2話 瀬尾くん
東京は生きていくだけで大変だ…
朝は毎員電車の中で押しつぶされながら登校しなきゃいけないし、建物はどこもかしこも高いし、何に急いでるのか人々は皆せかせかと歩いているし、
到底わたしは東京に慣れる自信など微塵もなかった。
学校に少し早く着きたいがために、電車の時間をいつもより早くしたのが運のつきだった。
最悪だ…
乗る電車を早くしたせいでこの時間帯はいつもよりぱんぱんに人が詰まっていて、車体がはちきれるのではないかと思うほどだ。
必死の思いで学校に着いたはいいが、瀬尾くんを探し出す体力と気力はわたしには残っていなかった。
「東京の電車はほんまに人が多すぎる…」
小言をほざきながら靴箱で靴を履き替えていると、
『 あ、昨日気絶してた子じゃん!』
びっくりして、わたしの背後でした声の方へ振り返った。
「なんで知って…」
『なんでって俺が保健室まで運んだんだよ。あ、気絶してたから覚えてないかー』
もしかして…
「…瀬尾くん??」
『そう!なんで知ってるの?』
「昨日保健室の先生に聞いて。
あの、運んでくれてありがとうございました。」
『いいのいいの!怪我、してない?』
そう言って柔らかく微笑む瀬尾くんは、私よりだいぶ背が高くて、焦げ茶色の髪の毛が似合う優しそうな男の子だ。
「大丈夫です。無傷」
『ははっ、それはよかった。
あれ、てゆうかきみの顔見慣れない気がする…』
「あ、はい昨日香川から転校してきました。」
『そうなのかあ!転校生なんだ!よろしくね
俺、2組の瀬尾 匠。』
「あ、3組の百瀬 知華です。」
『百瀬ちゃんね。百瀬ちゃんは同い年なのにどうして俺に敬語なの?? 』
「え、えっと、方言出ちゃうので…」
『えー!方言かわいいじゃん!聞きたいからタメ口で話してよ。ね?』
「う、うん…ありがとう」
ちょっと強引だけど、いい人だなあ
瀬尾くん。
そんな呑気ことを考えながら2人で教室まで向かっている途中、
階段を小走りで駆け上がる女の子に追い抜きざま、舌打ちされた気がした。
え…?
困惑して瀬尾くんの方を見たが、彼は先ほどからずっと好きなパンの種類について語っているので、舌打ちは全く聞こえていないようだ。
わたしの聞き間違いかな…
そう思って、再び瀬尾くんの話に相槌を打つ。
けれど確かに聞こえた舌打ちの音が、
左耳に残ってしばらく離れてくれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます