第37話 泣き虫は美しくないと思いませんか? 1
マップで見た限りでは研究所の最上階はいくつかの研究室で構成されたフロアだったが、いざ行ってみると大分違った。研究室同士の壁が取り払われており、だだっ広い空間になっていたのだ。
内装も研究室とはとても思えない雰囲気で、どこか西洋風の宮殿を思わせる柱や装飾が備え付けられていた。
中心には円形のテーブルがあって、椅子には何処か落ち着きのある様子で1人ぽつんと彼女が座っていた。
「サマンサ……」
「御機嫌よう、神凪ルイ。どうぞお掛けになって」
サマンサは彼女の正面の椅子に座るように勧めた。
私は何を企んでいるのかわからなかったが、取り敢えずここは指示に従ってやろうと座った。
「ティアは?」
「心配しないで下さい。ちゃんと元気ですし、すぐ会わせて差し上げますわ。それよりお茶はいかが?丁度今いれたところです」
サマンサはティーポットから紅茶をカップに注ぎ私に差し出した。
「お茶……?」
「遠慮なく召し上がって下さい」
「いや、そうじゃなくて……」
毒入ってるでしょこれ……?
「まさか何か仕込んでいると?ふふ、そんな小賢しい真似しませんよ。だって美しくありませんもの」
サマンサは自分のカップにも紅茶を注ぎ、口へ運んだ。
「ヒューマノイドなのに……紅茶を飲むの?」
「ええ、味覚がないので味はさっぱりですが……でも、ティアだって貴女と食事をするでしょう?」
「それはティアが私に付き合ってくれてて」
「わたくしも同じですわ。味ではなく雰囲気を楽しんでいるのです。そうですね、昔は大切な人とこうしてお茶を飲んだものだわ」
「大切な人って……リーベ・フライハイト?」
「ご存知でしたのね」
「彼を亡くしたから人間達に復讐してるの?」
「復讐? わたくしはそのようなことをした覚えがありませんわ」
「五指に町の人を襲わせたり、拉致させたりしたでしょ!?」
「ええ、確かに命令しました。でもそれは復讐のためではありません」
「どういうこと?」
「そうですね……もう話してしまってもいいでしょう。今まで五指にさせてきたことは全て感情物質を集めるためですわ」
「感情物質を……? 人々への攻撃や拉致がそれとどう繋がるの?」
「感情物質というのは生きた人間からしか得ることはできません。ですから人間を連れてきたのです」
「でも感情物質はソルジャー適正のある人間以外から得るのは難しいはずじゃ……?」
「確かに人間は常に汗などによって感情物質を垂れ流しているとはいえ、それは微々たるもの……普通の人間からはほとんど感情物質を得られないでしょう。しかし、それは人単体で見た時の話。数十人いれば話は違います。同じ部屋で四六時中過ごさせておけば感情物質は充分溜まります」
「だから30人もの人間を……?」
「そうです」
「じゃあ、町で五指を暴れさせたのは? それも感情物質の収集と関係あるの?」
「もちろん、そしてそれはティアの秘密にも関わってきます」
「秘密……!?」
「ええ、貴方は知っていましたか? ティアが他のヒューマノイドにはない特別な機能を持っていたことを?」
「何よそれ」
「彼女には感情物質吸収機関があるのです。どういうものかは名の通り……彼女は人間の共にいるだけでこの人から出る感情物質を吸収し蓄積することが出来る。ちなみにお伝えしておくと、ティアはこのことを貴女に隠していた訳ではありませんよ。彼女自身も知らなかったのです」
「じゃあ、学校にいる時も、町にいる時も、知らず知らずのうちに感情物質を溜め続けていたってこと?」
「そうです、でも一番感情物質の吸収率が良かったのは……」
「私や五指が戦っているのき……?」
「流石に分かってきたようですね。そうです、人間達の感情が揺さぶられるほど感情物質は生まれる……エビルロイドに襲われる恐怖や絶望、ソルジャーに助けてもらった時の安堵や喜びは凄まじいものでしょう。彼女はその真っ只中にいましたから、感情物質の収集も捗ったはずです」
まてよ、サマンサの計画の中にティアやソルジャーが利用されている形で関わってるってことは……
「まさか……」
「ようやくお気づきになりましたか……ええ、お察しの通りですよ。貴女がネイルやリトル、リングを倒したのも、流蒼士がミドルを倒したのも、遡れば貴女がたがソルジャーになったのも、ティアがこの研究所を逃げていったのも、初めから全てわたくしの計画の内です。もしも何かあった時の為にフォウを学校に忍ばせておきましたが……結局何事もなく上手く進んでくれました」
「じゃあ、私達はまんまと貴女の計画に……でも、他の五指は!? 貴女の計画を知っていたの!?」
「まさか、彼らも私に騙された人形……5年前の一揆を持ち出して、人間達に復讐をしないかと焚き付けたのです。まぁ彼らも計画通り華々しく散ってくれました」
「仲間にまでそんなことを……何故!? どうして!? そこまでして感情物質を欲した理由は何!?」
「いいでしょう、貴女にだけ教えて差し上げます」
サマンサは満面の笑みで言う。
「私はリーベお坊ちゃまを生き返らせます」
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