第29話 泣き虫ですが、お願いしてもいいですか? 1
戦いが起こる度に無力感を感じていた。
いつも戦闘は2人に任せっきりで、自分は安全な場所からのサポートしか出来ない。ボロボロになって戦う姿をただ見ているだけ……
だから、今頑張らなければ……今役に立たなければと思った。
ルイと流先輩を死なせてはならない。
意識のない2人を背負って歩く。
ルイはケイオスに受けた傷が酷く、血を流しすぎている。流先輩はケイオスに勝利したらしいが、ばったりと倒れてしまった。息はあるが単に気絶している訳では無いようで、目を開ける気配がない。
早く霧を抜けて跡地の外に出たいが、先程から何かおかしい……自分がどこにいるのか分からない。
こんな時に限ってGPSが急に故障し現在地は不明。出口を目指しているが、どうにも同じ場所をグルグルと歩いている気がする。
とても偶然とは思えない。誰かが自分達が出ていかないように仕組んでいる予感がする。
「行ってはだめ……出ていかないで……」
「誰!?」
ルイと先輩は依然として眠ったままだ。
「ここに居て……」
「だめだよ、2人を手当しないと!」
「行ってはだめ……」
声は次第に大きく、鮮明に聞こえてくる。
「今から病院に連れて行っても間に合わないよ」
声が聞こえてくる空間に薄ら人影が見えた。人影はゆっくりとこちらに近づいてくる。
「僕が見てあげる」
ようやく彼の顔が見えた時、ボクは言葉を失った。
「はじめまして、ティア。本当に僕と似た顔なんだね」
そこに立っていたのはボクだった。
いや、息を呑むほど僕に似た少年だった。
「君は誰だ……?」
「僕はリーベ・フライハイト。コメット・フライハイト博士の孫であり、最初のソルジャーさ」
研究所の博士の机の上にあった写真……そこに写ってた人だ。
「でも博士の孫は……」
「そう、僕はもう死んでいるんだ」
「え、じゃあ、何で今ここに……?」
「感情物質を使ってるのさ」
「感情物質を……!?」
「5年前の一揆の時、僕はケイオスと闘って相打ちになってここで死んだんだ。多くの人間達と一緒にね……そして死んだ人の無念の感情やその大切な人の悲しみの感情が大量にこの地に染み込んでいる。僕はソルジャー……感情物質を操ることが出来たから、死んだ後ここにあった感情物質を使って、幽霊としてこの世に残ったんだよ」
「感情物質にそこまでの力があったなんて、でも何で幽霊に……?」
「僕が死んで霊体になった時、見てしまったんだよ……倒したはずのケイオスが実は生きていたことを。だから何とかして町の人があいつに近づかないようにする必要があったのさ。だからここに霧を作ったり、入ってくる人を脅かして無理やり追い出してたんだけど……結果的に逆効果だった。寧ろ幽霊目当てで遊びに来る人が現れてたまった」
「でも、ケイオスはこの2人が倒した」
「うん、本当に感謝しているよ。ありがとう」
「でも、ひどい怪我を……早く何とかしないと……」
「そこで僕の出番さ」
リーベの指示で2人を地面に寝かせた。
「僕は生前も今も戦闘が苦手でね、出来る事と言ったら感情物質の力で傷を癒すくらいだ」
治癒に長けたソルジャー……だからケイオスを完全には倒せなかったのか?
「うーん、ルイちゃんの方は出血が酷いようだけど、これは僕の力でどうにかなるレベルだ」
「本当!?」
「ああ、でも蒼士くんの方はまずいね。死ぬかもしれない」
「え、そんな、傷や出血はルイよりも少ないはず……」
「確かに身体の方は問題ない。中身がやばいんだよ」
「中身……!?」
「蒼士くん……生きるための感情物質を戦いに使ってしまっている」
「どういうこと……?」
「人は生きたいという意思によって生きている。生への執着から生まれる感情物質が心臓の筋肉を動かしているんだ。そしてその生きようとする感情はどんな時でも失われない。でも、彼にはそれが無い」
「そんな、何故……?」
「自己犠牲だ。自分が生きることが最優先なのが人間だが、蒼士くんの場合それがねじ曲がっている……自分より、大切にしなければいけないものがあるのさ。護るべきもののためなら自分が生きるためのエネルギーをも差し出す。それが彼だ」
「ケイオスを倒すために、感情物質を使い切ってしまった……!?」
「おそらくは……」
「そんな……」
「今はまだかろうじて感情物質が残ってる様だけど、それも間もなく底を突くだろう。感情が無い人間は死人と同じだ。心臓が止まってしまう……」
「助からないの……?」
「生きるために最低限必要な感情物質を送りおめば助かる……でも、それは難しいんだ。輸血をする時、同じ血液型でなければいけないのと同じで、感情物質があれば何でもいいというわけじゃないんだ。彼に近しい人間の感情物質が必要だ」
「今ここにいる先輩の近しい人間は……いや、そもそも人間はルイしかいない」
「しかし、ルイちゃんも手負い……弱っている人間から無理やり感情物質を奪うのは危険だ」
「じゃあ……」
「残念だけど、蒼士くんをどうすることも出来ない……」
結局、ボクは何も出来ないのか……?ルイも先輩もボクの無理を聞いて戦ってくれた……なのにボクは2人に何も出来ない。
ただ死んでいくのを見ているだけなのか……?
いや、まだ何か可能性があるはず……
「そうだ、この場所には大量の感情物質があるって言ってたよね?それを先輩に使えば助かるかも」
「確かに跡地にあるもの全て使えば完全に回復するだろうけど……さっきも言ったようになんでもいい訳じゃない。不適合な感情物質を送り込むのは寧ろ危険だ」
「大丈夫、ボクを信じて」
リーベはボクの顔を見て決断した。
「他に方法はない……わかったよ、そこまでいうなら一か八かだ」
リーベは先輩の胸に手を当てて治療を始める。
程なくして、小さな光が集まってきた。
「凄い、適合してる。感情物質が彼の心と身体を癒していく……何故だ?」
「この土地に染み込んだ感情物質は一揆の時に死んでしまった人達のもの……なら、あるはずなんです。流先輩のお父さんのも」
「そうか、あの時蒼士くんのお父さんも……」
光は次第に大きくなって先輩を包み込む。
「よし、これなら助かるぞ!」
「よかった、ありがとう!」
「何言ってるんだ、君のお陰じゃないか」
「え、ボクの……」
「僕は彼の父親のことは知らなかったからね」
そうか、ほんの少しだけど、やっと役に立てた。
「この調子でルイちゃんの治療もしよう。ただ回復には時間がかかる……そうだな、終わるまで昔話といこうか」
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