第7話 泣き虫でも友達を守れますか?3

 シズク高校に入ったのはソルジャーの適正者を見つけるため。


 人間の大人はほとんど泣かない……だからソルジャーにはなれない。子供はたくさん泣くけど、戦闘をするための体力と精神力が無い。


 それならば、大人と子供の中間である高校生はどうだろう?


 幸いボクは16から18歳くらいの容姿だったので、シズク高校に入り適正者探しを始めた。


 ボクは今まで博士と共に生活してきたので、たくさんの人間に囲まれるというのは違和感でしか無かった。


 人探しをするどころか、誰とも話せない……そんな中初めて声をかけてくれたのが彼女だった。


「シズク高にはまだ慣れない? 私、神凪ルイ。よろしくね、フライハイトさん」


 ルイは学校のこと、町のこと、他にも沢山教えてくれた。


 学校で沢山話をするうちに、帰りに寄り道をしたりするようにもなった。


「あれ、ティアもたい焼きは『頭から食べる派』? 私も同じ。ああ、なんだか涙出てきた。グスッ……ダメよねこんな事で泣いちゃうの……格闘技やってるのになんでだろう? でも、うれしくって」


 後になってルイにソルジャーへの適正があることに気づいた。でもそんな事はどうでもよかった。ただその時はこの生活が続いて欲しいと思っていた。


 五指はいつ来るのだろう……お願いだから来ないで欲しい。あいつらが来てしまったら、ボクとルイの日々が壊れてしまう。ボクの初めての友達に仮面を渡さなければならなくなってしまう。



 そんな願いを踏みにじるかのように、その日はやってきた。


 案の定ルイは僕から離れていった。当然だ、突然わけも分からないロボットと戦えと言われたって、それに従う人はいないだろう。


 一度は戦ってくれたけど、あの時ルイは怖かっただろうな……いっぱい泣かせちゃったな……涙ひとつ流せないボクには、ルイの気持ちはわかるはずもない。



 戦いから一夜明け、ボクは誰もいない学校の屋上で黄昏ていた。


「ボクだって……ルイを戦わせたくないさ」


 ルイをこれ以上戦いには巻き込まないようにしよう……でも、最期に一言だけボクの本当の気持ちを言いたい。


 ルイに会いに行こうと思ったその時、ボクの中のレーダーに反応があった。


「上空に人型の飛行物体……!? これは……」


 真っ直ぐ駅の方に飛んで行くのを捉え確信した。


「リトルだ! これはまずい! 」


 屋上から飛び降り、住宅街の屋根の上をジャンプで高速移動しながら駅へ向かった。



 駅の方向からは爆発の煙が確認できた。


「保安部隊が先に来てる。でも、相手がリトルじゃ…」


 ボクが駅に着いた時には保安部隊は全滅していた。リトルはまだぴんぴんしている。


「なんだ、もうおしまいかよ。まったく骨のねぇ奴らだぜ」


「リトル……」


「ん? おお、ティアじゃねぇか。研究所から逃げ出して消息不明になっていたが、今まで何してたんだ? 昨日の女ソルジャーもお前の仕業なんだろ?」


「そうよ、でも彼女は今日は来ない」


「は? なんでだ?」


「ボクがお前をとめるからだ!」


 ルイが戦えないなら、ボクがリトルをどうにかするしかない。


 ボクは戦闘態勢に入る。


「俺をとめるだと? お前ごときが……笑わせるな! ソルジャーはどこにいる!」


「誰がお前なんかに!」


 リトルは装備していたサブマシンガンをボクに向かって撃ってくる。すかさず腕からバリアを展開して守りに入る。弾丸はバリアに弾かれ地面に落ちる。


 ボクはリトルの攻撃から身を守る術はあるけど、肝心の倒す術がない。


「このままじゃ防戦一方だ……」


「ティア、お前俺の攻撃は全て防御出来るとか思ってるだろ?」


「え……?」


「甘いんだよ……お前は俺に傷一つくけられないどころか、自分の身も守れねぇ!」


 リトルは腕の装甲を展開して、何かの発射口を露出させた。


「ミサイル発射!」


 腕からミサイルが発射されバリアに直撃する。衝撃でボクは吹き飛ばされ、バリアも解除してしまった。


「今だ!」


 リトルはこの一瞬を見逃さず、武器をライフルに持ち替えボクに照準を定めた。


「まずい、バリアを!」


 バリアを展開しようとするが、すでにライフルの弾は発射されていて、展開しかけたバリアは粉々に砕かれた。わずかに弾道が逸れた弾はボクの腕に命中する。腕のバリア発生装置は完全に破壊された。


「頭を狙ったが……まぁいい、これでもうバリアは使えまい。次で終わりだ」


 リトルは再び照準を定める。


 万事休すとはまさにこの事だ。


 あと数秒でやられるという時、ボクの頭にあったのはルイの事だった。


 好きだったのに、あんな別れ方で終わるなんて……


 機械のボクには『友情なんてわかりっこない』か……


「ボクはロボットだけど、本当の友達になりたかった……」


 後悔はあったけど、諦めて目を閉じた。


「なに馬鹿なこと言ってるの!」


 声が聞こえた。聞きなれた声が。


 目を開けると瓦礫の上に彼女は立っていた。


「ルイ……」


「ティアはもう、私の友達でしょ!」


 大声で叫ぶルイの頬は大量の涙で濡れていた!


「おい女! 邪魔すんじゃねぇ!」


「うるせぇ! てめぇは黙ってろ!」


 ルイは覇気でリトルを黙らせる。


「ルイ……なんでここに……?」


「テレビでティアが戦ってるの見て走ってきたの」


 ルイはボクの元まで走ってきて、倒れているボクを抱き上げた。


「こんなにボロボロになってまで私の代わりに……」


「やっぱりルイには戦って欲しくなかったから……だって戦うの怖いって言ってたし……」

「馬鹿! ティアがいなくなる方がよっぽど怖いよ!」


 彼女の腕が、言葉が、あたたかい。


「ごめん、昨日ティアに沢山酷いこと言っちゃったけど、あれは全部嘘なの……本当はあなたがロボットだなんて事どうでもいい。本当はあなたが私のことどう思ってるだなんて関係ない。本当はティアのこと親友だって思ってた」


「親友……」


「戦いたくなかったから、そうしなくていい理由を作ろうとしてティアまで否定してしまった……」


「ありがとうルイ、ボクのためにそこまで泣いてくれて」


「こんな涙で友達が守れるなら、いくらでも泣いてあげる」


 ティアは私を座らせるとソルジャーの仮面を取り出した。


「ルイ……!?」


「私はティアを守るために……あいつに勝つまで泣き止まないから!」


 ティアは仮面を装着して、ソルジャーへと変身した。

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