第28話 暴走乙女


 走り去る少女の足は早い。


 ちてててててててててて!!!!


「なんなのよ、あの子! てか、まずい! お腹痛くて走れない!」


 カノンは腹を抑えながら走る。

 食事の後に過度な運動は禁物だ。


「カノン、今日は休んでろ! 俺がとっ捕まえてやるから!」


「お願いよ! 写真が流失でもしたら、面倒が増えるわ!」


 カノンがゆっくりと風景から消えていくのを確認すると、俺は前を向いて猛スピードでその女の子を追いかける。


 緑髪の少女のスカートがペラペラとめくれて、薄い青色のパンティーが見える。

 それに食い込む肉が、美しく噛み込んで姿を鮮明に見せる。

 二つに割れた小さなくぼみを追いかける俺は、いつのまにか写真のことを忘れかける。


「……季本、速いです!」


「俺は、中学時代は陸上部だっつの!」


 俺は盗撮少女に抱きつくと、まもなくその子は止まる!


「ちょ、ばっ! 何してるんですか、変態ですか!」


 そして少女は俺に急に抱きつかれると、顔を真っ赤にして振り解こうとする。


「変態もタコもねぇぜ! ほら、カメラを渡せ!」


「嫌です! これは絶対に渡しません!」


 女の子はスカートのポケットに手を突っ込むと、フリフリと手を解こうともがく。


「あっ! ポケットの中か!」


 そして俺は女の子の手の上からポケットに突っ込む。


「ひゃっ! 本当に何してるんですか! 変態ですよ! 変態!」


「こちとら、その画像に人生かかってんだ!!」


「離してください! 私だって、この画像に人生がかかってるんです!!」


「そんなこと知ったことか! そら、渡してもらうぞ!」


 俺は女の子の手の下にえぐるようにポケットの中に手を入れる。


「いやっちょっ! そこは違っ……ひゃぁん!」


 ポケットをまさぐると、四角くて硬い物が俺の指に触れる。


「これか!」


 ポケットからき出そうと、俺は指でそれを持ち上げる。


 クイックイッ。


 俺の指はとても繊細で、女の子が嫌がる手の下から滑らかにいじくる。


「いやっ……はぁっ……うぅん……!!!!」


 女の子は熱くなる体をブルブルと震わせながら、俺の指の動きに敏感に反応する。


 女の子の後方から抱きつきながら、左手で抵抗する子を押さえつけ、右手でスカートの中を探る。

 女の子は身震いしながら、どうしようもない左手を上下に振るだけだった。


 パシャり。


 パシャパシャ。


 パシャパシャ


 俺は血眼ちまなこになって女の子が押さえ込んだカメラを取り出すために指を一本ずつ、女の子の指に絡ませる。

 カメラに張り付いた女の子の手が引き剥がされようにしているのだ。


 だがしかし。


 掻き出そうと必死に指で擦り付ける動作は、はたから見れば、それだった。


「っしゃぁ! 貰ったぞぉ!!」


 カメラを上に掲げて喜ぶ俺。


 はっはっはっ!

 やったぞカノン!

 これで、どうにかなりそうだ!


 そう、どうにかなりそうだ。


 パシャパシャ。


 そこに通りかかった大学の生徒たちが、俺の後ろから写真を撮っている。


 振り返ると、その輝くフラッシュに身を焼かれ、俺は奈落の底へと朽ち果てる感覚に陥った。


「……鬼畜 季本きのもと氏、彼女がいつつも公然で女の子の股間を触りまくる、の図」


 パシャり。


「最低。もう、この人嫌いだわ」


 パシャり。


「面白そうだから、写メ撮っとこ!」


 パシャパシャ。


「あっ……あっ……!」


 俺は向けられた銃口カメラを一つずつ眺めながら、真っ青になる。


「おい待て、違う! おいアンタ、起きろって! 説明しろよ!」


 俺は目の前で息を荒げて倒れる女の子の手を引っ張って立ち上がらせようとする。

 がしかし、生まれたての子鹿のようになった彼女はプルプル震えて立てないのだ。


「……お兄ちゃん、……汚されちゃったよ」


 おいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!


 パシャパシャ、パシャパシャ!


「やっべ、逃げろぉ!」


 俺は、女の子をお姫様抱っこすると、外に続く出口へ向かう!


 パシャパシャ!

 パシャパシャ!


 銃口から放たれる死臭のする弾丸を浴びながら、俺と女の子は外へ出て行った!

 もう、本当に今日っていう日は!


 つづく。

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