第11話 カノンちゃんのご趣味


 緑や赤、青や白。

 いたるところに綺麗に並べたところを見ると、とてもカノンは几帳面だとわかる。


「なぁ、カノン。マジか?」


「……そうよ、マジよ」


 試しに一本、俺はそれを取って見る。

 力強さを感じるそれは、本物のようにゴツゴツと血の筋が浮き出ている。

 電動式で、電池を入れるところには『3号』と書かれている。

 おそらく、それは左から3番目にあるからだと思う。


「カノンさん、マジかぁ……」


「マジよ! もう! うるさいわね!」


 カノンはそれを取り上げると、電源を入れる。


 ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!!!


 上へ下へと震えるそれは、かなり綿密に作られた高級品だと俺にもわかる。


「カノンさん……マジすかぁ……」


「ねぇ、リュート。わざと言ってるでしょ」


 顔を真っ赤にしながら、電源を切ると、右手の平を俺に向けてなにやらブツブツと言い始める。

 やっべぇ、銃口を俺に向けるな!


「おい、待てよ! 事故だって! 不思議だと思ってた! なんでそんなに簡単に俺のヤツ握ったり見たりできるのかって!」


「黙りなさい! リュートの記憶ごと頭を消し飛ばしてやるわ!」


 後ろに下がると、俺は鮮やかに彩られた空間に入っていく。


 全てが上に反り返り、男の子の力強さを感じさせる。

 一本一本ずつ、男の生が刻み込まれているのだ。


「お前、これで毎日……してんのか?」


「だったら悪い?! コッチに来てからというもの、お金をコツコツと貯めて買ったの! 努力の結晶よ!」


 カチコチのオモチャをナイフのように持ち帰ると、俺に向ける。

 硬く卑猥に反り返るブツは、俺に突き刺さることはないものの、非常に変な威圧感を感じる。

 これが……コレを突きつけられた女の子の気分なのか?!


「なぁ、カノン……。マジで?」


「そうよ! いいじゃない! あなたがエロ本を集めているのと一緒よ! 女の子がこういうのを集めたらおかしいわけ?!」


「……お前、処女だろ?」


「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 カノンの魔法が頭に当たると俺はブルブルと震えながらそこに立ち尽くす。

 上を向きながら目をぎょろぎょろさせると、電子レンジの音が二回した。

 ...そして、どんどんと血の気が引き、何かぎ頭から抜けていくのを感じ。


 ◆◀︎▶︎◆◀︎▶︎◆◀︎▶︎◆


 チーン。


 チーン。


「……実は、記憶を消すのってかなりの魔力を消費するから嫌なのよね、だからあなたの潜在意識を改造させてもらったわ」


 ……とか言ってるが、俺はケロっとした顔でカノンのことを眺める。

 特に何も変化がなく、カノンが見えているということは、頭は吹き飛んでないってことだろ?


「……おう、どういう事だよ、これ」


「まぁ、こういう事。はい、これはなに?」


 カノンは右手に持った『三号』を俺の前に出す。


 俺はそれを見ると、何故だかとても嬉しくなる。

 あれ、すっげえテンションが上がる!

 てか、下半身が熱くなるっ!


「あっ! これってなかなか買えない高級品じゃねぇか! いくらしたんだよこれ?!」


「よし、おっけー。じゃ、『25号』を見てみなさい?」


 俺は振り返ると、25番目の大人のオモチャを手に取る。

 ななな、なんて繊細で歪な形をしているのだろうか!

 造形美とはまさにこのことか!


「おお! これはすげえ! これってAV女優とかが愛用してるって言われてる奴じゃん! よく買えたな、在庫あったのかよ?!」


「よし、完璧ね。さ、いくわよリュート。もう8時になるから、さっさと学校行かないと遅刻するわ」


 カノンは『3号』を所定の位置に戻すと、俺の手を引っ張る。

 しかし、俺は足を止めると、それに惹きつけられるように手を伸ばす。


「あ! 待ってくれ! そこにある『31号』って奴! もらっていいか? 金は払う!」


 カノンは振り返ると、ブルブルと震えて真っ青になる。


「あ……やばい。うう〜ん。一個ならあげるわよ、お詫びにね。ごめんね、リュート」


「まじか! サンキュー!」


 俺はウキウキで真っ赤っかの大きなオモチャを手に取ってにこりと笑う。

 すっげえ気持ち良さそう!

 なんでかわかんないけど、コレにすっげえお世話になった気がする!

 一回も触れたことないのに!


 ◆◆◆◆◆◆


「……潜在意識の改造。私の感性をリュートに埋め込んで大人のオモチャへの意識を良い方向に変えるつもりだったけど、まさかここまで……」


 私は、頭を抱えながらため息をつく。

 ここまで私、オモチャを溺愛していただなんて...。

 リュートがここまでオモチャを手にとってテンションが高ぶってるってのは、つまり私の心の中はいつもこんな感じってことよね。

 ど、ど、ど変態じゃない、私!!!!


「ありがとうな! カノン! 早速今日使ってみるわ!」


「ええ、いいわよ。……え?」


 私は顔をひきつらせると、ため息をついて手を横に振った。


 あーあ、知ーらない。

 痔にならなきゃいいけどねぇ……。


「あ、でさ、カノン」


 大事そうにディルドを抱えるリュートは、時折それをスリスリする。


 あ、それ私のお気に入りのやつじゃん。


「なによ、まだ文句あんの?」


「いや、そうじゃなくて、処女ってどうやってコレ使うの?」


 オモチャに対して違和感を感じないリュートのぶつけた爆弾のような発言。


 ななななな!

 なんでそんなに率直に聞くのよっ!

 アホなの、アホリュート!


 もう一度顔を赤くすると、私は振り返ってぶん殴ろうかと思ったが、もうここまでくれば言っておいた方がその時に驚かれないかもしれない。


「……処女じゃないもん」


「え?」


 リュートは首を傾ける。


「……この前、その頬ずりしてるそれで、勢い余って……ね。事故ったの!」


 リュートは少し思考回路が固まるが、『どんなに私がやばいやつだと分かったとしてもドン引きしない』という魔法の効力が効き、リュートの目が縦に横に揺れる。

 そして、リュートの頭と心の中が弾き出した最も正当な返答がこれであった。


「カノン……マジで?!」


 割り出した返答によって、やはり殺しておこうと思い直せた。

 今までありがとう、リュート。

 私は右拳が輝かせると、閃光弾のような光を辺りに放つ。


「ま、ま、待てカノン!」


「マジよ! もう死ねぇぇぇ!」


 つづく。

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