第27話 泣き虫は怖いもの知らずですか? 3

 目の前で血に染った神凪ルイが倒れる。


 気を失ったのか、死んでしまったのか、たちまち変身が解けてしまう。


「ティア、神凪を護れ!」


「はい!」


 ティアはすぐさまシールドを張って弾丸の雨を防ぐ。


「けっ、油断してんのはどっちだってんだよぉ!」


 俺は大剣を振り払って、ガトリング砲を潰しにかかる。砲身と給弾ベルトを斬り飛ばし、ティアに神凪を安全な場所に連れていくように指示した。


「ちっ、あと少しだったのによぉ……でもどの道あの女は死ぬぜ。ノーガードで特別仕様のガトリングを浴びたんだからな」


「うるさい、神凪はこの程度で死ぬ女じゃない」


 とは言ったが正しいのはケイオスの方だ。


 見た所スーツの耐久が持たない程の被弾ようだったし、仮に身体の重要な器官が無傷でも出血が酷すぎる。


 放っておけば神凪ルイは死ぬ。


「さっさと倒れてもらうぞ、ケイオス!」


「馬鹿が、今度はお前の番だ!」


 ケイオスの胸部のハッチが開いてミサイルポッドが起動する。


「背部や、腕だけじゃない…全身に武器を仕込んでいるのか!?」


「浴びるようにくらえ!」


 ざっと見て20発近く……普通に直撃すれば死ぬ量だ。


「鎧装召喚!」


 腕や脚に鎧を召喚し、ミサイル攻撃に耐えながら直進する。


「ちっ、タフな野郎だ!」


「間合いに入ったぞ!」


「調子に乗るな!てめぇも俺の間合いだ!」


 まだ武器が隠してあるのか。


「『輝かしき二つの眼ブライト・オブ・アイズ』!!」


 ケイオスの目がカメラのフラッシュのように閃光を放ち俺の動きが一瞬止まる。


 そして、その隙をケイオスは見逃さなかった。巨大な腕で右腕ごと俺の胴体を掴み上げた。


「はっ、捕まえたぜ!」


「離せ!」


「話すもんか、このまま首を落としてやる!悔しかったら命乞いでも見せてみろ!」


「命乞いだと……!?」


「ここに迷い込んだガキ共は泣いて土下座したもんだぜ、『助けてください』ってな!お前もやってみろよ!」


 こいつ、人間を玩具みたいに……


「5年前も、そうやって工場の人達を殺したのか……!?」


「あん!?」


「親父もそうやって殺したのか!?」


 俺が見せた怒りの叫びはケイオスにとっては蜜だった。


「そうか、お前の親父ここの職員だったのか! 孝行なやつだぜ、親父の仇を取りに来たってわけかよ! いいだろう、お望みどおり同じ地で眠らしてやるぜ!」


 ケイオスは大剣を構える。


「人を玩具にするお前なんかに……!」


 家族を、友を、大切な人を護るためなら、俺は喜んで涙を流そう……でも、決して屈したりはしない。俺の涙は覚悟だ。


「人間の覚悟を見せてやる!」


 俺は左手で仮面を取り、変身を解除する。


「何……!?」


 変身が強制的に解除された場合、スーツを構成していた感情物質が弾けて、衝撃が生まれる。これのおかげでケイオスの手から逃れることが出来た。


 そして感情物質の密度が高い武器や装甲類は消失まで時間がかかる。とはいえそれも1妙や2秒だが、それだけあれば十分。


「『吹雪』!!」


 渾身の一太刀はケイオスの胴体を粉砕した。


 ケイオスの部品が散らばり、ばったりと倒れ込む。


「これが人の涙だ……ケイオス」


 生身の状態で雫丸を扱うのは骨が折れる……というか本当に折れてるかもしれない。


 ふらつく脚に鞭打って歩く。


「神凪はまだ死んでないよな……」


「人の心配をするのはまだ早いぜ」


「……!?」


 ケイオスの残骸が盛り上がり、中から一般人サイズのロボットが出てきた。


「くそが……パワードスーツはもう使い物にならねぇ」


「まさか……」


「残念だったな、本体は無事だ。まぁ武装は全部やられたんで丸腰の本体だがな」


 てっきりパワードスーツと一体だと思っていたが分離できたとは……


「褒めてやるよ、まさかここまでやられるとは思わなかった。だから今は見逃してやる」


「冗談言うな、お前はここで倒す」


「お前こそ何言ってんだ、引いてやるって言ってるんだぞ!?」


「お前をここで逃がしたら、また被害者が出る」


「お前はもう再び変身する体力も残ってないはずだ。そんな状態で戦ったら死ぬぞ。知らない奴の未来より、自分の今を大事にしろよ!」


「悪いな、自分の命より大事なものが、俺にはあるんだ」


「そうかよ、なら死ね!」


 俺は殴りかかってくるケイオスの腕を掴み、関節を逆方向に力いっぱい曲げて破壊する。


「なっ……! お前素手で!?」


「丸腰のお前ごとき、剣を使うまでもない!」


 ケイオスの首にあるエネルギー供給用のパイプを掴む。


「おい、やめろ!」


 脚で奴の体を固定し、腕を引いてパイプを引きちぎる。一緒にコードがブチブチと音を立ててちぎれ、オイルが飛び散る。


 頭部から身体に信号を伝える線を切ったらしく、ケイオスは身体の動きが止まった。


「俺が悪かった、すみませんでしたぁ!」


 俺はパワードスーツの残骸の中から折れた大剣を引っ張り出しケイオスに向ける。


「泣いて謝れ……人間達にした事を今度はお前自信がするんだ……そしたら許してやる」


「む、無理だ。俺はロボットだから涙は流せないんだ……!」


「ならスクラップだ!」


 大剣を力いっぱい振り上げる。


「俺達は人間達に酷いことされたんだ!だから、ロボットの力をあいつらに思い知らせてやろうって……!お前も俺達の気持ちに……」


 ケイオスの頭部の半分がどこかに消えた。


 聞く耳持たなかった。ケイオスの言葉は俺を動かすに値しなかったのだ。


 ケイオスが以前どんな仕打ちを受けていたかは知らない。もしそれを知ったなら、同情する人間だっていたかもしれない。その時は俺もって黙り込むかもしれない。


「でも、悪いな、俺の中の泣き虫がが黙ってないってよ……」

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