第10話 泣き虫の親は泣き虫ですか? 2
私の父さんは隙を見せない。そもそも隙がないのかもしれない。
頑固で、覇気があって、剛健な男。それが私の父……
そんな父に幼少期から空手を仕込まれていたというのに、私と来たらちっとも強くはなれなかった……主に精神面で。
私は父さんに苦手意識を持っている。『父さんに比べて私は……』という思いが壁になっている。
父さんのことは好きだ。でも、それ故に弱い私を見て欲しくなくて距離を置いてしまう。
そんな思いもあって、夕飯のあと父さんの部屋に呼び出された時も行きたくないと思ってしまった。それでも部屋にはきちんと行くのだが。
父さんの部屋はとてもシンプルであまりものが無い。あるのは本棚と空手の大会で勝ち取ったメダルやトロフィー。
この部屋は自分の家なのにアウェイのような緊張感がある。
「単刀直入に聞くが、最近テレビで話題になってるアレ、お前だろ」
「え…?」
何故だ、変身する所は見られてないはずなのに何故バレている?
「やはりな、顔を隠せばバレないとでも思ったのか? 普通の人間ならそうかもしれんが、俺は技を見ればすぐにわかるぞ」
そうか技……私に空手を教えたのは父さんだ。私の戦闘時の動きなどは熟知していて当然だ。
まさか、こんなにすんなりとバレるとは……しかし感情物質やティアのことは機密情報。詳しいことを話す訳にはいかない。
「わ、私だったらどうだって言うのさ……」
「あんなことは二度とするな。ヒーローごっこか知らないが、相手は銃火器をもっていた……危険すぎる」
「ヒーローごっこじゃない。ちゃんと真面目にやってる」
「そういうことじゃない! 父さんは危険な真似をするなと言ってるんだ!」
「確かに危険だけど、あれは私がやらなきゃいけないの……! 実際、私が戦わなかったら死人が出てたかもしれない!」
「それは結果論だ! あれはお前のやるべきことじゃない保安部隊にでも任せておけ! だいたい泣き虫のお前に何ができる!?」
ああ、まただ。父さんと言い合いをするといつもこうなる。何かにつけて泣き虫を指摘してくる。まぁ実際泣き虫だし、今だって目には涙が溜まっているのだけれど。
「父さんには関係ない!ほっといて!」
泣き虫と言われて言い返せない自分が情けない。
私は逃げた。父さんの部屋を出て、家を飛び出して、夜の住宅街を走って逃げた。「待て」と言われたきがしたが無視して走った。
私が逃げたのは父が正しいからだ。強いあの人を打ち砕けなくて、私はいつも逃げることしか出来ない。
そんな私にも譲れないものはある。五指との戦いは続ける。
気がつけば近くの公園まで走ってきていた。
「なんか勢いで飛び出してきちゃったな」
まさか、これから五指を倒していこうと決心した所でこんな事になるとは思わなかった。
しばらく静かな月を見ていると少し落ち着いて、家に戻ることにした。
しかしどうしたものか。呼ばなくても五指はまた来る……その時はまた私が戦わなくてはならない。でも次戦ったら父さんはどうするだろう。無理矢理にでも戦わせないように私を縛り上げるかも……あの人はそこまでする人だ。もし仮に全てを話したとしても、父さんは納得しないだろうし……
家に着くと母さんが待っていた。
「ルイ、あなたさっき大声出して飛び出して行ったでしょう。もう、夜なんだから心配したよ」
「ごめんなさい母さん」
「お父さんと言い合いしたの?」
「うん、父さんにも謝らないとね」
さすがに「父さんには関係ない」と言ったのは悪かったなと思った。父さんだって私を心配して言ってくれているのだ。ソルジャーとして戦うことを認めてくれなくてもそれは謝らなくてはならない。
しかし、部屋に行くと父さんはいなかった。
私を追いかけて外に出たのか?いや、私が帰ってきた時靴があったからそれは無い。
よく見ると部屋の窓が僅かに開いていて、カーテンがなびいていた。窓にはメッセージカードが挟まっている。
なんだかんだ嫌な予感がするが、そうでないと思いたい。
恐る恐るメッセージカードを読む。
「お前の父親はこの五指のうちの一人リングが拉致した。返して欲しくば朧橋まで来い。待っているぞソルジャー」
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