第3話 演奏者と指揮者
◆◆◆◆◆◆
柔らかい肉が二つ、俺の頭を挟み込むように圧迫している。
目を開けてもそこには風景はなく、機能するのは触覚と嗅覚のみであった。
鼻に飛び込んでくるのは甘くてどこか危険な香りで、ぽよぽよとした弾力のあるボールが何度も何度も鼻に当たっては潰れを繰り返す。
幸せ、これは天国の心地であり、決して吸血鬼が俺の顔に血塗れの腐った肉を擦り付けているなんて
「あら、起きましたの? リュート様」
そう呟いて口元を隠す金髪の少女。
どうも顔を潰していたのは彼女の巨大なおっぱいのようで、首をパフパフしていたのは彼女の柔らかい太ももだったようだ。
「……起きましたの? じゃないぜ、アリア。いきなり俺ごと飛び降りたりするなよな、今でも落ちていく心地を肌で感じるんだが?」
「でも、なかなか新鮮な体験ではなくて? 一般人はビルから飛び降りたり壁をすり抜けたりすることはないでしょう?」
「その体験のせいで俺は気を失ったんだけど? お前たちみたいな魔法使いはみんな一般常識はないのか?」
「魔法使い……。そう呼ばれるのは心外ですけど、魔法は日常生活において欠かせないものなんですの。この世界で言うスマートフォンの電波のようなものなんですのよ、魔力は。あなたたちはスマホだけ持っていても何も出来ない。ちゃんと充電して、電波をつなげてやっと機能するものでしょう? 私たちの魔法もその類ですわ、火を起こすのも通信するのも空を飛ぶのもなんでも魔力でこなせますの」
「ほう……。つまり魔法使いは俺たちが機械を扱うのと同じように魔法を扱うってことか?」
俺は彼女のおっぱいの先がツンっと膨らんでいるのを延々と眺めながらアリアの話を聞いていると、彼女はムッとしたのか頰が膨らんだのが下アングルから分かった。
「あの、さっきから私たちの事を『魔法使い』って呼ぶの、やめていただけません? 私たちは決して『呪術』を使ってるわけではないんですのよ? 私たちの世界では、魔法使いってのは暗喩で悪魔に近い生き物を指すんですの」
「す、すまない。だって魔法を使うから魔法使いだろ? それ以外になんて呼べばいいんだ? 陰陽師? マジシャン? 手品師ってのもおかしいだろ?」
俺は少し冗談交じりに応え、ずっと口元を隠して喋る彼女を笑顔にしてやろうかと思ったが、どうも彼女の鉄仮面はかなり頑丈に出来ているらしい。
彼女はプルリと胸を振りながら立ち上がるから、俺もつられて立ち上がる。
「私たちは魔法は魔法でも、人の血や肉片を煮込んだりする呪術なんて使いませんの。呼ぶとしたら、『
「シンフォニカ、コンダクター?」
ここで聞いたのは、意外な言葉だった。
禍々しい響きの単語が出てくるのかと思えば、まるで音楽の記号のような名前だった。
「そう、私たちの魔法は空気の調和を扱っていますの。空気を集めれば水滴が集まって水が出来る、空気をぶつかり合わせれば火が出せる、空気を外へと追い出せば、気圧が下がって氷ができる。擦れば電気が、打ち付ければ爆発、捻れば風が、爆発の応用で光を生み出したり、光の反射を遮断して闇を作り出すこともできますわ。要するに、私たちが使っている魔法と言うのは単純に空気の調和のコントロールですの」
「ほ、ほう。つまり、空気を震わせたりできるから『
「そう言うことですわ。そして『
そう言ってアリアは俺のことを見つめて口元を隠して微笑んだ……と思う。
そういえば、ここはどこだろうか。
気絶してから随分と時間が経ったようで、ここら辺はすでに真っ暗。
コンクリートの地面と赤い三角コーンや駐車された車が見える。
この情報から思い出せる場所と言えばデパートの駐車場かパチンコ屋の駐車場くらいだろう。
とりあえず何かの駐車場の端っこに俺たちはいるようで、薄っすらとしかアリアの顔を見ることができなかった。
対する吸血鬼であるアリアはこれくらいの暗闇の方がいいのだろうか?
「そ、それでリュート様。何故私があなたを追っているかカノンから聞きました?」
アリアは突然俺から隠れるために顔を手で覆い、まるで恥じらう乙女のような態勢を取り始める。
「あ、そう言えばお前らの目的ってなんだ? カノンからそれを聞きそびれちまったんだ。俺に告白したのは理由があるとかどうとか」
「……まだあなたが追われる身である理由は知らないんですのね。それは大丈夫ですわ、あなたはあなたがすることを全うしていただけたら良いだけですもの」
アリアはもじもじしながら俺に何かを伝えようとしてくるものの、未だに俺は間抜けな犬のような顔しかすることはできなかった。
だってそうだろ?
いきなりカノンみたいな美女から告白されれば何か裏があるに違いないと思うだろ?
金髪の少女に連れ去られ、こんな薄暗い場所に連れてこられたんだ。
そ、そうか。
やはりそう言うことか……!
「や、やめてくれ。俺が何をしたってんだ」
俺は急に足がすくみ、アリアから一歩ずつ離れるように歩く。
「な、どうしたんですの? リュート様」
「お、お前、俺の血を吸う気かよ? 俺の血はそんなに美味しくないぞ? 難病を抱えてんだ、コッチは!!」
「は、はい? 何故私があなたの生き血を啜らなければならないんですの?」
アリアは目を細めて俺の首筋を舐めるように見てくる!!
「アリア! お前は吸血鬼なんだろ?! 俺の血に特別な何かがあるんだな?! カノンも『誰にも取られないように』なんて事言ってたぞ!! そんなに俺の体は貴重なものなのか?!」
俺は自分のうなじ部分を手で覆って血を吸わせないように態勢を整えるが、彼女は急にぷすっと吹き出しながら笑いだしたのだ。
「吸血鬼が全員生き血を啜ると思ってますの?! それは傑作ですわ! あはははは!」
「な、何がおかしいんだよ! 吸血鬼、その名の通り血を吸う鬼なんだろお前ら!」
「それはそうですけど、私のようなヴァンパイアガールは生き血なんて飲みませんわよ! 生き血を啜るのはヴァンパイアの中でも特に魔力の強い『ヴァンパイアロード』だけですわ! 彼らは自分の城を築き上げるために大量の血が必要ですの。その時に血を吸うから私たちの種族は吸血鬼だなんて言われてますの。そんなにやたらめったら殺戮なんてしませんわよ! あぁ、お腹痛い!!」
彼女は俺の発言と行動にツボったのか、金髪を全身で揺らしながら笑ってみせたのだが、こちらは何が面白いかなんて全く分からない。
「じゃ、じゃあアリアはなんで俺を狙うんだよ? 俺を殺す事以外にこんな所に連れてくることなんてないだろ?」
爆笑するアリアにそう尋ねると、彼女は急に笑うのをやめて俺の方へと歩いてくる。
血を吸わない吸血鬼、だとしても知らない女だ。
俺はどんなに彼女が美女だったとしても心の隙を見せるようなアホな行動は取らなかった。
「私、一度だけ経験がありまして、どんな風に動けばいいかは熟知してますのよ?」
アリアは急に首に巻きつけていたリボンを緩めて右ポケットにしまった。
そして胸元にたくさんあるボタンを取り、豊満な胸の谷間を俺に見えるようにちらつかせる。
「お、おい! なんの真似だよ!」
「ふふっ、やっぱりリュート様は感度がよろしいようで。私のおっぱい、好きなんでしょう?」
彼女はじりじりと俺に近づくに連れて服を脱いで行き、ぱさりぱさりと地面に服を脱いでいく。
「ちょ、アリア!! それ以上脱いだら半裸になるぞ! ここ野外だろ! 誰かに見られたらどうするんだよ!」
「大丈夫ですって。そんな配慮くらいここに来た時からしてますわ。周りからは私たちのことは見えていない。思う存分楽しんでいただけると思いますわ!」
彼女はそう言って最後の布であるブラジャーを取って後ろに投げ捨てた!!
チラリと見えたピンク色に膨らんだ大きな胸を視界に入れた瞬間に俺は目を閉じた!
何が起こってるんだ一体!!
そしてこれ以上後ろに下がれない!
透明な壁を手で摩り、俺は気付かないうちに籠の中に閉じ込められていたことを知った!
こ、こんなことって……!
「やめてくれアリア! お前の目的は一体なんなんだ?!」
俺はアリアを視界に入れないように前に手を出す!
これ以上近付こうものなら、女であるアリアでも容赦しないからな!
っなんて思っている俺だったが、再び俺の体は硬直して動かなくなる。
縛り付けられた様に右腕は動かなくなり、俺の首がぐっと吊り上げられた。
アリアの飛ばした血線が俺をぐるぐる巻きにしたのだろう。
「リュート様。私を見てください。こんな吸血鬼の女の子でも、愛していただけますか?」
アリアは俺の顔の前に顔を近づけ、俺の熱くなった頰をペロリと舐めた。
動かなくなった右手に触れるのは、先端がぷっくりと膨れた彼女の大きめなおっぱいで、手のひらに硬いものが当たっているのが分かった。
そして彼女の手が俺の分身を擦り始める頃、アリアは耳に舌を入れながらこう囁いたのだ。
「私、リュート様と子供を作るために会いに来ましたの。どうか、私と子作りしていただけますか?」
その一言が脳天を撃ち、思考を全てバラバラにぶち壊した。
大学生、春。
入学して2日目、初めての授業をサボってこんな淫らな女の胸を揉んでいる。
これって……やばくないか?
「……はい?」
つづく。
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