第5話 おしゃべりな賢者
ハァハァハァ
息を切らしてちかちゃんはオランウータンさんのお部屋へやってきました。
周りを見回してもお母さんとお父さんの姿は見当たりません。
「…お母さん。…お父さん。」
小さくなっていた不安がまたちかちゃんの心を覆い被そうとしていました。
その時です。
「あなたがちかちゃんですかな?」
お部屋の中からオランウータンさんがちかちゃんに話しかけてきました。
「あ、こんにちは。オランウータンさん。そうだよ。ちかちゃんだよ。」
ペコリと頭を下げて挨拶します。
オランウータンさんも深々と頭を下げて挨拶してくれました。
「ゾウさんから話は、聞いていますよ。迷子になってしまったんですね。
ちかちゃん。さぞ悲しいでしょう。」
堪えていた涙が溢れてきました。オランウータンさんの優しい微笑みと優しい喋り方が今まで気を張っていたちかちゃんの心を緩ませたのでした。
「繋いだ手を離してしまったのかな?」
ちかちゃんは、小さく頷きました。
涙が溢れるのを隠すようにうつむきました。
「そうか。そうか。一人で心細かったでしょう。頑張ったね。」
オランウータンさんは続けます。
「でもね。ちかちゃん。
同じくらいお母さんとお父さんも悲しんでいるんですよ。ちかちゃんと同じくらいどうぶつえんを探しまわっているんです。」
ちかちゃんの胸がぎゅっとしました。
「ちかちゃんは、もうお姉さんですね。でも、お姉さんなら一人で大丈夫ということじゃないんですよ。お姉さんというのは、みんなを思いやることができるようになったということ。お母さんやお父さんが言うことは、ちかちゃんを思いやって言ってるのです。」
ちかちゃんは、また小さく頷きました。
「うーん。ちょっと長くなってしまったかな。私はお喋りでねぇ。困っちゃいますなぁ。ふぁっふぁっふぁっ」
「さぁ、ちかちゃん。お母さんとお父さんはここをまっすぐ行った四角い建物の中にいるよ。お行きなさい。」
オランウータンさんの大きな手の指差す方に四角い建物がありました。
「オランウータンさんありがとう。ちかちゃん、今日で4歳なのにお姉さんじゃないみたい。」
ちかちゃんは、うつむいたままでした。
「ちかちゃんは、お姉さんだよ。みんなに挨拶出来てたね。しっかりありがとうを言えただろう。思いやるとは、そういう事なのさ。」
そう言って、オランウータンさんは大きな手を振りました。
ちかちゃんもうつむいた顔をあげ、オランウータンさんに手を降りながら四角い建物へかけていきました。
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