第9話 泣き虫の親は泣き虫ですか?1

 ティアは腕が壊れていたため学校を休んでいたが、昨日やっと修理が終わり今日は登校した。修理が終わったと言っても、外見と稼働に異常がないだけで、バリアは使えないらしい。


 保安部隊でも手に負えないエビルマシン……五指の出現によってシズク町にはなんだか不安な空気が流れていた。


 そんな中、町の人間にとっては光明とも言えることがあった。


「ご覧いただけるでしょうか? 町を襲った戦闘型ヒューマノイドと戦うこの少女。何やら変な格好をしていますが、この少女にシズク町は救われたのです」


 テレビにはリトルと私が戦っている映像が映し出されている。


 駅前での決戦以来、ニュースやワイドショーではこの話題でもちきりだった。


「テレビ局のやつらぁ!撮ってやがったああああああ!」


 昼休み、学校の屋上で私は叫ぶ。


 もちろん周りに他人がいないのは確認済みである。


「ルイよかったね人気者じゃん!」


「なんにも良くないよ! ただ恥ずかしい姿晒されてるだけだよ!」


 確かにロボットとスーツ着た女の子の戦いなんて、普通ならフィクションの世界のことだから皆が騒ぐのもわかるけど……かれこれ1週間はこの調子だ……あの映像を見る度恥ずかしさで涙が込み上げてくる私の気持ちにもなって欲しい。


「でもほら、奇跡的に撮られてたのは戦闘シーンだけで、あれの正体が神凪ルイだってことはバレてないんだし……」


「まぁたしかに、それだけが不幸中の幸いかも。正体がバレないように気をつけないと……」


 これから戦う度にあの姿にならなければいけないと思うと先が思いやられる。そしてその戦いをあと何度繰り返せば良いのか……まったく自分でも、なんでこんな事に首を突っ込んでしまったのかと思う。


「五指って町はずれの研究所にいるんでしょ?さっさと攻め込もうよ」


「私も早くそうしたいけど、でも、いまはダメ。こちらの戦力が万全じゃない」


 ティアはバッグからソルジャーの仮面を取り出した。


「そっか、仮面は2つあるんだった」


「博士が完成させた2つの仮面の両方をボクに託したのは、五指の全員を倒すにはソルジャーが2人必要だってことだと思うんだ。だから、ボク達は2人目のソルジャーを探さなければいけない」


「適正者の目星はついてるの?」


「可能性があるのは2人。剣道部部長のながれ蒼士あおしと生徒会長兼、柔道部部長の斑賀まだらが紫紋しもん。この学校で最強の二人」


「うっわ。紫紋先輩かぁ」


 私は反射的に眉間にシワを寄せる。


「何その露骨に嫌がる反応。ルイは同じ柔道部だから仲良いんじゃないの? ひょっとして嫌い?」


「いや、嫌いじゃないけど……ソルジャーには絶対向かない人だと思ったから」


「え、そうなの? なんで?」


「変人というか……話せばわかる」


「ふぅん。ま、強いだけじゃソルジャーは務まらないしね。泣けなきゃ戦えないもん」


「それを思うと、紫紋先輩はますます向かない気がしてきた」


「そこらへんを確かめる為にも、これからは2人について色々調べることになる」


 とはいえ、仮に2人のうちどちらかがソルジャーの適正者だったとして、本人はソルジャーになることを了承してくれるのだろうか? いきなり戦えと言われて、すんなりと頷く者がいるだろうか? 私は一番それが心配だ。


「2人目のソルジャーが見つかる前にあちらから攻めてきたら、その時はお願い」


「任せて、いつ来ても直ぐにやっつけてやるから」



 これはニュースを見て知ったことだが、ネイルやリトルが暴れて出た死者は奇跡的にもゼロだったらしい。


 それは、2人が人を襲うという事に関しては手抜きをしていた事を意味する。恐らく先日は初回だったために、その目的は単なる威嚇に過ぎなかったからであろう。


 しかし、これからは違う。次襲ってくる時は、問答無用に、また確実に罪もない一般市民を殺しに来るかもしれない。


 私はこれから激化するであろう五指との戦いに対する決心を固めたのだった。

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