第19話 泣き虫の夢は叶いますか? 3

 ニヤリと笑うエビルマシンに立ち向かうのは2人の黒き戦士がそこにいた。


「神凪、こいつらの相手は俺がやる。お前は何もしなくていい」


「え、先輩何を言って……」


「俺だけで片ずけると言っている」


「馬鹿なことを言わないでください! こいつらは戦闘型ヒューマノイド……2対1で勝てる相手じゃない!」


 先輩が来てくれたと思ったら、なんてことだ。この人はこんな状況になっても一匹狼主義を貫こうっていうのか。


 不幸中の幸い中の不幸だな。


「彼方の言ってることは無謀です。それでも一人がいいって言うなら、仮面を取り上げさせて貰います」


「なんだと……?」


「ソルジャーとしての戦いなら私の方が経験値的に上です。わがままな先輩にはこの戦いから強制的に退場して貰います」


「くっ……」


 先輩は不本意ながら2人での戦闘を了承した。


「俺は剣士の方をやる」


「分かりました。決して無理をしないで……死なないでください」


「心配するな。俺はあいつを倒すまで死なん」


 そのセリフが余計に私を心配させる。


「話は終わった。やるぞ浪人」


「そうか、ならば我らの勝負に相応しい場所に連れて行ってやろう」


「望むところ」


 ミドルはビルの外壁を走って登り、それを流先輩は追って行った。


 当然だか、明らかに人間が出来る動きではない。


 いきなりあんな動きを見せるとは、あの自信も頷ける。



「じゃ、ウチらも始めちゃおっか」


「そうだね、リング」


 リングは両手を銃のように構え、私は走り出す。


 リングの武装は遠距離専用が主。つまり、近距離戦に持ち込んでしまえばこちらが優勢。


「『弾丸輪バレット・リング』!」


『弾丸輪』は輪っか状の炸裂弾……通常の弾丸とは訳が違う。おまけにリングの射撃は正確で回避は難しい。


 ここは一気に距離を詰める為にも、下手に避けずに直線を進む。しかし、このスーツでも直撃を耐えられるのは3発から4発が限度。


 ならば、あれを使うしかない。


「『真夜中の拳ミッドナイトフィスト』」


 肘のハードポイントに前腕と拳を覆うアーマーが召喚される。


 通常のスーツは動きやすさと衝撃吸収のために特殊装甲の密度が低くなっている。それに比べ、召喚する武器などは密度が高く、超硬質なのだ。


 もちろんそれ相応の体力を消耗するが、『弾丸輪』の直撃でもびくともしない代物だ。


 私は『弾丸輪』を拳で弾きなが直進し続ける。速度は落とさない。


「ウチの『弾丸輪』をものともしないなんて……!」


「間合いに入った! 終わりだ!」


「『防壁輪シールド・リング』!」


「無駄なこと!」


 私の左の拳はシールドを粉砕する。


 左の拳を引き戻すのと同時に、右の拳はやや曲線を描きながら、滑るように腰からリングの腹部に運ばれた。


 私の目には完璧な直撃に見えたが、直後異変に気づいた。


「手応えが……おかしい……!?」


 リングはニヤリと笑う。


「『斬撃輪カッター・リング』」


 リングの掌に集まるエネルギーが円状に形状を変え、歯医者のドリルのような高い音を出して、私に襲いかかる。慌てて避けるが、左肩と右脚をえぐられた。


「うあああっ!」


 私は後方に転がり倒れ、痛みに悶える。


 これまでの戦いでまともに出血することはなかったが、とうとう肉体に傷をを負わされた。


 甘かった。リングは遠距離専用の武装しかないと思い込んでいた。


「まさか、そんな武器があったなんて……」


「わははっ! いいよ、その顔! 完全に勝ったとおもったでしょ? 残念、でしたぁ!」


 まんまと誘い込まれたわけか……シールドは割られると分かっていて、私を油断させるためにわざと出したのか……


 それにしても、私の攻撃をまともにくらって無傷なのはどうしてだ?


「拳は確かに届いたはずなのに……」


「貴女の得意技は知ってるのよ。ならばそれに備えるのは当然の事。全身の肌を打撃に強い衝撃吸収装甲に換装させて貰ったわ」


「衝撃吸収…だと…」


 私は何とか立ち上がり、構える。


「今言ったこと理解出来なかった?貴女がどこにパンチしてこようが無駄なんだけど?」


「理解出来るわけないでしょ?だって無駄じゃないんだもの」


 私は強がり混じりに不敵に笑う。


「『霧雨』!」


 霧雨は地面や建造物に拳を打ち込むことによって、霧のように煙を発生させる技である。


「こんな小細工! ウチはレーダーで居場所が分かるのよ!」


「居場所はどうでもいい……」


「後ろ!」


 リングは私の居場所を探知して勢いよく振り返る。


「この拳さえ隠せていれば……!」


 ゼロ距離の間合い……リングの瞳に移るのは、装甲が展開され、雷撃を纏った『真夜中の拳』だった。


「それは!?」


「『雷雨』!!」


 高電圧を受けたリングの肌は崩壊し、私の拳はついに、リングの内部フレームに届いた。


「理解しな!無駄じゃなかったってことをさ!」


「くそがああっ!」


 リングの両腕はもげ、胴体は腹部で真っ二つに別れる。ガシャンと地面に転がる音が、リングの敗北を告げるようだった。


「『真夜中の拳』は丈夫なだけじゃない……通常じゃ叶わない属性技の発動を可能にする」


「でも、なんで雷撃が弱点だと……」


「その衝撃吸収装甲……『拘束輪』と同じ素材でしょ?触れた時に、何となく似た感触だとは思ったけど、リングが自分から言ってくれたおかげで確定した」


 衝撃吸収装甲は打撃の威力を80%も殺せる恐ろしい代物だが、雷撃にはめっぽう弱く、高電圧を受けるとたちまち分解されてしまう。


「私が口を滑らせたのが敗因だって言うの……?」


「シールドを破った時、私は思わず油断したけれど、貴女も私にダメージを与えて油断したみたいだね」


「ホント、くそみたいな話よ。人間と同じ間違いを犯したなんて……」


「そういうこともあるんだろうね。だって、私も貴女も同じ感情をもってるんだから……」


「感情……ね。わからないわね。わからないわ。人間の愛とか、諦めないとか、理解不能だわ」


「嘘。本当はわかってるんでしょ?」


「は? 何言ってんの? ウチは残虐なヒューマノイドなのよ? わかるわけないでしょ?」


「じゃあ何であの時、父さんとティアを護ったの?」


「……それは、利用価値があるとおもって……」


「そう、でもありがとう。私の家族と友達を助けてくれて」


「ふん、的に送る最後の言葉がそれ? ホント、理解できないわ」


 リングはゆっくりと目を閉じた。不思議と口角は上がっているように見えた。


「その醜い姿を晒しながら、せいぜい足掻くといいわ。神凪ルイ、簡単に諦めたら許さないんだから」


 それを最後にリングは何も言わなくなった。


 リングの頬に触れると、ほんのり暖かい。

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