第7話 処女の密林


「え? どういうことなの?」


 私は父親の支離滅裂な考え方を理解できない。

 先ほどの勇者との話をちゃんと聞いていなかったのだろうか。


「そのままの通りじゃ。お主と勇者の産みの親と愛を育んで、ワシの孫を産んでくれということじゃよ」


 お父様はヒゲをいじると、少しだけだが私に対して恥じらいを覚える。

 それはそうだ、顔も知らない男のところへ行って、淫らに体を擦り合わせろと言っているのだから。


「……でも、私、お父様が言っていることが理解できないわ」


 私は拳を握りしめて、下を向く。

 悲しげな顔を私は、ゆっくりと顔を上げる。


「その方……、魔王に殺されてしまったんでしょう? 勇者の産みの親として……」


 ヒゲを撫でる指を止めると、改まったかのようにお父様は玉座に座りなおす。

 肩も凝ってないくせに肩を叩くと、もう一度入れ歯を奥まで押し込む。

 何を緊張なさっているのでしょう。


 そんなお父様は、やっと私の方を見ると、ブルブルと震えながら手を差し出す。


「……カノン、転生する方法は知っておるか?」


 転生……?

 転生!


 私はあまりにも突拍子もない発言に驚きを隠せなかった。

 まさか、そんなことを言いだすとは思っていなかったのだから。


「え……? それってまさか……!! 他の次元の彼に会ってこいってことなの?! お父様!!」


 ◀︎▶︎◀︎▶︎◀︎▶︎


「ここまでが、大体の経緯よ。私は他次元から来た西の王の娘。そして、あなたとの子供を作るために来た。わかった?」


 呆然とする俺の顔を見たカノンは、パチン俺の頰をはたく。


「……じゃぁ、本当にカノンとセックスしたらその次元に帰るのかよ?」


「当たり前じゃない。私がここに来たのは、あなたの遺伝子が欲しいからよ。あなたが私とセックスしてくれさえすればいいの。その後は、転勤という体でこっそり帰るわ。リュートは私を振ったでもなんでも言えば、恥ずかしくないでしょう?」


 な、なんなんだよ、その言い草。

 まるで、カノンの方が被害者側みたいな喋り方するじゃねぇかよ。

 俺だって、本当に好きな人と初体験をしたいのに、なぜそんなことを言われなければならない?


 俺は少しだけ、昔を思い出す。


 あの優しい笑顔。

 髪をなびかせる風。

 ぴょんぴょん跳ねて馳け廻る姿。


 あれ、全部演技だったのかよ。


「……そうだよな、そりゃ、俺に近寄るような人間はそんなやつぐらいだよな。来いよ、うちはもうすぐそこだ。」


 俺は半ば適当な返答をする。

 やっぱり女は信用しない方がいい、わかってたのに引っかかるなんて馬鹿だよな。

 わかってたさ、期待した方が馬鹿だ。

 もう、女は信用しない、心に決めた。


 そして、俺はカノンの手を握る。

 ここまで来たんだ、雰囲気作りくらいは出来るだろう。


「……ごめんね、こんなことに巻き込んで。」


「いいよ。だから、せめて俺の思い出にさせてくれ。俺、初めてなんだ」


「え、嘘……でしょ?」


「本当だよ。俺、高校の時からずっと彼女はいたけど、手を出すまでは勇気が出ないっていうか……」


「違うってリュート! 前!!!!」


 ゆっくり顔を上げると、目の前から飛んでくる何かに頭を打たれる。


「へぶっ?!」


 まとわりつくなにかを引きはがそうと、俺は丸い塊を鷲掴みする。


「なんだよこれ!!」


 バッと顔の前にそれを持って見つめてみると、大きな口を持つ何かだった。

 ヨダレを垂らしながら、俺の顔を見つめる化け物。


「……え?」


 その化け物が口を開くと、一瞬で俺の顔を咥える。


「ちょっと!! リュート!」


「……!?!?」


 ジタバタし始めると、体がだんだん浮いていくのがわかった。


 首痛い首痛い首痛い!!!!!!


「採取成功! やったね!」


 その化け物は俺を浮かすと、建物の頂点まで連れて行かれる。


 薄い膜から見えるのは、月の明かりを背景に腕組みをする1人の少女。

 赤髪のツインテールで、真っ黒でフリフリのワンピースを着る少女が見えた。

 ニコニコしながらこっちに近寄ってくる!


 え、なに?! 怖いんだけど!


 あ、てか、ここって息できなくね?

 まってぇ、苦しい!

 死ぬって、ちょ、ツインテールさん!!


 ◆◆◆◆◆◆


 リュートは黒い塊に捕まって動けないし、民家の頂点に登ってしまってどうしようもなくなってしまった。


 私は、空を飛ぶような魔法を持ってないし、空間転移もできない……!


 てか、月明かりに照らされた少女は誰?!


 そんなことを思っていると、少女は高笑いをし始める。


「どうだい! 私のベルちゃん、とても有能でしょう! ねぇ、カノン!」


 聞き慣れた声。

 憎たらしい挑発に、ツインテールの赤髪。


「あっ……あなたは!!」


 カノンは月明かり越しに小さな体を見つめる。



 風が強く吹いている。

 服がなびいて、彼女の存在を一段と大きくして行く。

 年下のくせに、いつまでも生意気な態度! もしかして、あの子は……!


「御機嫌よう、西の王女!! 久しぶりね! 6年ぶりかしら?! 私の名前は、『ウィリアム・サーデリア・テル』!! 北の王女といえばわかるよね!! とりあえず、リュート君は私んだ!」


 ベーって舌を出すと、お尻ぺんぺんをする。

 なびかれる黒いワンピースがテルのボディラインをぴったりと映し出す。

 豊満な胸がワンピースの中でプルプルと揺れる。

 その割にとても身長が低く、見た感じは中学生くらいだろうか。

 てか、なんであの子がここにいるのよ!


「まぁ、なんて下品なの! むっきー! あなた、いつまで幼女の身長なの! オトナになりなさいよもうちょい!」


 下で見上げるカノンの憤怒ぶりに、テルはあまりにも愚かな民を見下すかのように高笑いをする。


「あーっはっはっは! そこで見ているだけの下民に私の先を越せるわけないじゃない! てか、私は立派なオトナだもん!」


 テルはお尻ペンペンしながらこちらの挑発をやめない。

 イライラと怒りゲージを上げていったが、私はふとあることに気づく。

 下から見えるテルの風景。


 その風景の中に、美しいはずのワンピースの奥に、なにやら魔物がいることがわかる。

 私は、あまりにもおぞましい姿に苦笑いをするしかなかった。


「な、なによその顔! 私に敵わないからってそんな顔するのやめなさい!!」


 テルは少しだけ顔を赤くすると、腕を組んで鼻を鳴らす。

 まぁ、本人には悪気がないと思う。

 そういう文化なんだろうな、うん。


「いや、それはどうでもいいんだけど、なんであなたパンツ履いてないの?」


「……え?」


 なびかれる薄くて黒いワンピース。

 今日はどうやら風が強いらしい。

 勢いよく吹いた下からの風で、一気にワンピースが顔の前までめくれ上がる。


「きゃぁっ!!!!」


 わさわさぁ!!


「うっわ! すごいっ!!」


 私は口を開けてその姿を眺める。

 すぐにテルはワンピースを股間の位置まで抑えて顔を赤らめる。


「見たわね! カノン! 私の……見たわね?!」


「うん……てか、あなたって身長の割に意外とボーボーじゃない。ちゃんと処理くらいしなさい?」


「っうるさい! うるさい! 私はリュート君に処理してもらおうと思ったの!」


 テルは半泣きになりながらカノンを見つめる。

 まぁ、パンツをはいてない時点で、なんとなく思ってたけど……。


「……変態ね、あなた」


「うるさぁい!」


 つづく。

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