第26話 泣き虫は怖いもの知らずですか? 2
まさか、心霊スポットでマシンに追いかけられるとは思っても見なかった。
全力の逃走で建物の外に脱出したが、正体不明のパワードスーツは壁をぶち破って追ってきた。
「くっついてる装備が明らかに殺傷性の高いものなんですけど!? この工場ってあんな殺人マシン作ってたんですか!?」
「そんな訳ないだろ!あれは違法に改造されたものだ!」
ここ最近の行方不明者事件の犯人は恐らくあいつだろう……しかし何故こんなことを?
「このままじゃ捕まって殺される……二人共変身して!」
「言われなくたって!」
私は既に号泣状態で直ぐに変身したが、流先輩はそうもいかなかった。
「先輩何やってんですか!?」
「俺はお前ほど器用には泣けないんだよ! 戦う意思を固めないと涙が出らん……時間を稼げ神凪!」
「ええ、もう、しょうがないな……!」
私は一人でパワードスーツに立ち向かい、軽い挨拶として飛び蹴りを御見舞した。
パワードスーツは少し怯むが、仰け反りはしない。
「ってぇな。その独特の黒い姿……お前が噂のソルジャーか」
「喋った……!?」
「呑気に迷い込んだ糞ガキかと思えば、なんてお客だ……」
「お前誰だ!?」
「俺はこの地の番人だ」
「番人……?」
「ここで一揆を起こした張本人さ」
凍りつくような衝撃だった。とっくにな亡き者だと思っていた。
「そんな馬鹿な……」
「ケイオス……!?」
一揆の元凶……不満のたまった工場のロボット達をまとめ上げ、人間達に牙を向いたロボット……それが自分たちの前に立っている。
「やっぱ、お前らも知ってんのか……ここに来た奴らはみんな知ってたんだ。俺も有名人になっちまったな」
「ここに来た奴ら……?」
「肝試しだとか言ってのここに入り込んできたガキ共さ、あいつら俺の名を知った瞬間恐怖で目が点になってたな」
「その人たちはどうした……!?」
「ぶっ殺して海に捨てたね」
その言葉を聞いた時、熱い血液が一瞬で頭に登った。
「貴様ぁっ!!」
気づいた時には拳をケイオスに向けていた。
「『村雨』!!」
飛び上がって頭部目掛けて技を繰り出したが、側部から巨大な腕に叩き落とされた。
「ああっ!」
「ソルジャーも噂ほどじゃねぇな、ガッカリだ!」
コンクリートの地面に強く叩きつけられた私は、直後に放たれるパンチに反応できなかった。
ケイオスは私を潰す事を確信したようだったが、それはかなわない。変身した流先輩が紙一重という所で私を救出してくれた。
「落ち着け神凪、いつもより動きが雑になっているぞ!」
「すみません、流先輩」
その時仮面越しに見えた先輩の目は怒りで煮えたぎっているようだった。
「ケイオス、お前はなんで生きている? 一揆を起こしたロボットは一体残らずとっくに破壊されていたと思っていたが」
「知らねぇのか? ロボットって言うのはどれだけボディが破壊されようが、頭部のメモリーチップさえ無事なら復活出来るんだよ。俺は一揆の戦闘でバラバラに破壊されたが、奇跡的にチップが無傷だったのさ」
「何が目的だ?」
「言うまでもなく、人間共を殺ることだ。今はここでその準備をしている」
準備……?あのパワードスーツがそれか?
「なるほど、人類の害としては非の打ち所が無い。直ぐにスクラップになってもらうか」
「なんだお前偉そうに……そっちこそ、さっさと逝けや!」
ケイオスの右腕が剣に変形し、流先輩と打ち合いになる。
大剣は刀身が2m近くあり、流石のソルジャーのスーツでもタダでは済まないという迫力だ。ケイオスはそれをいとも簡単に振り回し、先輩はそれを受け止めるだけで精一杯だ。
私は急いでケイオスの背後に回り込む。
見た目からしてケイオスの戦闘能力は桁外れだが、流先輩の相手をしている今、背後は隙だらけ……図体が巨大な分、攻撃は当てやすい。
背中を貫いて
「馬鹿が、見えてんだよ!」
ケイオスの背部の装甲が展開して収納されていた銃火器達が姿を現す。
「何…!?」
アームで繋がれたガトリング砲が私を睨みつけ、にっこりと笑うようである。
「斉射ぁ!!」
ガトリングの砲身から火花と弾丸が散りばめられ、一瞬にして視界が光に染まる。
もろに被弾し、全身に痛みが走った。耳には爆音が詰め込まれる。
「ルイ!!」
死すら覚悟したその時、私の意識は途絶えた。
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