第21話 エータ君、テルに触れる



「え! え! そんなはず無いでしょ! テルはそんな体を売るようなことをする子じゃない!!」


 カノンはやはり女王モードに入り、エータに詰め寄る。

 そして胸ぐらを掴んでエータは縦横にブンブンと振られる。


「ま、マジだって! テルさんが俺に突っ込んで来たんだよ! 事故ってやつ!!」


「「事故!?」」


 事故だと?

 待てよ?

 なんかどっかでテルが事故ってるの聞いたぞ!?


 俺はある風景を思い出す。

 それは、テルが授業に行くと走って行った数秒後の事である。


 ☆☆☆☆☆☆エータ目線


 ――ちょっと前の話だ。


 俺は一限の授業を終えて階段を下りていたんだ。

 リュートが来ないから、一人で授業を受ける羽目になっちまった。

 あいつ、どうせ江夏さんとパンパンよろしくやってんだろうなって。

 あぁ羨ましい!

 おの厭らしい腰を持ってズッコンバッコンやってんのか!


 畜生!


 俺も誰か捕まえてセックスしてぇ!!


 そんなことを思っていた、俺は変態男である。


「じゃ、私は今から授業に行くから。ねぇ、カノン。絶対に私がいないところでエッチしちゃダメだからね?」


 と、曲がり角の奥から突然 天使のような声が聞こえて来た。


 その声に反応した俺は、それだけで美少女が曲がり角の向こう側にいることを悟った。

 しかし、ここは現実だ。


 パンを咥えながら走って来た少女がぶつかって、パンツを見られてエッチ! なんて状況にはならないのだ。

 現実とは極めて世知辛いものなのだよ。


 そして、俺は階段から降り終わる。


 さぁ、どんな美少女が現れるかな?

 そんなことを思っていた瞬間、突如 人間が角からドリフトしながら現れた!


 後ろを見ながら走る赤髪の少女!


「わっ! 馬鹿、待て待て!!」


「えっ!」


 オレンジ色のパーカーが赤い髪の子の体を包み込むと、俺は彼女と正面衝突する。


「わわわっ!!」


「きゃっ!!」


 どっかぁん!!!!!! ってな感じ。


 ツインテールの少女はあまりにも速いスピードで突っ込んだために、俺と赤髪ちゃんは壁に向けて倒れる。


「いてて……」


 俺は目を瞑ったまま倒れると、とっさの判断で前に出した腕に重いものが乗っかっていることに気づく。


「ひゃん!」


 少女は、顔を真っ赤にして体をビクつかせる。


 ん、なんか、すげえやわらけぇ。


 ぷに、ぷに。


 手に収まりきれないサイズで、手の平の真ん中にいい感じに硬い突起が二つ。


 あ、コレおっぱいじゃね?


「う、ううっ!」


 あ、可愛い。


 俺は、ちらりと胸元を覗く。

 小さな谷間が見えて、その谷間を大きくしたり小さくしたりできるのは自分の両手であることを確認する。


 おお、結構谷間大きいじゃん。


 ペチペチと、両胸で音を奏でてみる。

 揺れ動く赤髪ちゃんの胸は、それが左右に揺れるたびに両足をビクつかせる。


「び……びぃ……」


「あっ、やばい」


 俺はようやくここは夢の中ではないことに気づき、ハッと我に帰る。

 なんだかさらに手のひらの真ん中の突起が硬くなってる。

 手のひらを押し込むほどってことは、かなりビィチクでかいんだろうな。


「びぃ……びぃい……!!」


 うわ、この子、めっちゃ可愛い。

 お人形さんみたいで、顔を真っ赤にしちゃって。

 でも多分、そろそろ胸から手を離したほうがいいな。

 うん、でも、もう遅いね。


「びぃえええええ!」


 ぱちんぃん!


 俺に平手打ちをすると、少女は急いで後ずさりする。


 ごんっ!!


 そして、彼女は後ろのプラスチック灯に頭をぶつける。


「痛ってて……」


 俺の顔に真っ赤な紅葉が形成されると、両手でそれを抑えながら立ち上がる。

 目の前には赤髪のツインテールの子が足をバダバタさせながら泣いていた。


「びぃえええええ! びぃえええええ!」


 涙を流しながら、彼女はその場を何回転もする。

 そして、その場で座り込んでしまう。


 俺は流石にヤバイと感じたから、駆け寄って体を摩る。


「ご、ごめんな、あまりにも可愛かったから、つい揉んじまったんだ。悪気はねぇよ」


 我ながらクズな言い訳を繰り出してしまい、これはまずいと何度も謝る。

 泣き止んでくれと願いを込めて背中を擦る。

 と、少女は一瞬だけ、ピクリと動いた。


 泣き止んだ?


「……可愛いって言った?」


 おっ、あ。

 なるほどね。


 俺は、少女の耳元に口を持って行く。

 トロンとした表情の少女は、何かにうっとりとしているようだ。


 そう、彼女は自分のことが何より一番好きなフレンズなんだ。

 だったら、泣き止ませるのは簡単さ。

 まぁ、俺のテクニックで泣き止ませてみせようか。


「君を見た瞬間、最初はお人形さんが降って来たかと思ったよ。そしたら、まさか君のような美しい顔立ちをした天使さんだったからさらに驚いたよ」


 ぴく、ぴく。


 やはり。


 俺はそれから呼吸が整うまで背中を摩ってみる。


「……本当?」


「ああ! 本当さ! 可愛いよ、すごく!」


「……どれくらい?」


「今まで見た中で一番可愛いよ! 本当、マジで可愛い! 最高だよ!!」


「……」


 少女はゆっくりと両手に手を当てる。

 プルプルと震え出して、顔を横に振る。


 バッ!

 彼女の満面の笑みが天井に向けて放たれる。

 天使の笑みを浮かべながらクルクルと立ち上がり、右手を上に上げる。


「当たり前じゃない! 私が世界で一番可愛いなんて! 見る目あるじゃない、あなた!!」


 少女は、ぱぁと開いた花びらのような笑顔を見せる。


 ギュッ。


 俺は胸ぐらを掴まれたような強いショックを受けた。


 心臓に釘を撃ち込まれたのか、自分の胸を確認しても、何も刺さってはいない。


「ねぇ! 私のどこが可愛いの? ねぇ!」


 少女は、俺の肩を持つと、グラグラと縦や横に揺らしまくる。

 それでも、俺は何も反応しなかった。

 いいや、反応できなかったのだ。


 心臓に撃ち込まれた何かを探すのに戸惑ったからだ。

 得体の知れない何かを脳の中で弄るが、一切納得できる答えが見出せないでいる。


「ねぇ! 私の目を見てよ! どうしたの? ほら! ほら!」


 うふふ、と少女は笑顔を振りまいて、俺にそれを寄越した。


 彼女が心臓を握りつぶしているわけではない。

 はたまた、死神が心臓を貰い受けに来たわけではない。


 天使だ。


 矢が、心臓に向けて百方向から狙い撃ちして来たのだ。


 全身に向けて放たれたハートの矢が、どこもかしこもヒットして、それが避雷針になって雷を撃ち落とした。


 ブルブルと、二回震えた。


「……瞳、綺麗だね」


 目を合わせて自然に出た一言。

 俺はなにかと恥を怖がらないタチだが、今回ばかりは遠慮が入る。


「きゃー! 何よアンタ! さいっこう!!」


 ケロっとした少女は腕をブンブン振りながら喜ぶ。

 こんな安っぽい言葉で、はしゃげる女の子なんて、この子くらいしかいないだろう。


 なんだろう、心臓が痛い。

 全身が爆発しそうに熱い。


 これ、もしかして、一目惚れなのか?


 つづく。

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