第38話 泣き虫は美しくないと思いませんか? 2
サマンサの予想外の発言に私は言葉を失った。
時間でも止まったかのような衝撃だった。この女はどんな悪巧みをしているのだろうと思考をめぐらせていたが、そんなものは無に帰るほどのショックだ。そして彼女はそれを満面の笑みで言うのだから末恐ろしい……寒気がする。
「信じられない、という顔ですね」
「だって……いや、それより可能なの?」
「さぁどうでしょう……」
「さぁどうでしょう……?」
「何せ人を生き返らせた前例なんてありませんから。でも感情物質は無限の可能性を持った物質です。少しくらいは可能性はあるでしょう」
「でも、いくらなんでも……」
私の言葉など受け付けないと言った感じに、サマンサの自信ありげな表情は崩れない。
「貴方のソルジャーの力……今はさも当たり前のように使い倒しているようですが、仮にその仮面を得る前の貴女にこんな力がありますよと説明して信じると思いますか?」
「それは……」
「信じないでしょうね。不可能に近いだと思いますよね。恐らく誰しもそう思うでしょう。しかし、それを実現させたのが感情物質なのです。そういう考え方をすると、死者の転生でも出来そうだと思えてきませんか?」
「それでも1%くらい……?」
「ええ、それでも充分ですわ。いいえ、たとえ0.1%の可能性だったとしても私はそれを必ず掴みます!」
サマンサはテーブルを叩き、身を乗り出して言った。その力強く堂々とした姿に私はおされた。
「丁度、ダージリンを飲み干したところです。そろそろ始めましょうか」
「始めるって……?」
「可能性を掴んでご覧に入れましょう」
サマンサが柱に設置されているコントロールパネルをいじるとフロアの奥にあるスペースの床が動き出し異様な装置が姿を現した。
「『不死鳥の門』です。これは感情物質を貯蔵したタンクに繋がっています」
「まさか、これで本当に……!?」
「お喜びになって。貴方は世紀の瞬間に立ち会うのですよ」
サマンサは遂に始動ボタンを押した。
『不死鳥の門』が起動し転生が開始する。発生したプラズマが装置中央の円盤に集中し、何かを形づくっていく。しばらくすると、それが人の一部だということが分かった。
「足!?」
目を刺すような光を伴って、少しづつリーベ・フライハイトのようなものが顕現していく。
「そうです、もう少し!……ふふふ、遂にわたくしの元に戻ってきてくれるのですね、お坊ちゃま!」
サマンサは歓喜の表情を見せたが、しかし、私は目の前の光景を決して喜べはしなかった。寧ろその逆で……恐怖と言えば大袈裟だが……どこか踏み込み難い領域を見ている気がして後ろめたく思った。
私がそんな事を感じている事など知る由もなく、また、知ったところで揺るがず笑っているだろうサマンサだが、すぐにその笑顔が歪むことになってしまう。
やはり死者を蘇らせるという事は不可能なのか、それとも可能になってはいけないことなのか、私達の前でリーベになりかけたそれは呆気なく弾け飛んで光となって消えた。
「そんな……」
「やっぱり、無理だった……」
「無理なはずありません、感情物質の力はこんなものでは……」
「サマンサ、もう諦めよう。不可能なんだよ。それは貴方が力不足だからじゃない……神様が決めた事なんだ……死者を蘇らせることはどうしても出来ないんだ」
「不可能? 神様が決めた事? そんなの関係ありませんわ! お坊ちゃまのためならば私は神様だろうと跪かせてみせる!」
サマンサはコントロールパネルを弄る。
「まだやる気!?」
「決して感情物質の出力は悪くなかった。今のはゼロから作ろうとしたのが間違いだったのです。依り代となるものがあればきっと……」
「それはどういう……」
天井のパネルが開きカプセルがアームで降りてきた。アームは『不死鳥の門』まで伸び、カプセルは『不死鳥の門』のジョイントに固定された。
透明のカプセルからは内部が見える。
「ティア!?」
「彼女はリーベおぼっちゃまに似せて作られたヒューマノイド……彼女を依代とすればきっと……」
「何言ってるの!? そんなことしたらティアの精神は……!」
「そんなこと知ったことではありません!」
「なんだと!?」
「リーベおぼっちゃまを……あの方を生き返らせるためです! たかがヒューマノイド一体の犠牲など!」
「たかが、だと……サマンサ!」
やっとティアまで後一歩の所まで近づいているのに……ここで失うなて絶対嫌だ。帰る時は笑顔でいれるように今私は涙を流す。
仮面を装着して変身する。
「この戦い、私は勝つまで泣き止まない」
「大人しくしていなさい、神凪ルイ!」
サマンサは左腕を変形させ、私に突風を浴びせる。私が風で身動きが取れずにいる間に右腕で『不死鳥の門』を操作する気のようだ。
「くそ、風が……! やめて、サマンサ! こんなことしたってリーベは喜ばない!」
「貴女にお坊ちゃまの何がわかる、それにもう手遅れです……『不死鳥の門』は開かれた!」
『不死鳥の門』が再び起動する。
「何……!?」
「ふふふ、残念でしたね、神凪ルイ!」
「畜生、やめろぉ!」
しかし、『不死鳥の門』は光をぶちまけてリーベを呼ぼうとしたその瞬間、スイッチが切られたように停止した。
「え、!?」
「どういうこと……!?」
辺りは静まり返る。
私の思いが天に通じたという訳ではなさそうだが、どうやら一時的に危機は回避したらしい。
「『不死鳥の門』の故障?いや、異常は無い……ではどうして!?」
「へへ、感情物質の貯蔵タンクとの接続を切ったんだよ、サマンサ」
フロアのスピーカーから誰かの声が聞こえる。聞きなれない声だが、しかし、以前にも聞いた声だ。
「誰……!?」
「え、覚えてないのかよ、神凪ルイ。ショックだな……でもまぁ、早々に退場した俺の事なんて覚えてないよな」
「早々に退場した……? まさか!?」
「思い出したか? 俺はネイル。最初にお前が倒したエビルマシンだ」
ティアの危機を救ってくれたのは思いもがけない相手だった。
「まぁ、疑問に思ってることはわかるぜ。なんで俺が生きてて、おまけになんでお前らを助けたのかってんだろ? まずなんで俺が生きてんのかって言うとだな、駅前で倒された俺は5人いる俺のうちの1人に過ぎないからだ」
「5人いる!?」
「そうだ、俺は5つの身体を持ったヒューマノイド……しかし精神は全て繋がっていて、同時に全てのボディを動かすことも出来る」
サマンサがその発言に、言葉は出さないが反応する。どうやら彼女も知らなかったことらしい。
「じゃあ、わざと1つの身体を失うことによって、倒されたように思わせたって事? でもなんでそんなことを?」
「それは2つ目の疑問に関わってくるな……せっかくだ、それはこいつらに教えてもらいな」
突然、後方のエレベーターのドアが開き4人の男女が出てきた。
その顔ぶれを見た瞬間、私は目を疑った。
「神凪ルイのやつ、驚いてやがらぁ」
「あの娘、てっきりウチ達を倒したと思い込んでるんじゃない?」
「仕方あるまい、そのように見せかけたのだからな」
「あんたらはいいわよね、ゆっくりボディを取り替える時間があって、アタシなんてさっき古いのをやられたばっかなのよ」
何だか振り出しにでも戻った気分だった。今まで自分は何をしてきたのかと、思考を巡らせざるをえなかった。
「リトル、リング、ミドル、それに斑賀先輩……一体どういうこと!?」
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