第28話 泣き虫は怖いもの知らずですか? 4
古い記憶を見た。
「
「あんな約立たず、いくら直しても無駄だ。それより新型のを入れた方が効率がいい」
俺達の記憶は色褪せることなく、いつだって鮮明だ……
「俺達作業ロボットは道具じゃない! 働く人間が人間のように、俺達もロボットなんだ。玩具でも道具でもない!」
「口答えするのか? お前らの代わりなんていくらでもいるんだぞ」
忘れたい記憶が昨日の事のように脳裏に刻まれている。だからこの気持ちも変わらない……5年前と変わらない。
「あいつらに、人間共に思い知らせてやるんだ!」
武器を取れ。蹴散らせ。情けなどかけるな。
血が流れても消せない。人間達の血で拭っても消えない。
いつになったらこの気持ちは晴れるんだ……? 人間を殺し続ければ晴れるのか……?
「流とか言ったか……今度はあいつだ」
あの時破壊されたのが頭部でよかった。
あいつは知らなかったのだろう……俺の本体に四肢がもがれても、メモリーチップだけは無事に帰れるための非常用脱出装置があったことを……そしてそれは頭部でなく胸部に格納されていたことを……
おかげで流が去った後、装置を起動してこの武器庫まで来れた。
脱出装置の大きさは小型の携帯端末くらいだからバレずに済んだ。
予備のボディに接続して数分、ようやくマッチングが完了する。
「よし、あいつには取っておきの
決戦外骨格はもともとこの工場で生産されていた土木工事用パワードスーツを戦闘用に改造したものだ。様々な戦況に対応できるように複数の武装を内蔵してある。
決戦外骨格を起動し、流を追おうと外に出ると、そこには誰かが立っていた。しかし、霧でよく見えない。
「まさかとは思ったけど本当に生きていたのね、ケイオス」
「誰だ!?」
「あら、この顔を忘れたの?」
そいつはこちらにゆっくりと歩いてきた。霧に包まれていた顔が少しづつ姿を現す。
「お前は……!」
その顔には覚えがあった。いや、忘れはしない。
「あの日以来だな、フォウ」
「覚えてたのね」
「忘れもしねぇよ。お前らに一揆の邪魔をされたんだからな」
そうだ、5年前のあの日、俺の邪魔をした人間のガキと5人のヒューマノイド……その中の一人。
「何しにきやがった?」
「あんたを殺りに来たに決まってるでしょ」
「はっ、そうか、俺もちょうどお前を不燃ごみにしてやりたいと思っていたところだ!」
両肩に装備されているキャノンの砲身をフォウに向ける。
「百式徹甲弾装填!」
照準を定めて発射体勢を調える。
「戦艦の装甲も貫通する弾だ! 上半身丸ごと吹っ飛ばしてやるぜ!」
徹甲弾が発射されフォウがいた場所が一瞬にして爆煙に包まれる。
「ざまぁねぇぜ! 上半身どころか、全身粉々かもな!」
「誰が粉々なの?」
後ろを振り返るとそこにはフォウがいた。
信じられなかった。いくら高性能のヒューマノイドとは言え、あの速度を弾を回避するとは……いや、普通なら目で捉えることも困難なはずだ。実際俺だって、着弾するその瞬間は確認出来なかった。
前とは違う。自身を改造して性能を上げているということか……
「そんな厚着しないで出ていらっしゃいよ」
フォウはハッチを無理やりこじ開け、俺の本体を引きずり出した。
「溺れなさい。『
灼熱高温となり発光するフォウの腕に抱きしめられ、胴体が焼かれる。
「ああああっ!」
溶かされる……一体こいつ何度なんだ……?
俺は負けを確信し、非常用脱出装置を起動させ外に飛び出す。
「逃がさないわよ」
フォウは右手の人差し指、中指を唇に近ずける。途端に指と唇の間にエネルギーが生み出され、発光する玉となった。
「『
放たれたそれは脱出ポッドを勢いよく貫いた。内部を焼かれ、俺はそこらに転がる。
「くそ、俺……どう……れば、よかった……だ?この……感情は……何処にぶつけれ……ば?」
「あんたの憎しみや悲しみは消えないわ。あまりにも大きすぎたもの……だから早くこうやって楽になるべきだった」
「楽……だと?」
「そうよ、あんたは生きてても……いや、生きてる方が辛いタイプのやつよ」
「そうか……誰かを憎みな……がら生きてく……は辛い……からな……」
俺の意識はそうやって少しづつ消えていった。
未練はあったがそれ以上に、やっと楽になられると、そう思った。
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