第14話 泣き虫の剣は鋭いですか? 2
私の父曰く、覇気が見えるとは、こいつは強いという危険信号を本能で感知しているという事だそうだ。武術やスポーツに限らず、芸術や学問など、一芸を極める者にはそういう覇気が宿るらしい。
そんな父の話を思い出しているのも、今それを体感しているからだろう。
剣道部部長、
「あら神凪ちゃん、ノゾキなんて趣味があったの?」
「うわああっ!びっくりした!誰だ!?」
「アタシよ、
「斑賀先輩か……ビックリさせないでくださいよ」
斑賀紫紋先輩はこの学校の生徒会長であり、柔道部部長でもある。文武両道最強無敵……まさにシズク高校の光である。
しかし、この男の一番の特徴はそこではない。斑賀紫紋は正真正銘のオカマなのだ。
乙女のように可愛いものを好み、猛獣のように色男を喰らう。それが斑賀紫紋である。
「こんにちは、斑賀先輩」
「こんにちは、ティアちゃん。今日も可愛いわね」
「でへへ」
「それで、二人とも何で剣道部なんて覗いてたの?」
なんて言い訳すれば正解だろう? 「ロボットと戦う戦士を探してました」なんて正直には言えない。かと言って、「とある事情で剣道部の男子を見てました」とか濁しても誤解を招きそうだ。
「流先輩をじっくり観察してました」
いや、ティア何言ってんの!?
「奇遇ね。アタシも神凪ちゃんを探しに来たのは口実で、実は流ちゃんを見に来たのよ」
あんたも何言ってんだ!?
「流ちゃんはいいわよね、強いしイケメンだし、いつか食べちゃおうかしら」
「違うから! 私達はそんな目で見てないから!」
「じゃあ何で見てたの?」
「いや、その……頼み事があって、流先輩にしか頼めない事が」
「ふぅん……頼み事ねぇ……悪いことは言わないわ、やめておきなさい」
「え、何故です?」
「流ちゃんはあまり他人との交流を好まないのよ。一匹狼というか……教室でもクラスメイトとほとんど会話しないわ。人付き合いが苦手と言うより、わざと人を避けてるわね」
「確かに、流先輩が友達と歩いてるとこ見たことないです」
「アタシもお近づきになろうと猛アタックしたけど逃げられたわ」
「それは誰でも逃げますね」
「とにかく彼のボッチへの執着は半端ないのよ」
「剣道の全国大会トップ8の先輩なら、クラスの人気者の玉座も夢じゃないでしょうに。『強者は孤独』ということでしょうか?」
「むしろ逆かもしれないわよ」
「逆?」
「『強者だから孤独』なんじゃなくて『強者であるために孤独』なのかもしれないって事よ」
紫紋先輩はふざけているように見えて実は分析力が高かったりする。私には先輩の発言が何かの鍵になるように思えた。
「さて神凪ちゃん、長話が過ぎたわ、そろそろ部活に行くわよ」
「先に行っててください。私も必ずすぐに行きますから」
状況はあまり良くない。流先輩ならミドルを倒せるかもしれないが、先輩は私達の話を聞いてもくれないかもしれない。
ここはもう1人の適正者候補だった、紫紋先輩にを頼るしか……いや、そもそもソルジャー適正者の前提条件として泣き虫でなくてはならないのだ。紫紋先輩は涙が出るほど変人だが泣き虫ではない。しかしそれを言うと流先輩だって泣き虫ってキャラでは……
「ルイ、2つ分かったことがある。1つ目は斑賀紫紋先輩はソルジャー適正者ではないこと。2つ目は流蒼士先輩はソルジャー適正者である可能性が高いこと」
「え?なんでそんなことが分かったの?」
「言ってなかったけどボクには感情物質探知機能があるんだ。それを使えば対象の人物が泣きやすいかどうか分かる。もちろんそれを判別するにはじっくり観察する必要があるけど」
「え、何それ有能かよ」
「斑賀先輩にはほとんど感情物質の反応がなかったの。でも、流先輩からはルイと同等の感情物質が見られた。よく泣く証拠だよ」
「でも、おかしくない? 流先輩は泣き虫には見えないし、実際先輩が泣いてるところを見た人なんていないんじゃない? だって学校最強と言われた人だよ?」
「ボクも流先輩の泣いたところを見た人はいないと思う。でも、だからこそだよ。涙を見せない人だからこそ、泣き虫な可能性が高いのかも」
「涙を見せない……と言うより隠している?」
「その通り。流先輩は強者であるために他人に涙を見せない。涙を見られる危険をできるだけ避けるために友達も作らない。きっと誰にも見られない所で泣いてるんだよ」
「ソルジャーは流先輩に決定……といきたい所だけど、問題は本人の意思次第なのよね。話を聞いてくれるにも苦労しそう……」
「根気強く頼むしかないね。とりあえず今日、部活が終わったあとに話しかけてみなよ」
「え、私が? ティアは?」
「ボクは帰って『忍者ぶっとびくん』見ないと」
「いや、どういう理由!?」
この娘、流先輩に話しかけるのが怖くて逃げる気だな……
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