第22話 かんじょーリンク


 ◆◆◆◆◆◆リュート目線


「……ってなわけだ、リュート。テルさんとは面識があるんだよ」


 エータは話し終えると、俺の横に行く。

 少しだけ見つめて、俺の肩に右手をポンと乗せる。

 テルを担いでる俺には、その手の意味はすぐに分かった。


「……俺が担ぐから代われってか、エータ。でも、ダメだ。お主の心は歯磨きした後の鏡のように薄汚れておる」


 俺は、仙人のような口調でエータからテルを離す。


「良いじゃねぇか! ずるいぞリュートばっかり! ハーレムじゃねぇか!」


 エータは俺の服をビンビンと引っ張る。

 伸びるし、揺れるし、テルが落ちかけるからやめてほしい、そしてキモい。

 しかも、好きでハーレムになってるわけじゃない!


 このレベルでハーレムなんて甘いな、エータ。

 こちとら、いろんな女から精液をよこせって言われるんだぜ?

 俺と交尾したがる女の子がカノンとテル含めて4人もいるって知ったら、エータはあまりのショックで首でも吊るんじゃないのか?


 そんなことを思いながら、鼻の下を伸ばすエータの目を見つめる。

 まぁ、信頼しても良いんだが、俺の背中が幸せすぎて手放したくないということもある。


 エータにテルを引き渡せば、確実に今晩のオカズにされる。

 テルの柔らかい肌と胸に触れれば、その感触を誰しもオモチカエリしたくなるだろう。

 それが心配だから、絶対に渡さない。


 ごめん、一部嘘だ。

 渡したくない理由のほとんどは俺が胸を背中で感じていたい事にある。


 すると、カノンはため息をつくと、腕を組んで俺の前に出てくる。


「……ねぇ、リュート。テルをエータ君に渡してあげれば?」


「えっ?!」


 今のは流石に驚いた。

 まさか、あのカノンがこのスケベド変態野郎にテルを渡せというなんて。


「リュート、さっきまで重いだの何だの言ってたじゃない。渡してあげれば?」


 片手にぬいぐるみのように動かないテルのペットを抱えてそう言う。

 ベルっていうぬいぐるみ大の生物は休養中のようで、何をしても一切起きない。


 というか、これは初めての展開だ。

 まさか、女子をエロい目で見るのを嫌うカノンがそんなこと言うとは、なにか悪いものでも食ったのか。

 それか、呪いの飴でも食ったんじゃないか?

 あ、それは俺か。


「……わかったよ。なぁ、エータ。頼むぞ? 良いな?」


「おう! 任せとけ!!」


 そして、俺はテルの体をエータの背中に預けると、彼は間も無く鼻の下を大きく伸ばす。


 それ、言わんこっちゃない。


 だがしかし、カノンはその姿を何とも思っていない。

 さっきまで、俺の事を罵倒したり、抓ったりしたくせに。

 なんだよ、エータと俺とで何が違うんだよ。


 ◆◆◆◆◆◆


 俺とカノンとエータは腹がペコペコだ。

 気づけばもう12時を回っていた。

 昼飯は、結局大学の中にある売店で済ませる事になった。


 売店には、いつも売り切れて無くなるはずの特製ソースのグラタンコロッケピザバーガーなるものがちょうど人数分余っていた。


「げっ! 嘘だろ! 100円値上がりしたのかよ! 昨日まで500円だったのに!」


 俺は嘆きながら、告知されている看板の前で跪く。


 なるほど、売り切れてなかった原因はこれか。

 ……仕方ない。

 あれこれやってたら、あと30分で授業が始まる。

 食堂に戻るのもなぁ……。


「食べればいいじゃない。なんとかかんとかバーガー」


 カノンは椅子に座ると足を組む。

 美しく艶やかな太ももがエロい。

 もう少しで角度的にパンティーが見えそう。

 でも、パンティーじゃ腹は膨れないのだ、膨れる箇所はあるが。


「それもそうだな」


 仕方なく、俺達は特製ソースの味を楽しむべく、財布の中を開ける。

 俺の財布の中がジャラジャラと悲鳴をあげる。

 対するエータは、何やらいい意味で財布が軽そうだ。

 金持ちのボンボンはやはり持ち金の考え方が違う。


「バーガーが600円だから、あと400円買えば、小銭が出ないでいいなぁ」


 そんなエータのつぶやきを聞くと、俺はこいつをコンクリートの海に沈めてぶち殺したくなるが、金持ちのボンボンボッチャマだ、殴ったりすれば隠れたSPが黙っちゃいないだろう。 (いるわけないけど)


 そしてカノンは足を組んだまま動こうとしない。


「……私は良いわ。朝ごはん食べたし」


 そう言って、カノンは遠慮する。

 バーガーの看板を見て舌なめずりするのに、なぜか買いに行こうとはしないのだ。


「なんだよ、ダイエットするような体型でもないだろ?」


 俺はカノンの御御足を眺めながらそういう。

 俺はどっちかというとムチムチの方が好きだ。

 カノンにはもっとムチムチになって欲しい。


「違うわよ。買いたいものがあるのよ。やっぱり、あまりお金を使ってられないもの」


 あぁ、なるほど。


「……新作が出るもんな。明日」


「ぎくっ」


 感情リンクというのは便利だ。

 以前、大人のオモチャに対する潜在意識のリンク魔法のお陰で、何となくだがカノンのエッチな感情だけが伝わってくる。

 股間がムズムズしてるのは要はそういう事だろ、カノン?


「う、うるさいわね、リュート! これだから、意識の共有は嫌なのよ!」


 俺はニヤけながらカノンを見る。

 対するカノンはぷんぷんと湯気を頭から吹き出す。


 そう、明日は新作のオモチャの発売日なのだ。

 事前に調べていたカノンは、それをワクワクしながら待っていたのだ。

 あぁ、潜在意識のリンクとは便利だ。


 今カノンが考えていることが手に取るように分かる。

 まぁ、カノンの頭の中はオモチャのことばっかりだけど。


「なんの話だよ、俺も混ぜろよっ!」


 エータは俺の肩に腕を回すと、俺の頭を左拳でグリグリしてくる。


「ダメ、エータ君は絶対ダメ! リュートから聞いてもダメ! どっちかがその話を口にした瞬間、ぶちころ……ぶち転がすからね!」


 ふん、とツンをかますカノン。

 カノンは顔を真っ赤にすると、何故だか椅子から立ち上がる。

 そして、カノンは文房具売り場の方に走っていく。


 それを見たエータは、俺に耳打ちする。


「……エログッズなのか? リュート」


「チガイマァス」


 教えてたまるか、殺されるわ。


「あとで教えろよ」


「シリマセェン」


 カタコトで返事をする俺。

 何も答えようとしない俺を見て、エータはニヤリと笑う。


 まだ、切れるカードならいくらでもある、そんな顔をするエータ。

 鼻の下を伸ばすと、彼は俺の耳元で濁った声で囁く。


「テルさんのおっぱいの揉み心地……知りたいよな? リュート?」


 ご、ごくんっ……!


 俺はその甘美な単語、テルのおっぱいという魔性の存在を聞くと、鼻をピクピクと動かす。


「エ、エログッズデース」


「やっぱりな」


 俺の心は、ついついそっちの方に着いて行ってしまった。


 バレなけば良い。

 バレたら……ぶちコロコロだもんな。


 ま、バレた時には、大人しく首輪でも付けてもらおうか。


 ガシッ。


 きゅん! と鳴いて、俺は急にブルブルと震えだす。

 俺は俺が意図した震えではない、体の勝手な作用の一つだった。


 なんだか、首がきつい。

 あれ、なんかおかしくね?

 首絞まってね?

 え、首輪すか!!


 そして、文房具売り場の陰から、ゆっくりとカノンが出てくる。


「ねぇ、リュート? 何回でも言うわよ、私と、あなたの、感情は、リンクしてるのね? あなたのヨコシマな考えなんて、全てお見通しなの、ヨ?」


 首を締めるのは、カノンの右手。

 それは、言うなれば『拷問魔法』だ。


 あ、忘れとりましたわ、俺とカノンの感情ってリンクしとりましたね。

 馬鹿なのか俺はぁぁぁ!


 ぐ、ぐ、ぐ。


 首を締められる俺は、カノンの頭の上にだんだん綺麗な川が見えだす。

 川の前の看板には『サンズリバー』と書いてある。

 ここを渡れば、俺は苦しみから解放されるのでしょうか?


「やっぱり、記憶消した方がいいわね。当分魔法使えなくなるけど仕方がないか」


 カノンは薄気味悪い笑みを浮かべながら、首を掻き毟る俺を眺めていた。


「は、なぁ、江夏さん。魔法ってなんだよ」


 エータはゆっくりと後ずさる。


 テルは相変わらずグデンと椅子の上で寝ている。


「まぁ、どうせ忘れることよ。リュートもエータ君も、サヨナラ」


「ちょっまっててカノン!!」


「江夏さん!」


「さよなら」


「ちょっ!」


「さよなら」


 エータは泣きながらカノンの前に跪く。

 俺もその姿を眺めながら締まる首を掻きむしっていた。


「さ・よ・な・ら」


 俺とエータの二人の前に白い閃光が炸裂すると、全てが消えて行くような感覚に陥った。


 ◆◆◆◆◆◆カノン目線


 ………………。


「ねぇ、リュート。私の趣味ってなんだっけ?」


「なんでそんなこと聞くんだよ。花壇の植え替えって言ってたじゃねぇか」


「ねぇ、エータ君。私がお金を持ってる時、どうすると思う?」


「それなら、種を買うとか肥料を買うとか言ってたよな?」


「うん、おっけー。これからはうっかり私の秘密を暴露しないように。次行ったらぶち転がすくらいじゃ済まないから、ね?」


「「いぇす、まむ!!」」


 私は、にこりと笑うと、特製ソースのグラタンコロッケピザバーガーを手に取る。


 この変態どもにキツイお仕置きをしたが、どうやら私は普段は使わない魔法を扱うのは苦手みたい。

 私は店員に3つバーガーを注文して、キマッてるリュートとエータにそれを渡す。


「お詫びに奢ってあげるわ。さぁ、食べなさい!」


「「いぇす、まむ!!」」


「そ、そんな硬くならなくていいから。ね?」


「「いぇす、まむ!!」」


 馬鹿二人は軍隊のように綺麗な動きで席に着く。

記憶魔法ストレージオペ』とは、どうやら人間の意識をかなり強く束縛するらしい。

 まぁたやりすぎたわ、ごめん、二人とも。


 つづく。

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