第4話 エッチな事しようよ
「待て待てアリア! お前、自分が何言ってるのか分かってるのかよ?!」
「分かってますとも、私はあなたと交尾をしに遥々ここまで来ましたの。あなたの子供を産んで、育てて、立派に送り出す。これが私に課せられた運命ですの!」
アリアは俺のもう片方の腕を掴んで空いた方のおっぱいに置く。
ふにゅんと柔らかい感触が脳に伝い、興奮の全てをかき消すはずだった理性すらも性欲の波にさらわれて消えていった。
少しずつ、アリアの胸の肉を掴もうとしている俺がいたのだ。
指がおっぱいに食い込んでいくのを指先で感じ、彼女が目を瞑っていくのを見て心地よくなっているのだと分かった。
「あ、アリア! とりあえず話し合おうぜ! 俺は好きでもない女とエッチはしたくないんだ!」
「では、これから私のことを好きになっていただければいいですわ! たった一度だけ、たった一度だけだけでいい、私を妊娠させてくれるだけでいいんですの!」
「それがやばいっていってるんだよ! おい、パンツの中に手を入れるな!!」
アリアはもう完全にスイッチが入ったらしく、何をしても止まることはない!
頰の赤みが増していく彼女に欲情し行く俺の体、素直に反応を続けるちくわ型の銃口がアリアの手の中で暖かく膨らんでいくのを感じる!
「凄いですわね、もうこんなに大きくなって!」
「やめろ、やめてくれよ!」
くそっ!!
これは俺が大好きになった人だけに触ったり見せたりしたいものだってのに、こんな横暴な吸血鬼に犯されるなんて!
「ほら、リュート様。力をお抜きになってください。痛い思いはさせませんわ」
「いやだ、やめてくれアリア!」
「大丈夫。すぐに楽にして差し上げますから」
そして、彼女はついに俺のベルトに手をかけた!
だめだ、もうどうすることもできない!
魔法があれば良かった!
俺にも何か力があれば、俺は自分の力で助かったはずなのに!
畜生、こんな、こんな……!!
「助けてくれ! 誰か!」
「ふふっ、この結界内でどれだけ叫ぼうと誰にも聞こえませんわ。ほら、もう諦めるんですの!!」
「くそっ! くそぉっ!」
俺はひたすら身をよじっても、体は血線が絡み付いていて動くことはできない!
身を震わせるにつれ、血線が食い込んできて擦れて服が破けていく!
……なんで、なんでこんなことに?!
た、助けてくれ、誰か!
「助けてくれ! カノン!!!!!!」
そう、この叫びは彼女に助けを求めたという事だった。
カノンなんて、俺は嫌いだ。
だけど、俺は心の底から彼女を求めていたんだ。
なぜか、そんなの自分で聴きたいよ。
『泣かせた女は泣き止むまで一緒にいるのは当たり前だろ』
約束を破ったことに少なからず罪意識があったんだ。
あんな女でさえ、俺は気にかけてたってことさ。
ウザくてうるさくて高飛車でも、可愛くて泣き虫でずっと俺を追いかけてくれていた美人でおっぱいの大きい、俺の彼女……でもないか。
「やっと私を呼んだわね、遅いっての!!」
「「?!?!」」
そう言って俺の背後から現れたのは、黒髪の美少女だった!
片手に純銀サーベル、そしてもう片方の手にはめちゃくちゃ高そうなヴァイオリンが握られていたのだ!
「なっ?! カノン! 私の結界を破るなんて!!」
アリアはカノンの登場に驚いたのか、黒髪の少女を睨みつける!
「ふんっ! あなただって規則違反だっての! 悔い改めなさいっ!」
そしてカノンは純銀サーベルをアリアに向けて振り下げた!
が、しかし切ったのは血線、アリアの体は後ろの方に捻られるように現れた。
「か、カノン! 俺を助けにきてくれたのか?」
「当たり前でしょう! あんたがアリアに取られたまんま、私が諦めて大学で授業を受けてるとでも思ったわけ?!」
「い、いや! 俺がカノンに酷いこと言ったから嫌われちゃったかなって……」
「はぁ?! 何ガキみたいなこと言ってんの! 喧嘩なんて、悪いのは男の方に決まってるでしょ! 少しは反省しなさいよ! ったく!」
なっ?! この女、また俺に説教喰らわそうってか?!
まだハンカチのことは根に持ってんだぞ俺は!!
「テメェのせいで高級ハンカチが一枚吹き飛んだぞ?! それについてもう一度謝れよ! そしたら全部謝ってやるよ!」
「そういうところよ、ガキなところ! ほんと、私に言われて何にも気付かないわけ?! これだから成人してないお子ちゃまは嫌いなのよ!」
「〜!」
カノンはぷいっと俺から目を背け、わざとイラつかせる態度を取る!
畜生、ていうかどうやってここまで来たんだよ、このストーカー女!
「そ、それとさ。なんか、ありがとね」
「何がだよ! またなんか皮肉言うつもりかよ」
「ち、違うわよ。その……。私の名前、呼んでくれたこと」
「は?」
「あ、あなたが私の名前を呼んでくれなかったら、ここまでワープする魔法は発動しなかったのよ。あなたが本当に私のことが嫌いなら、きっと私の名前を大声で叫ぶことないでしょ? 気が気じゃ無かったんだからね? こっちは」
カノンは血線でぐるぐる巻きにされて動けない俺をちらりと見ると、目が合った。
そして、彼女は焦ったようにすぐにそっぽを向いてしまった。
「だから、その……。呼んでくれてありがと」
「べ、別にそんなつもりじゃないし……」
「で、でも! ハンカチのことはちゃんと謝ってあげるわ。それでも私のこと、嫌い?」
「……」
な、なんだ急に。
高飛車な雰囲気とは逆転して甘えん坊になりやがった。
も、もしかしてカノンって……ツンデレってやつか?!
「ど、どうなのよ、リュート!」
「……別にいいよ。またバイトして買えばいい。カノンが助けに来てくれたんだ、その分でチャラにしてやるよ」
「そんなんじゃダメ! 私がいけなかったんだから!」
彼女はなぜかここで食い下がり、『私をもっと咎めてくれ』とせがんでくる。
何故だろうか、不思議と暖かい気持ちが込み上げてきやがった。
「カノン。なんでそんなに俺の事を追いかけるんだよ?」
俺はそう聞いてみた。
すると、カノンは俺の方を見て再び目を逸らす。
もしかして、カノンってかなり男慣れしてなかったりするのか?
そんな印象を受けて数秒、彼女は俺の方を見てこう呟いた。
「リュートは私の彼氏だから! かな?」
その一言が俺の胸に突き刺さって心臓の鼓動を早くさせた。
な、なんだよこれ!
こんなサド女、俺が好きになるはずない!
なのに、こんなにも心が熱いなんて!
「……おしゃべりはその辺でいいですの? 私、あなたたちの演劇を見せられて少しだけイラついているのですけれど」
「あら、アリア。もしかして嫉妬かしら? そうそう、エッチ、断られちゃったんでしょ? こんなに恥ずかしいことったらないわよねぇ〜」
「なぁっ! ちょっとカノン! それは乙女心にヅキヅキくる言葉ですわ! 撤回しなさい!」
「やだね、私の彼氏に手を出したあなたが悪いのよ! ここで白黒はっきり付けようじゃない!」
「上等ですわ! 結界ももう張ってある、どちらが強いかここでハッキリしますわね!」
カノンはヴァイオリンを左手に持ち構え、純銀サーベルを弦の上に添えた。
そして、アリアも血線から取り出されたヴァイオリンを構え、二人は見合った。
「さぁ、カノン。準備はよろしくて?」
「あんたこそ、おしっこちびりそうなんでしょ?」
「まぁ、なんて下品なのかしら! リュート様、その女はやっぱりやばいですわよ!」
「そ、そんなことないわよ! 私の方があんな血塗れ女よりも純潔なの! そう思うでしょ、リュート!」
「いいや! 私の方が純潔ですの! カノン、そう言えばこの前エッチなおもちゃ売り場から出てくるのを目撃したとの情報がありますけど?」
「ちょ! なにその話! 私、知ーらない! リュート! 今のは嘘だから! ねぇ、聞いてんの?!」
「うるせぇ! もうなんでもいいから戦うなら戦えよ! 血線が食い込んで痛いんだよこっちは!!」
「「ご! ごめんなさい!」」
そして、カノンとアリアは再び見合う!
俺はそれを後ろから眺めてるだけだが、明らかに何か空気が変わった。
静まって数秒、木の葉の音すらも雑音に聞こえる闇夜。
弦が揺らす空気の音は切なく、耳に聞こえて消えていくのを感じた。
『カノン』
『G線上のアリア』
二人は小さくそう呟き、右手をゆっくりと引いた。
つづく。
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