第34話 泣き虫の戦いとは何ですか? 2
まさか一日のうちに2度も意識を失う人間がいようとは思わなかった。
ティアが連れ去られ、ぶっ倒れた神凪だったが幸い30分程で目を覚ました。しかし、意識は戻っても気力は戻らずと言った感じで、どこかしっかりしなかった。
神凪の気持ちの整理はつかないままだが、その日中に行っておかなければ行けない場所があった。
あの後、俺は地面に一つの鍵が落ちているのを見つけた。その瞬間を見た訳では無いが、俺はコレがティアが俺たちに託すためにわざと落としたものだという確信があった。
ティアが連れ去られる時、彼女が落とした鍵……これはティアが神凪の家に居候する前に暮らしていたマンションの部屋の鍵である。ティアがこれを落としたのは偶然ではない、きっと自分が連れ去られることを確信して故意にやったのだ。
彼女は俺達にここへ行けと言っている。この部屋には何があるのだ。
マンションに着いた時にはとっくに陽は落ちていた。暗い部屋に明かりをつけ、何かを探す。
結果から言うと、それはものの数分で見つかった。
「五指の根城……研究所のマップだ」
それには隠し通路や監視カメラの位置まで細かく記されており、研究所攻略の全てがそこにあった。
「確かにこれがないと先には進めなかったな。寧ろこれがあればティアや拉致された人々の救出、そして五指の撃破に希望が持てる」
人々を監禁するための部屋も洗い出されており、敵地でしらみ潰しに探すという手間も必要なさそうだ。
「よし、明日にでも行くぞ。あいつらがティアをさらって何をするか知らないが、悪巧みならすぐにでも決行するはずだ」
「……」
神凪は部屋の隅でどこか遠くを見ている。
「聞いてるのか、神凪?」
「……」
「神凪……?」
「私、約束したんです『ティアのためならいくらでも泣いてあげる』って、でも、あの時涙が……力が出せなかった」
「気にするな。俺達はケイオスとの激戦のあとだったにも関わらず相手は万全の状態だったんだ……勝ち目はなかった」
「でも、あの時立ち上がれていたら……」
「自惚れちゃだめだ、神凪。お前一人の力で倒せるほど五指は弱くないんだ。無理なものは無理だったと諦めなければ、自分を責める心に殺されるぞ」
神凪は腰を下ろしうずくまった。彼女の肩は震えていた。
無理もないのだ。話によれば彼女にとってティアは無二の親友……その娘が目の前で奪われる気持ちは容易にわかってやれるものではない。俺も後輩としてティアを愛しているが、神凪とティアの間にはもっと特別なものを感じる……神凪は俺より辛いんだ。
神凪を元気にしたくて傍に行ったが、俺は何をすればいいのかわからなかった。震える肩に手を伸ばしたが、遂にその手は彼女に触れることは無く、呆気なく引き返した。
ティアの部屋はどこか殺風景というか、いつも彼女が見せる陽気さとはかけ離れた部屋だった。しかし、そんな中に一点だけ色ずいているものがある……机に置かれた写真達だ。神凪とティアのツーショットとものや、それに俺が加わったものもあった。
おそらく、それらはティアが照れくさくて神凪家には置けなかった物だろう。
神凪がティアを特別な存在だとしていたように、ティアも神凪の事を思っていたに違いない。
「明日、絶対助けような」
「はい」
英気を養うため、その日は帰って寝た。
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