第32話 泣き虫ですが、お願いしてもいいですか? 4
暗い中で呼ぶ声が聞こえる。懐かしくて、切なくて、耳に入れるだけで涙が出てきそうなその声が……
目の前にはずっと会いたかったその人が立っていた。
「大きくなったな、蒼士」
「親父……」
「まさかあの泣き虫だった蒼士がこんなに立派になるとはな」
「いや、泣き虫はまだ治ってないよ。それに俺も死んじまったみたいだ」
「何言ってんだ、お前はまだ死んでないぞ」
「そうなのか、じゃあ何で親父が……?」
「お前の友達の声に呼ばれてな、助けに来たんだよ」
「助けに……?」
「ああ、それと新人戦見に行くって約束守れなかったからな、お前が戦ってる姿見に来たんだよ」
「そうか、ありがとう」
随分久しぶりに会うので、一瞬話せるかどうか不安にも思ったが案外いけるものだった。
その後も、お袋のことなどを報告したり、なんてことない会話を楽しんだ。
しかし、その時間も長くは続かない。終わりの時が来る予感が俺を襲った。
「もうじき、お前は目を覚ますだろう……そしたら友達に感謝しとけよ」
「ああ、そうする」
「友達は大切にしろ、誰かを護る力は強大だ。俺は力及ばずだったけど、お前は強い……きっと皆を護れる」
「親父の分まで、お袋を、皆を護るよ」
「その意気だ、それじゃぁな」
「ああ、ありがとう。親父……」
親父の姿が消え、くらい空間に光が刺した。
全身に感覚が伝わってくる。涼しい風邪が吹いていて、身体はほんのり暖かい。
「やった、先輩が起きた!」
「よかった……死んだかと思いましたよ」
神凪とティアの安堵の顔が目に映る。
「ありがとう、二人共」
「お礼ならこの人に言ってください」
そこにはティアに似た少年が立っていた。
「僕はリーベ・フライハイト。色々話したいことはあるけど……残念、もう時間が無いや」
よく見ると、リーベの身体は末端から少しづつ薄くなっていっていた。
「2人を治すのに感情物質を使いきったからね。もうじき僕と共にここの霧も消えるだろう」
「消えるだなんて……そんな」
「悲しまなくたっていいよ。そもそも僕は死人……あるべき所に逝くだけさ」
神凪と俺の傷は完全に治っていた。神凪の方はもうダメかもしれないとすら思ったが……
「あんたが治してくれたんだな、本当にありがとう。この恩は忘れないよ」
「恩だなんて……そもそも2人が戦わなければならなくなったのだって僕の不始末のせいなんだ……これくらいは当然さ」
「それでも……」
それでも彼は親父に会わせてくれた。傷はそのうち治るかもしれないが、親父と話せる機会は本来無いものだ。
「君たちが仮面の持ち主になってくれて良かったと思っているよ。ティア、よくこの2人を選んでくれた」
「でへへ」
ティアは「どういたしまして」と言いたげに笑う。
「どうやら、もう、お別れみたいだね」
気がつけばリーベの身体はほとんど見えなくなっていた。顔の表情を見て取るのが精一杯だった。
「お願いだ。サムを、サマンサを止めてくれ」
「サマンサ……五指のリーダーか……」
「僕には分かる。彼女は苦しんでいるんだ。だから止めてやってほしい」
「ああ、五指は必ず俺達が……」
神凪がそう言うと、俺も共に頷いた。
「ありがとう」
その言葉を残して、リーベは消えた。
光は天に登っていく。
さっきまで辺りを包んでいた霧は嘘のように消えていき、崩壊した工場の様子が露わになった。破壊された建物や機械の残骸が無残に転がっている。
「ようやく晴れたね」
「ああ、この大地も5年ぶりに陽の光を浴びることが出来て嬉しく思ってるだろうな」
痛々しい光景の中でも何故か清々しい気持ちがあった。何かを成し、次へと進んで行く感覚……それが確かに感じられた。
「帰ろう」
俺達は瓦礫の上を歩き出した。
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