第27話 普通の男女なら


「まてまて、カノン! 自分で脱ぐから!」


「ちょっ! 騒がないでよ!」


 カノンが右手で俺の口を抑える。

 カノンの手が唇に触れると、なんだか頭がクラクラしてきた。


 このシチュエーション、どう考えてもマズすぎるだろ!!


 二人が密室の空間にいて、今から男女が目の前で下着を脱ぐんだぜ?!

 我慢できる訳ねえだろ!


「ほら、私が脱がしてあげるわよ。ベルト、取るわね」


 スルスルとベルトを抜き取ると、そのままバッとズボンを降ろす。


「待てっ早いっ! まだ落ち着けないんだよ、男の子は少し瞑想した後じゃないと……」


「いいわよ、私は気にしないって。リュートのモノは、もう裸にした時に見てるからなんとも思わないわよ」


「お、おい、そういうことじゃなくて!」


 とぅるりん!


 ポジションが良くなったのか、俺のタワー建設現場がギチギチと悲鳴をあげる。


 ピンク色のリボン付きパンティーの中には、伝説の子供を吐き出す魔物が住んでいる。

 その魔物は一頭龍で、今にも火を吹かんとカノンに向けて威嚇をする!


「……やっぱり、大きいのね。……すごい!!」


 カノンは感心したのか、パンティーをギチギチと持ち上げる俺のモノを見ながらふむふむと頷く。


 もう、一層の事殺してくれよ!


 俺はあまりの恥ずかしさに、我を忘れかける。


 が、目の前にいるカノンは普通のように落ち着いているのを見ると、なんだか俺が童貞童貞しすぎて負けられない感じがする。

 相手だって男性経験のない淑女だ。


「……どうした? 脱がすんじゃないのか?」


「なによ、急に負けん気強くなって。そんなに男性経験のない女に童貞いじりされるの嫌なの?」


 カノンはジトォっとした目で俺を見て、右手で口を押さえて嘲笑する。


「ってか、カノンだってパンティー脱げよ」


「嫌よ、なんでリュートに見られなきゃいけないの? それくらい自分で脱ぐわよ」


 ……この女!

 自分だけ見ようとしてやがる!


「だめだ、やっぱり自分で脱ぐ。向こうに体を向けない限り、俺はこのパンティーは脱がない」


「……なによ、けちん坊」


 カノンは諦めたのか、後ろを向く。


 ごそごそと服を脱ぐ音が聞こえる。

 そっか、相手もパンティー脱ぐのか……。

 やっべ、収まらん。


 俺は、ギチギチになったパンティーを脱ぐと、ゆっくりとそれを目の前に持っていく。


「股間の所、デロンデロンやん」


 と小さく呟いてみる。

 と、俺はふと目の前にあった大きな鏡を睨む。

 ってか、よく見たらカノンの姿が面の端っこで動いてるな。

 あれ、カノンの可愛いお尻、見えるくね?


 鏡には、長髪の美少女がズボンを脱いで、やっとパンティーに手をかける姿が見えた。

 少しだけアソコの部分が透けてるパンティーが目に入ると、俺はさらに上を向く。


 おっほっほっほっほっほ!!!!!!


 俺は血眼になりながらカノンの動向を、カノンの体が焼きつくまで見つめる。


 パンティーがもう少しでお尻の割れ目から覗く秘部に差し掛かる……!!!!!!



 おっほっほっほっほっほ!!!!!!


 しかし、カノンの右手が一瞬、前方に消える。


 んっ、なんだ?


 すると、鏡に丸い光がパッと映る。


「ぐわっ!」


 まぶしく光るそれには、しっかりとカノンの顔が写っていた。


 手鏡だ!

 その手鏡は、間違いなく俺の正面にある鏡の風景を映し、


「あら、リュートのギンギンになったとこ、見ーっちゃた!」


 手鏡に映るのは大きな鏡の姿。

 大きな鏡に映るのは、半裸の俺の姿。


「甘いね、リュートは。全部考えはお見通しだって言ってるでしょ?」


 ふふん、とカノンは鼻を鳴らす。


「やられたぁ……!!!!」


 俺は悔しさのあまりに上を見ながら歯を食い縛る。


 その間に、カノンはサッとパンティーを脱いで、恥部の前に鞄を持っていく。


「ほら、渡しなさい、パンツ」


 鏡でその姿を見ると、後ろに向けてデロンデロンのパンティーを渡す。

 ちょっぴりおしっこがついてるけど、まぁ問題ないだろ。


 だって、白じゃないからな?

 バレないだろ。


「ほらよ」


「……なんか湿ってない? これ」


「汗だよ、どんだけヒヤヒヤしたと思ってんだ。嫌ならノーパンで過ごすんだな」


「わかったわよ、履くわよ」


 パンティーを受け取ると、すぐにカノンは便座の方に向かった。

 残念ながら、その姿は鏡の角度からしても見えない。

 が、しかし、なんだか変な声が聞こえる。


「ふ、うぅん。はぁ……」


 ジョジョジョジョ。


 ウォシュレットの水は、何かに当たると、変な音を出して便器に吸い込まれていく。


 その音が止まると、ガラガラガラと、トイレットペーパーの音が聞こえて、スッスッと拭く音が聞こえる。


 ガラガラガラ、スッスッ。

 ガラガラガラ、スッスッ。


 そして、プラスチックを開ける音がする。


 ペリペリペリ、ペタッ。


 ペチンッ!


 その音から察するに、カノンの股に俺の脱いだパンティーが吸い付いた音だと思った。


 何かが二つの肉を締め付けながら、股の方へ登っていく。

 その想像をするだけで俺の創造した魂が再び膨れ上がりそうだ。


「うん、スッキリ! もういいよ、リュート、こっち向いても」


 ズボンを履いたリュートはやっとのことカノンと対面する。


 ふふっとカノンは笑うと、鞄の中に残りのナプキンをしまう。

 すでに、汚れたパンティーは袋に包んで縛っているようだ。


「ふぅ、助かったわ、本当にありがとね、リュート」


「……割りに合わんのだが、この仕事」


「いいじゃない、こんなに可愛い私にあの大っきいの見せられたんだから。ね、露出狂さん?」


「そのネタはするな! 俺のせいじゃない!」


 リュートはカノンの頭にコツンと拳を入れる。


 今回くらいは許してくれ。

 本当に気が狂いそうだった。


 二人きりで、密室で、パンツをお互い脱いで。

 条件は揃ってた。


 我慢できたのは、あの誓いがあったからだ。


 ――――『俺は、カノンとはセックスをしない』


 この誓いがなければ、確実にヤッてた。


 カノンはまたもふふっと笑うと、少しだけだが浮かない顔をする。


 ◆◆◆◆◆◆カノン目線


 私は黒い髪をくるくると指で巻くと、その姿が映る鏡に、少しだけ変顔をしてみた。

 頬を膨らませると、吐き出して自分の顔が映っていると確認する。


 私は……可愛くないのかな?


 意外だった、リュートは来なかった。

 来てくれなかった。

 こんなシチュエーション、普通の男女なら何かしらのアクションはあったはず。

 もしかしたら、本当に私に興味がないの?

 あんなに熱いキスをしたのに、急に距離が大きくなった気がする。

 ……やっぱり、お邪魔なのかしら、私は。


 私とリュートは少しだけ気まずくなると、いそいそと多目的トイレから出る準備をする。


「さぁ、出るぞ、カノン」


「分かってる、誰にも見られないように、自然にね」


 ガラッ。


 私は多目的トイレを開ける。

 その後ろにはリュートが隠れていて、出来るだけ二人同時に出ないようにして、一緒に中にいたことを悟られないようにする。


「さぁ、行け、カノン!」


「えぇ!」


 そして、私は真正面に飛び出す。




 パシャり。




 真横から聞こえるシャッター音。


「「……なぁっ!!」」


 私は驚き、咄嗟にシャッター音のする方に顔を向ける。


 そこにいた緑髪の女の子は、私とリュートが映るような角度で、予めからスタンバイしていたのだ!


「やりましたよ、ヤりました!」


 ちっこい緑髪の女の子は、ペロリと舌舐めずりすると、そのままもう一度シャッターをきる!


「やばっ!」


 リュートは急いで隠れるが、銃弾はすでに二人の体を同時に撃ち込んでいた。


「えへへ〜! これは高く売れそうです!」


 女の子は急いで銃をしまうと、すぐに私たちの元から逃げるように駆けていく!


「リュート! あの子を追うわよ!」


「おっおう!」


 つづく。

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