サマンサは圧倒的劣勢の見られる状況でも不敵に笑っていた。それは根拠の無い強がりだとばかり思っていたが、そんなことは無かった。


 戦況が一転し、荒れ狂う波のような恐怖が私達を襲う。


「くそ、しょうがないわね」


 斑賀先輩は指を唇に当てる。


「やめておけフォウ、スペアのボディじゃ『光線接吻レーザー・キッス』の反動に耐えきれない! エネルギーも使い果たして動けなくなるぞ!」


「今はこれしかないのよ! なぁに、身体がスクラップになっても後で誰かに運んで貰えばいいわ」


 斑賀先輩の指先にエネルギーが溜まる。


「『光線接吻』!!」


 放たれた光線はくうを割いて直進する。数メートル離れた位置にいる私ですらその熱量を感じさせるほどの光線……狙いは言うまでもなくサマンサの動力路コアである。


「無駄です、『たった一人だけのための理想郷クローズ・オブ・アヴァロン』!」


「何……!?」


 光線が命中する直前、召喚されたアーマーがサマンサを取り囲んだ。光線はまるで自分からサマンサを避けて通る様に曲線をえがいて進み、奥の空間に消えていった。


 斑賀先輩の腕は光線のエネルギーに耐えきれず焼け焦げてた。


 それに反してサマンサは涼しい顔をしている。


「あの時お坊ちゃんが使った鎧か……」


 斑賀先輩はエネルギーを使い果たしてばたりと倒れた。


「まずいな、リーベのお坊ちゃんと同じ能力ってことは……」


 サマンサの斬られた右腕がみるみるうちに復元される。


「絶対的防御と回復……それが『たった一人だけのための理想郷』の能力です。この鎧を召喚している間は行動不能になってしまうというデメリットはありますがね」


 サマンサは鎧を解除し、新たな武器を召喚した。


「銃か!?」


「リング、盾を!」


「わかってるって!」


 リングは『防壁輪シールド・リング』を展開しようとするが、その時には既にサマンサは銃を構えていた。


「遅いですよ」


 高速で放たれた弾丸は『防壁輪』が展開される前に五指3人を撃ち抜いた。撃たれた3人は倒れて動かない。


「こんな所で爆発されても困りますし、再起不能にするツボを狙わせていただきました」


 あまりにも的確で素早い動作に私は言葉を失った。


 さっきまでサマンサを追い詰めていた者達が、まるで最初から弱者だったかのようにそこら辺に転がっている。この状況が恐怖となって私の心臓を締め付けた。


「今は逃げろ、神凪ルイ! 今のお前に勝ち目はない!」


「うるさいですよ」


 ネイルの声を耳障りに思ったようで、サマンサはスピーカーを撃ち抜いた。


 私は遂に1人になってしまった、いや、1人に戻ってしまった。


 勝ち目は見つからない。しかし、逃げるという選択肢はない。何故なら連れて帰るべきティアはすぐそこにいるからだ。


「次は貴女です。神凪ルイ」


 サマンサは照準を定める。


 いくらソルジャーと言えどもあの速度の弾丸は回避できない。


 万事休すと思われ私がごくりと喉をならしたその瞬間、サマンサの後方の床が下から突き上げられるように破壊され、飛び散った。


「下の階から突き破って……誰です!?」


 瓦礫の中には見慣れた黒い影があった。


「次はお前だよ、サマンサ」


「流先輩!」


 その姿は紛れもなく我らがソードソルジャー……流蒼士だった。



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