第12話 オトナの女の子・テルちゃん♪


 ◆◆◆◆◆◆リュート目線


「頼むよ、カノン。頼むから、俺がパンティー履いて学校に来てるなんて言うなよ?」


「あなただって、私がエッチなオモチャを集めてるなんて言わないでよ? 言ったらもう一回天井と挨拶することになるわよ?」


 俺の頭にお餅のようなでっかいたんこぶができる

 美味しそうに膨らんだそれにみかんを乗せてやりたい。

 そんなくだらない冗談なんて言ってられない、遅刻だ。


「なんでそれ握ってるの! 早くカバンの中に入れなさいよ!!」


 カノンは俺の右手に持つ『31号』をカバンの中に押し込む。


「おい! 俺のだぞ! 大事に扱えよ!」


「もう鬱陶しい! バカじゃないのあなた!」


 靴をコンコンと鳴らすカノン。

 そして、ドアノブを握る。

 外の光がドアの隙間から入り込むと、また一日が始まるのだなと気合が入る。

 なんだろう、すごく気持ちがいい。


 俺の心の中に何かが芽生え始めていた。

 それはなんなのかはわからないが、すごく暖かい気持ちになっていく。

 それは、太陽の日差しが俺の心臓に直接光線を叩きつけたからではない。

 きっと、カノンのおかげなのだ。


「おっはよ! 遅いわよ!!」


 そこには、赤髪のツインテールの女の子が立っていた。

 背が低く、どこからどう見ても中学生くらいの子。

 だがしかし、今は8時半だ。

 もうとっくに中学生は登校を完了している頃だ。


「ん? 友達かよ、カノン」


 外を覗くと、少女が俺に向けて手を振っているように見えた。

 なんだろうと、右手をあげようとした瞬間、カノンは光を閉ざして鍵を閉めた。


「……なんで、あいつがいるのよ?!」


「おいカノン、誰だよ、マジで」


 カノンは焦燥に駆られてドアに張り付く。


「確かにテルから追跡されないように結界を張りながら帰ったはず……!」


 カノンはギリギリと歯を鳴らしながら、ガタガタと震える。

 すると、急に扉が揺れ始める。


 ダンダンダンダン!


「ちょっとカノン! なんでドア閉めるのよ! 開けなさいよ! ねぇ、リュート君! 早く一緒に行こうよ、遅刻しちゃうよ〜!」


 ダンダンダンダン!


「うるさいわねバカ! なんで場所がここだってわかるのよ!」


「ふふ〜♪ それはねぇ〜! 愛の力なのですよっ! ねっ、早く行こうよリュート君!」


 ドアが音を立てて軋む。


「このマンションに入れるわけがないでしょ! だってここ、12階よ!? オートロックを乗り越えてここまで飛んで来たの?!」


「おい、カノン! 誰だよ、喧嘩でもしたのか?!」


「鈍いわね、リュート! こいつが昨日、あなたを殺しかけた犯人なのよ!」


「え? そうなの?」


 俺は考え込むと、指で顎を持つ。

 どんな人だっけ?

 全然思い出せない。


「ねぇ! リュート君! 昨日はごめんね! 私、昨日はどうかしてたわ。でも、もう大丈夫、私がカノンの手から救ってみせるから!」


「あなたが一番危険なんでしょが! テル! あなたいい加減大人になりなさい!!!!」


 テル……?

 あの時の子……?

 なんだか、すげえ悪いことをした子の事しか思い出せないんだが……。


「ねぇリュート君! 私たち、これから結婚して一緒に愛を育んで、たくさん子供を産みましょう! 5人欲しいわ5人!! そんな下劣な女なんて、一回妊娠したらすぐに家に帰るつもりよ! 私なら、何回でも愛せるわ! お願い! 出て来てよ、リュート君!」


 ドンドンドンドン!


 そして、この甲高い声から割り出した答え。

 俺はポンと手を叩く。


「あぁ、思い出した! モジャモジャの女の子だ!!」


「「は?!」」


 音が止まる。


 あれ、俺、やべえ事言ったか?


「ねぇ、リュート。そういえば、昨日テルに何をしたのかな? 変態さんなのかな? モジャモジャ? それ、どこの部位なのかな?」


 カノンの目が光る。

 指を鳴らし始めると、まるで魔物のようにジリジリと俺に近づく。


「ちょ! 待てよカノン! テルって子が俺の顔に股を押し付けてきたんだよ! 俺からじゃない! なぁ、まてよ、カノン様?!」


「テルに何をしたの? 私を差し置いて?」


 カノンの右手がどんどん歪んで、空気が殺されていく。

 カノンの手のひらに光が集まっていくのが目視できる。

 焼きつくような匂いと焦げ付くような匂い、これは空気が摩擦の匂いなのか?!

 怨念に近い感情を感じ取った俺は鼻水を垂らしながらこう思う。


 やっべ、殺される……!!


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 ★★★★★★テル目線


 私はドアの外で頰を持つと、茹でタコのように膨れ上がる。


「あわわわわわっ! 覚えてたのリュート君! 気絶してたと思ってたのに!!」


 私は首を横に振りながら、重たく閉ざされた扉の前でブツブツと念仏を唱える。

 リュート君に嫌われるわけないっ!

 私はこんなに可愛いし、嫌われるようなことはしてない! と思うし……。


「大丈夫、嫌われてない。大丈夫、嫌われてない。大丈夫、嫌われてない。大丈夫、嫌われてない。大丈夫、嫌われてない。大丈夫、嫌われてない!!!!」


 そして、私はさらに強くドアを叩く。


「ねぇ、リュート君! 昨日のことは全部夢なの! 私のアソコは確かにツルツルよ! いや、ツルツルがいいよね? きっとそうよ! だから、私、今日ちゃんと全部剃るから、私を嫌いにならないでぇ〜!!!!」


 ドンドンドンドン!!


「ねぇ、私もっと可愛くなるわ! カノンみたいな下品な女よりも、私の方がいいわ! ねぇ、返事してよリュート君! ねぇ! 何されてるの?! 今の悲鳴よね? まってて! 私が助けてあげるから!」


 ドンドンドンドン!!


 出てきて、リュート君! リュート君!!


「うるさいぞお前ら! 何時だと思ってんだ!」


 鳴り響く怒号。

 私はあまりにもびっくりして、空を見上げる。


 左を向くと、目の下が真っ黒になった成人男性が姿を見せる。


「こっちは二徹明けの朝なんだ……。今ならお前の首ごとへし折ってもいいんだぞ……?」


 私はその男を見つめると、何かがじわじわと込み上げる。


「び……び……!!」


 ゆっくりと瞳の上に雫を寄せ集める。

 その姿を見た成人男性は、急に我に返って私を見つめる。


「ご……ごめんな、嬢ちゃん? ごめんな? だから、泣かないでおくれ?」


「びっ……びぃ……」


 そういうと、成人男性は右ポケットから飴玉を取り出す。


「飴ちゃんあげるから、ね?」


 それを言われた瞬間、私の涙腺が大爆発した。


「テルは立派な大人だもん!! お菓子なんていらないもん! びぃえええええ!」


「おっ、ちょっ、嬢ちゃん!!」


 ◆◆◆◆◆◆カノン目線

 

 周りの人々が集まりだすと、成人男性に注目が集まる。


「え、俺が悪いの?」


 ゆっくりと私は、外の様子を見るためにドアを開けると、そこはまた新しい修羅場が出来ていた。

 テルはその場で泣きじゃくり、もはやいうことなど一切聞かないといった様子だった。

 そして、クマだらけのお隣さんは、冷や汗ダラダラでテルの事をあやすのだ。


「……あぁ。お勤めご苦労様です。本当、すみません...」


 ちなみにリュートは、私の紅葉の型をほっぺに作って倒れていた。


 つづく。

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