第35話 泣き虫の戦いとは何ですか? 3

 研究所の前に立つ俺達は万全の状態であった。厳しい戦いになるだろうが、それでも向かっていく心に迷いはない。


 マップのお陰で容易に研究所内部に侵入しできた。


 まずはティアや囚われの身となっている人々の救出だ。マップを頼りに通路を進んで行く。しかし、目的地の一歩手前で俺達の歩みは止められた。


 目の前には見慣れた顔の男が立っている。


「来ると思ってたわよ、二人共」


「斑賀……いや、本当はフォウだったか? お前がここを守ってるってことは奥の部屋がアタリか」


「そうよ、連れてきた人達を助けたければアタシを倒すことね。でもそうね、神凪ちゃんにとってはハズレかも……」


「どういうことです……?」


「ティアだけは違う場所にいるわ」


「え……!?」


「あの娘は計画の要ですもの、サマンサと一緒に最上階にいるわ」


 睨んでいた通り、こいつらティアを使って何かしようとしているな……


「神凪、お前は最上階に行け。ここは俺に任せろ」


「先輩……!?」


「胸騒ぎがするんだ……サマンサを一刻も早く止めないといけない気がする」


「わかりました」


 神凪は通路を引き返し、ティアとサマンサの元に向かった。


「何故行かせたの? 2人がかりでアタシと戦えば楽に倒せたでしょうに……もしかしてアタシと2人きりになりたかった?」


「馬鹿言え、神凪がお前相手に全力を出せると思うか?それにお前だって、ティアの場所をえらくすんなり教えたな」


「それはアタシが流ちゃんと二人きりになりたかったからよ」


「そうかよ、嬉しくないな」


 思えば俺がソルジャーになる前……他人と距離を置いていた頃からこいつはやたらと突っかかって来てたな。


 あの時は敵どうしになるなんて考えもしなかった。


「斑賀、俺達はシズク高校のでは最強と言われてたが、遂に白黒はっきりつける日が来たようだぜ。最強は2人も要らない」


「面白いわね、貴方が相手だなんて嬉しいわ」


「ミドル曰く、俺は戦い好きらしい。さっきは嬉しくないって言ったが、敵なら話が違う……お前のような強いやつが相手で嬉しいよ」


 相手は最強……決戦は命懸けだ。故に俺の感情は燃え上がる。そしてそれが涙となって流れるのだ。


 仮面を装着して変身する。


「行くぞ、斑賀!」


「受けて立つわ!」


 俺は雫丸を容赦なく斑賀に振る。


 斑賀は素手、普通に考えれば武器を持った俺の方が有利だ。しかし、斑賀も馬鹿ではない……勝算の無い戦いに応じるはずがない……きっと俺の剣を防ぐ術があるはずだ。


 斑賀は俺の攻撃に対して防御の姿勢をとる。


 雫丸の斬れ味ならヒューマノイドの腕など容器に断つが、こいつの装甲は俺の剣をも通さないのか……?


「『剣流し《つるぎながし》』」


 刀身は確かに斑賀の腕に当たったが手応えがない。


「何……!?」


 斑賀は腕…いや、体全体を滑らかに動かし、剣を逃したのだ。


 続く2激目、3激目も滑らかに彼の身体にの上を滑り、斬ることができない。


 俺は一旦距離をとった。


「ふふ、驚いた?これがアタシの対剣の受け身……『剣流し』よ」


「受け身……!?」


「そうよ、受け身とは通常地面に接触する時の衝撃を最小限にするものだけど、私の受け身はあらゆる物理攻撃を受け流しダメージをゼロにする」


「なんてやつだ」


 さっきの動き……人間でも出来なければ並のヒューマノイドでも不可能だ。力強そうに見えて案外超繊細な芸当を持ってやがる。


 正直言って、あの受け身は完璧だ。いくら力任せに剣を降ってもあいつに刃が通ることはないだろう。全て流されていまう。


 しかし、斑賀に勝つ策はある。


「流石に強いな斑賀、しかし俺はそれを超えて行く」


「無駄よ、流ちゃん。残念だけどあなたの剣ではアタシは切れない」


「そうかよ!」


 俺は再び剣を向ける。


 先と同じように刃は斑賀の肌の上を滑り、斬ることが出来ない……しかし、それでもいい。


「凍れ!『万年雪』!!」


 万年雪は氷属性の斬撃……それは斬らずとも触れただけで発動し、氷が瞬く間に敵を覆い拘束する。


「氷ですって!?」


 斑賀の身体は1秒とかからず冷たい氷に覆われた。


「生憎と今の俺はソルジャー……斬る以外にも戦法はあるのさ。少し呆気ないがお前はここで眠ってろ」


 俺は凍りついた斑賀の元を離れ奥に進もうとした。しかし、後方からの気配に思わず振り向く。


 なんだか勝った気がしない。斑賀がこんなにあっさりとやられるとは思えない。


 不安に思い氷に近づくと、急に氷に亀裂が入った。


「な……!?」


「残念だだったわね、流ちゃん。私だって武術以外に出来ることがあるのよ」


「氷が割られ…いや、溶かされている!?」


 なるほど熱か……神凪が斑賀に触れても人間として違和感がなかったのは人並みの体温を持っていたからだ。


「擬似体温システムを持っているヒューマノイドはそこそこいるけれど、アタシのように任意で体温を変更出来るのは少ないでしょうね。ちなみにアタシは最高で800度近くまで身体を高熱に出来るわ」


「それもう氷どころか金属も溶けるぞ」


「貴方の心も溶かしてあげる」


「それはやめろ」


 一気に勝算が消えた。これは勝てないかもしれない。



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