麻婆豆腐から浮かび上がる元カノの顔ッ!

ぶるすぷ

麻婆豆腐から浮かび上がる元カノの顔ッ!

 ケンはどこにでもいる高校一年生。

 喉にゼリーをつまらせたことに驚いてショック死した、元彼女のミノリの葬儀に出た後、現在は最寄りの中国料理店にて夕食を食している最中だ。


 その店は、ケンが死ぬ前のミノリと一緒によく来ていた店だった。

 いつもどおり活気のある店内の様子に対し、ケンはどこか寂しげな様子だ。

 それもそのはず。先程ミノリの写真を前にお線香を上げてきたばかりである。

 むしろ、葬儀の直後にガッツリ麻婆豆腐を食べられる彼の精神は修行僧もびっくりの図太さだ。不謹慎とも言う。


 すると突然、麻婆豆腐から浮かび上がる元カノの顔ッ!


 唖然とするケンは、とりあえず落ち着くために店のトイレに避難するが、洋式トイレの蓋を開けると水面に浮かび上がる元カノの顔ッ!


 そして脳内に直接響く声ッ!


『私だよ! ミノリだよ!』


 ケン、発狂ッ!


『私、あと三年で賞味期限が切れる幽霊になったの! キッチリ三年後に消滅するの!』


 ケンは元カノの話を理解することを諦め、とりあえず自分の席へと戻り麻婆豆腐を食べようとしたが、そこに浮かぶミノリの顔ッ!

 構わずスプーンですくい上げるケン。おっと、元カノの右頬が欠損してしまった!


 ギャー! ギャー! とケンの脳内にて悲鳴を上げるミノリ。

 そのあまりの騒がしさに、ケンは元カノの顔が浮かび上がる麻婆豆腐をかき混ぜるッ!

 原型を留めない元カノの顔の上に、更に追撃のラー油ッ! 


 再度顔が浮かび上がる前にケンは麻婆豆腐を完食すると、背中に何か幽霊的な気配を感じつつ速攻で帰宅。


 尿意を催したケンは自宅のトイレに向かい扉を開けると、鏡の中でスマホをいじるミノリッ!


「何してんだよ」


『周回』


 呆れたケンがトイレに座ると、鏡の中のミノリが消え、トイレの水面に!


『うわ、ち〇こでかい!』


 大切な何かを失ったケンは思わず放尿ッ!

 放たれたソレは水面に浮かぶ元カノに直撃ッ!


『ギャアアアアア!』


 加えてケンの大が投下ッ!


『ギャアアアアアアアアア!』


 ケンはすかさず”大”のボタンをポチッ!

 トイレの水と一緒に流されていく元カノの顔ッ!


 すぐさまトイレから出たケンは自分の部屋へと向かい扉を開ける。

 すると壁の木目に浮かぶミノリの顔ッ!


『夜這いしてもいいよ?』


 ケンはポスターをかぶせ、元カノの鼻あたりに画鋲をグサッ!


『ギャアアアアアアアア!』


 パジャマに着替え布団に潜り込んだケンがスマホを持ち出しお気に入りのゲームを起動!

 するとゲーム内のヒロイン的キャラがミノリに変化ッ!


『ミノリだよっ☆』


 そしてゲーム内の王子様的超絶イケメンキャラがミノリにプロポーズッ!

 ミノリ、大興奮! 了承ッ! 浮気ッ!


 ケンは速攻でスマホを閉じて、目の前の壁にめり込む半透明のミノリを観察!

 ミノリは唐突に口をすぼめながらケンの唇へと侵攻!

 そして貫通ッ!


 元カノ幽霊の暴走は止まらない!




 そして三年後――。


 トイレの水面に元カノの顔が浮かんでいる状況で自慰行為に及ぶことができるほどに進化したケンは、馴染みのある中国料理店にて麻婆豆腐を食べていた。


 最近は、全裸姿で浮かんでくるミノリの二つのPAIを潰してから食べるのがケンのお気に入りだ。

 PAIを削られた元カノは、麻婆豆腐の海の上で死んだフリをしている。既に死んでいるのでフリではないが。


 食べ終わった後、ケンはミノリの墓参り。

 花瓶の水を交換し、花を戻す。コップに保温容器から取り出したお茶を注いでお墓の前に。お線香に火をつけてから手を合わせる。


 すると線香の煙に浮かび上がる元カノの顔ッ!


 こんな状況で拝まなければならないケンの心境は、意外にも冷静沈着!

 進化したケンの図太い心に、元カノの顔が煙に浮かんで話しかけてくる程度の精神攻撃は効かないッ!


『今日は私が死んでから三年。三周年なんだよ! 知ってた?』


 知っていたからケンは墓参りをしているのだッ!

 そして”三周年”という言葉の使い方を大幅に間違っているッ! これほど不謹慎な”三周年”の使い方をした者がこの世にいただろうか! いや、いないッ! 史上初ッ!


『私の賞味期限、もうすぐ切れちゃうんだ。そしたら消えちゃうんだ』


 元カノの顔が煙に浮かんで話しかけてくる程度の精神攻撃は効かないケンも、流石にこの言葉には寂しそうな表情ッ……。


『もう、麻婆豆腐に浮かんだりトイレの水に浮かんだりできないんだ……』


 流石にこの言葉には嬉しそうな表情ッ!


「いままでありがとう」


 嬉しさを隠そうともしないケンは満面の笑みッ!


「そしてさようならっ……!」


 ケンの頬に流れるのは嬉し涙ッ! 


「悪霊退散ッ……‼」


 おっと本音がッ!


 するとミノリが淡い光に包まれ始める。


『ずっと私のこと、想っててね?』


 スマホゲームで即浮気した女の言える言葉ではないッ!


「それは流石に無理、でもなくもない」


 本音を出しかけたケンはちょっと誤魔化すが誤魔化しきれていないッ!


『アっ、逝くッ』


 対象年齢が上がりそうな言葉を残して元カノ消滅ッ!


 ケン、喜びのあまりガッツポーズを決めて謎のコサックダンスッ!



 墓参りを終えたケンは、うきうきの表情で帰宅。

 トイレにて、水面に元カノの顔が浮かび上がるのを待つこと無くスッキリ尿意を解放。

 スマホゲームにて、元カノの顔をした敵を残滅し若干の罪悪感に苛まれる、などということもなくゲームを楽しむ。

 布団にて、壁にめり込んだ元カノの貫通キスを待つこともなく心地よく就寝。


 翌日、いつもの中国料理店にて麻婆豆腐を食べようとした時、スプーンを持ちながらミノリの顔が浮かんでくるのを待っている自分に気づいたケンは苦笑い。


「なんだか、調子狂うなあ」


 若干の寂しさ。

 昔から仲良しで、ケンが唯一心を許して遊ぶことができたミノリとはもう会えないのだ。

 スプーンを置いたケンは、ため息を一つ。


「もう一度だけ、出てくれないかな……俺、何馬鹿なこと言ってんだろ」


 すると突然、麻婆豆腐から浮かび上がる元カノの顔ッ!


 唖然とするケンの脳内に直接響く声!


『私だよ! ミノリだよ! 今日からケンの守護霊! よろしくね!』


 ケンは落ち着くために店のトイレ、の水面に浮かび上がる元カノの顔ッ!

 発狂ッ!


 席に戻ったケンは、麻婆豆腐に浮かぶ元カノの顔を混ぜるッ! そしてラー油の追撃ッ!


 今日もケンは麻婆豆腐を完食したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

麻婆豆腐から浮かび上がる元カノの顔ッ! ぶるすぷ @burusupu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ