第8話 泣き虫でも友達を守れますか? 4
もう少しでティアを喪うところだった。そんなところまで来てやっと気づいた……私はティアが大好きだ。戦う理由はそれで十分だ。
「ティアは離れてて」
ティアは不安げな表情を私に向ける。
「大丈夫、あんなやつすぐに片付けて来るから」
私はにっこり笑う。笑うと言っても涙は流しているし、そもそも仮面のせいで顔は見えないのだった。それでもティアは少し安心したのか建物の影に隠れて行った。
私はスイッチを切り替えるように表情を変え、リトルを睨みつける。
「一つ聞くけど、なんでこんな事するの?」
「エビルマシンにそれを聞くか?お前も俺達の動機は知ってんだろ?」
エビルマシンが生まれた理由……それは否定しようもなく人間にあった。
この世の大半の人間はロボットに対しては人権など無いと考えている。その理由は単純で、人では無いから……人とは違う物だからだ。
だから人間はロボットに人にはやってはいけないことを平然とやる。ロボットが苦しんでも、悲しんでもやりつづける。所詮はプログラムだと言って……
しかし、今日のロボットは感情がある。だからそんなことをされれば傷つきくし、不満も溜まっていく。
不幸なことに、ロボット達にはその不満やストレスを発散させる方法が無い。故に爆発するのだ……武器を取って人を襲うのだ。
「あんたも……あんた達五指も人間に酷いことされたの?」
「言うまでもねぇな」
「そう……」
同情はしない。リトルは人を襲うエビルマシンで、倒されなくてはならないやつだ。
そもそも理由を聞く必要も無い。聞いたところで何に……しかし聞いておきたかったのだ。
エビルマシンの気持ちというものを少しだけでも理解してみたいと思ってしまった。
「たとえあんたがエビルマシンになった理由が人間側にあっても、私はあんたを倒す! あんたはもう、引き金を引いてしまったから!昨日の
「そうかよ、昨日はよくも
「殴ってみたら、あいつが勝手に壊れたんだよ」
「言うじゃねぇか。確かにお前は十分強い。昨日の戦いを見ればわかる。でも気をつけろ。俺はネイルとは別格だぞ」
「結構……叩き潰してあげる」
私の技がリトルにどこまで通用するか……昨日の手下ヒューマノイドには有効だったけど、リトルは昨日のとは別格の相手……ともかく、まずは一発叩き込むしかない。
「はぁ!」
私は地面を蹴って、リトルとの距離を一気に縮める。
「やっぱりそう来たか!」
しかしリトルは飛行を開始し、私との距離を離そうとする。
「逃げるのか!?」
「ちげぇよ! これも立派な戦術だ!」
リトルはサブマシンガンでの射撃を開始した。弾き出された弾丸が光の粒のように発光して遅い来る。
「昨日の戦いを見ていたと言ったろ? お前は近距離での格闘戦が得意と見た。ならば距離をとって飛び道具を使うのは当たり前だ」
さすがに馬鹿ではないようだ。おまけにネイルに比べて射撃は正確ときた。
しかし、同時に勝てる可能性はあると確信できた。私と距離を離すということは、私の拳を脅威に感じているということ……つまり、技さえ決まれば勝機はある。
「『五月雨』!!」
『五月雨』は拳の衝撃波を連続で飛ばす技で、攻撃にはもちろん防御にも使える。
「ほう、拳の防御壁って訳か……ならばこれならどうだ!?」
リトルは腕の装甲を展開する。
「ルイ、ミサイルが飛んでくる! 気をつけて!」
「ミサイル!?」
まずい、さすがにミサイルは『五月雨』じゃ防御しきれない。
避けるか? でも追尾式ミサイルという可能性もある……ここはダメージを追ってでも『五月雨』で受けるしかない。
「くらえっ!」
発射されたミサイルは真っ直ぐに私へ飛んでくる。
怖くて流す涙の量も増す。
ミサイルが『五月雨』に当たって爆発し、辺りは爆煙に包まれた。
「ルイ!」
「ふん、さすがにこれなら……ん?」
私はミサイルをくらっても無傷だった。無傷とは言っても爆発の衝撃のせいで確実に体力は削られている。
「なんで……?」
よく見るとスーツがさっきより少し分厚くなって見えた。
「もしかして、このスーツの性能の善し悪しは流れる涙の量に比例するのか?」
そうとしか考えられない。ミサイルの攻撃がなんともなかったのは、ミサイルを受ける直前涙の量が増したから……現に涙の量が元に戻った今、スーツの厚さも元に戻ってきている。
しかし、性能が上がると言ってもその分体力は持っていかれる。今ので相当持っていかれてしまった。まともに技を出せるのはあと一回が限度だ。だとしたら……
「なんだ、ミサイルってもっと凄いものかと思ってたけど……全然すごくないんだね」
「なんだと! たった一発耐えたくらいで……今度はどうだ!!?」
リトルが再度ミサイルを発射する構えに入る。
「ルイ、もう一発も耐えられるの!?」
耐えられるかどうかはわからない……しかし、他に方法も無い。とにかく今の私はもっと涙を流さなければならない。
「今度は二発同時だ! ミサイル発射!!」
「二発!?」
二発のミサイルが一斉に飛んでくる。
ここで『五月雨』を使ったら、仮に防御しきれたとしても、スタミナ切れになってしまう。しかし回避はしない……あくまで正面から受ける。助かる道はただ一つ。私の涙の量が最大になるのを狙わなくては……
ギリギリまでミサイルを引き付け、アレを放つベストな時を見計らう。
「今だ! 『菜種梅雨』!!」
音速を超える正拳突きは衝撃波を生み出す。そしてそれは鋼鉄をも砕く空気の弾丸として敵を粉砕する。
『菜種梅雨』はミサイル蹴散らしその先にいるリトルにも届いた。リトルの胸には拳型の穴がポッカリと空いて、衝撃で駅に突っ込んだ。
「私の最強の技『菜種梅雨』。今まではパワー不足で空想上の奥義だったけど、やっと完成した……!」
私は泣き疲れてしまい変身が解かれると倒れ込んでしまった。
目が涙と疲れで霞む中、走ってくるティアが見えた。
「ルイ、大丈夫?!」
「うん、体力を全部使っちゃったけど、リトルには勝てた」
「ほんとにすごい!本当に五指を倒すなんて!」
「まだ一人しか倒してないよ……戦いは始まったばかりだ。これからティアを……町のみんなを守っていかないと」
「これからも戦ってくれるの?」
「もちろん! 私が戦わないで誰が戦うの?」
ティアは喜びの笑顔を見せた。やっぱり彼女には笑顔が似合う。
「ボクが学校に入ったのはソルジャーの適正者を探すため。でも、ルイと友達になったのはあなたが好きだから。だから、これからもボクと友達でいてね」
「うん、ティアのことをずっと好きでいてあげる」
瓦礫だらけの駅前で、私達は初めての仲直りをした。
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