第11話 泣き虫の親は泣き虫ですか? 3
「また外に出るの? もう遅いから明日にしないさい」
朧橋に行くべく靴を履いている所を母さんに発見されてしまった。
「ごめん母さん。でも今行かないとダメなの」
詳しい情報は話せない。母さんまで巻き込むことは出来ないからだ。
だから今は瞳で訴えかけるしかない。
「そう、わかった行ってもいいわ」
「え?やけにすんなりと……」
「でも条件があるわ。行く前に少しお母さんの話を聞いていきなさい」
母さんは急に真剣な表情になる。
「話?」
「お母さんが高校生の頃お父さんと付き合い始めてからの話」
若い頃の父さん……
「お父さんは空手部の部長で全国大会で結果を出す程の実力者だった。でもね当時のあの人は、今じゃ考えられないほどの泣き虫でね。空手以外の時はずっとめそめそしてたわ」
「あの父さんが……!?」
「ええ、でもとっても優しい人だったから、私はあの人を好きになった。高校を出てからも交際は続いて、社会人になったときプロポーズされたの。でもその時になってもあの人の泣き虫は治っていなかった」
「大人になっても……? でも今はあんなに……」
「そう、お父さんはある時から涙を流さなくなった。それはあの人がお父さんになった時よ」
「私が産まれた時……?」
「初めてルイを抱いた時、お父さん言ったの『この子がいるんじゃ、もう涙は流せないな』って。それからよお父さんがあんなふうになったのは」
「変わったんだね……お父さんは」
「そうね、でもお母さんに言わせれば変わってないわ。今も昔も優しいあの人のまま。ひとつ言うなら、ルイを抱いている時彼の表情からは覚悟のようなものを感じたわ」
「なんの覚悟……?」
「誰かを護る覚悟よ。それは今のルイからも感じられる。だから行くことを許すのよ」
「お母さん、私……どうしてもやらなきゃいけない事があるの」
「そう、お母さんは心配だけど……でも止めないわ。とても止められる表情してないんだもの」
五指との戦いは命懸けだ。だからこそ言っておくべきことがある。必ず帰ってくるという意味を込めて。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
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